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第104話 さすが聖女だと女王は言う

 トリクル女王の後ろを歩くセシリアは、まだ収まらない心臓の鼓動を押えようと聖剣シャルルをぎゅっと強く抱きしめる。体の上から押さえても意味がないことは分かっているが、それでもやらないと落ち着かないのである。

 先ほどのトリクル女王とのやり取りで強気に出てみたのは完全な賭けであり、これまでに出会った王たちが全てを肯定するだけでなく意見を述べるといい方向に向かった経験があったからである。


 上手くいったから良かったものの、トリクル女王の鋭い視線と威圧感を涼し気な顔で受け止めるのはセシリアにとってかなりの負担であったのだ。


『そんなに激しく抱きしめられたら、我壊れちゃうぞ』


 変な声が頭のなかに響いたのでセシリアは抱きしめていた聖剣シャルルにデコピンをくらわせる。


『その愛情表現もまた良き』


「ったくもー」


 戦闘時や有事の際は頼りになるが、普段は変なことしか言わない聖剣シャルルに呆れたセシリアは、頬を膨らませトリクル女王の後をついて行く。


「このシュトラーゼは聖女セシリアの目にはどう映る?」


「水の豊かな美しい国かと」


 足を止め振り返りセシリアに問いかけたトリクル女王がじっと見つめてくる。


(これは……試されてる気がする)


 トリクル女王が遠回しに自分を試しているとセシリアがそう思ったのは、言葉の端々から聖女と言う存在を信じていないと感じていた背景がある。

 噂だけをうのみにせず、自身の目で見極めようとする人なのかもしれないと考えたセシリアはトリクル女王の満足する答えを模索する。


 と言っても、見て聞いて経験したこと以上に気づきなどないから素直にまとめたことを口にするしかないのではあるが。


「美しい水郷(すいきょう)の都を有するシュトラーゼ。一見穏やかに見えますがどこか落ち着かない様子も……」


 表情こそ変えないがトリクル女王の瞳が僅かに揺れたのを見たセシリアは見逃さなかった。あえて思わせぶりに言葉を切って正解だったとセシリアはトリクル女王へ向ける視線の圧を強める。


「私はシュトラーゼには初めて来ましたが、日頃はもっと川の水が多いのではないですか?」


「ほう」


「それともう一つ気になったのが、王都を流れる水をくむ人たちが、くんだ水をひしゃくですくい道の端へまく光景が見られました。

 初めは道沿いに水をまく風習化とも思いましたが、みなの表情が少し曇っていたように感じました」


 モールドから聞いた話や、城に来るまでにアメリーたちと見た光景を強引に繋げて、あくまでも冷静にを心掛け語るセシリアのことをトリクル女王が興味深そうに見ている。


「町の人々の表情から察するに日頃は行わない行為、つまりは水に混じった何かを捨てる作業。そして下がった水位に下流に逃げて来たカニューの集団……これらを考えるとおそらく上流に問題があるのではないかと。

 その問題を抱えてるゆえに、まだ実害の出ていないプルウイ村にまで人を回す余裕がない状況なのではないでしょうか」


「ふふふ、面白いことを言う。じゃあその問題とはなんだ?」


 そんなこと分かるわけないだろうと思いながら、これも試されているのだと感じつつセシリアは慎重かつ大胆に言葉を選ぶ。


「ふふっ、トリクル女王様も面白いことをおっしゃいます」


 女王と聖女のやり取りに周囲はどうしていいか分からず右往左往しながら見守っていたが、二人が澄ました顔で笑って見つめ合ったとき緊張感は一気に高まり場が静まり返る。


「その問題を聞きにここへ私が来たのではないですか。トリクル女王様からおっしゃって頂かないと原因を取り除くためとは言え勝手に動くことはできませんよ」


 セシリアが少し皮肉っぽく笑みを浮べ言うと、しばらくの沈黙を経てトリクル女王は肩を震わせ始める。


「ふふふ、ははははっ! いや悪かった。私の負けだ」


 大きな声で笑い、笑い過ぎで出た涙を拭うために目もとを擦るトリクル女王をセシリアは澄ました顔で見つめる。


「シュトラーゼに来て日も浅いであろうにその気付きと原因に気付く鋭さ。そして私の国で勝手に動かないとう配慮はさすが聖女と言ったところだな」


 ひとしきり笑ったあと謝罪してきたトリクル女王に、セシリアは僅かに微笑みつつ無言で頭を下げ応える。

 それを見たトリクル女王も笑みを浮べ手招きをし、自分の横へ来るように促しセシリアが横に来ると歩き始める。


 並んで歩く二人の後ろをシュトラーゼの兵とたちが一緒に並んでついて行く。


「試すようなことばかりに言ってすまぬな。みなが噂をする聖女と呼ばれる者がどういう者か見極めたくてな。

 周囲からチヤホヤされているだけの女であれば追い返してやろうと思ったのだが、私の想像を超えた人物であったことに驚いている」


「いえ、私一人では何も出来ないですし、この知識もみなさんから頂いたもの。決して私一人の力ではありません」


「そう謙遜しなくてよい。部下や仲間の力を上手く使えるのも上に立つ者の力だ。自信を持つといい」


 トリクル女王はセシリアに笑みを向け、自信を持つようにと語り掛けてくる。それは先程までの腹の内を見せないための笑みとは違い、信頼している者へと向ける優しい笑みのようにセシリアは感じた。


「それでは改めて聖女セシリアよ、今私の国が直面している問題を聞いてくれるか?」


「はい」


 セシリアが力強く頷くと、トリクル女王は嬉しそうに微笑み語り始める。

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