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第108話 全てを癒す聖女(本当はユニコーン)

 ユニコーンに跨り進むセシリアの横を歩くロックとミルコ。そして後ろについて来るボルニアや兵たち。

 セシリアを乗せ誇らし気なユニコーンことラファーの気高き姿に、周りのみなも誇り高くなり胸を張って行進する。


 そんなみなとは対照的にラファーの背中に乗るセシリアは浮かない顔でため息をつく。悩む姿もまた美しいとラファーに思われているとは思いもしないセシリアは、早く目的地の場所に着けと祈る。



 ***



 尾である蛇をフリフリ、竜の翼をバサバサ、とさかをペチンペチンさせ地団駄を踏むのはコカトリスである。ちなみに名前はピエトラと言うらしい。


 セシリアを乗せたラファーが現れると一瞬殺気だったピエトラだったが、ラファーが一にらみするとしゅんとしおらしくなってしまう。

 お互い長く生きているだけあって知り合いらしく、どうやら力関係はラファーの方が上らしい。


『お前の住む場所はここではないだろう。なぜここに来た?』


 ラファーが尋ねると、目を丸くして驚くピエトラだが話を聞いて欲しい気持ちの方が強かったらしくせきを切ったように話し始める。


『聞いてよ聞いてよ! フレイムドラゴンの旦那が暴れるから僕の巣は転がってきた岩で埋まっちゃったのさ。酷くない? 酷くない? ねえラファーそう思わない?』


『フレイムドラゴンだと? フォスのおっさんが何百年に一度の寝返りでも打って溶岩に尻尾でも落としたか……おっと、セシリアお嬢さんがピエトラに話しがあるんだった』


 ラファーに話を譲られ、角を握ったままのセシリアはコカトリスへ話し掛ける。


「お尋ねしますけど、ピエトラさんは住処が元に戻ったらまたそこに住みますか?」


『おやおや、可愛らしいお嬢さんあなたも羽がはえてますが同類ですかね? もしもそんなことが可能ならもちろん住みますよ。あそこは住み慣れた僕の家ですからね。うんうん、住むね。間違いない! でも岩だらけだし無理無理。なにせ僕の手や脚じゃ岩は除けられないんだ。物を石にするのは得意なんだけどね』


 話を聞いたセシリアは上を向いて少し考える素振りを見せたあとピエトラに目を向ける。


「私の名前はセシリアと申します。ピエトラさんの住処を元に戻すようにこの国の人たちにお願いしてみます。少し時間をもらえませんか?」


『人間が僕の住処を戻すってのかい? そんなことあるわけないないよ! だって僕を見ると攻撃してくるんだよ。酷くない? 酷くない?』


 過去のことを思い出し腹立ったのかピエトラは再び地団駄を踏む。


「ごめんなさい、謝っても許してもらえないでしょうけど、今回だけ巣を修復することは信じてもらえませんか?」


『んー、人間ども器用だし数もうじゃうじゃいるから確かに出来そうだけど僕のためにやるってのがどうにも信じられないなぁ。うん、信じらんない』


 ピエトラが羽をバサバサしながら首を横に振り否定する。


「言い方は悪いですがピエトラさんのためでなく、人が自分たちのためにやるのですから間違いなくやります。ピエトラさんに危害が加えられないよう監視もつけますから巣の修復に関しては信じて欲しいです」


 セシリアが強く訴えるとピエトラはセシリアの紫の瞳をじっと見つめる。


『僕ねこう見えて悪意には敏感なんだけどお嬢さんの言葉ってすごーく純粋なんだよね。ただ人間を信じろって言わない言い方とか好きだな。うーん、人間は嫌いだけど可愛らしいお嬢さんのことは信じちゃおうかなぁ。うーん、よし! 信じる。ラファー、この可愛らしいお嬢さんって面白い子だね』


 ホッと胸を撫でおろすセシリアと代わってラファーがぶふぅっと鼻息を吐き胸を張る。


『ピエトラ、セシリアお嬢さんはな実は男の娘なんだ』


『男の娘? なにそれ? 興味あるよ。教えて、教えて!』


『いいか男の娘とは全てを兼ね備えた完璧な存在──』


 凄く得意気に話し始めるラファーを止めようとするが男の娘トークは止まるどころか、角をピエトラに付け聖剣シャルルたちも混ざってトークは加速し盛り上がる。


『へぇ〜凄いね男の娘。うん、僕も気に入ったよ。素敵、素敵!』


 ひとしきり男の娘トークで盛り上がったあとピエトラは満足そうに胸を膨らませ立派な鳩胸を見せる。


『ピエトラよ、お前を真のセシリアファンクラブ五号として認めよう。人間どもは知らない本当のセシリアを知る者だけが入れるファンクラブだぞ』


『わ~い、ファンクラブって仲間に入れたって意味だよね。五号としてセシリアの魅力を伝えるために頑張るよ。うん、頑張る!』


 鳩胸を叩いてやる気を見せるピエトラにセシリアはため息をつくことしか出来ない。


「では、石化した人たちを開放したいんでピエトラさんは離れてもらえますか。石化が解けた人たちがパニックになって攻撃してこないとも限りませんから」


 セシリアに言われ頷いたピエトラはそそくさと離れて木の影に隠れる。


「ラファーさんお願いできますか?」


『ああ任せてくれ。俺のもう一つスキル『癒し』は呪いや毒を解除する。石化を解くことなど容易いことよ』


 ラファーの角が神々しく光り始めると、ふわふわと綿菓子のような光の帯が現れ角を中心に螺旋状に回り始める。

 ラファーが頭を大きく振るとその光の帯は飛び散り、小さな光の粒子となり周囲に漂い始め石化した人たちや動物、木々へと降りそそぐ。


 光の粒が引っ付き仄かに光ったと思うと、そこを中心に灰色の石に色が付き広がっていく。

 コカトリス討伐に来て返り討ちにあった兵を中心に、巻き込まれた一般人や動物まで石化していたすべてのものが色を取り戻し動き始める。木々や草は揺れ始め動物や虫は足早にその場を立ち去り小鳥は空へ飛び立つ。


 突然動けたことに驚き自分の体をまじまじと見渡す人々に優しい声が掛けられる。


「みなさん体に痛みなどありませんか? 一度シュトラーゼの王都へと戻って診察を受けてくださいね」


 光の粒が漂う中心に立つ少女とその横に佇むユニコーン、この神々しいまでに美しい光景に石化から戻ったみなが見惚れてしまう。

 それは石化から戻った人たちだけでなく、離れた場所でセシリアを見守っていたロックとミルコたちも同じで光の粒に囲まれ奇跡を起こした聖女セシリアの姿に見入ってしまう。


 石化から戻った人たちを診てもらう為シュトラーゼへと送る兵たちは、聖女セシリアがコカトリスの巣を修復する約束をしたことを女王へ伝える役目と共に王都へと戻って行く。


 石化から戻った人たち一人一人から感謝の言葉を述べられ、それに笑顔で応える聖女セシリアのコカトリスの脅威から人々を救った伝説は瞬く間にシュトラーゼで全土に広がることになる。

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