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第11話 笑顔が見れたら良いなって

「あのぉ、ケッター牧師は大丈夫ですか?」


「はい、セシリア様の奇跡に感激して倒れただけですからご安心してください。よくあることですし。セシリア様が御気遣い頂いたこと、ケッター牧師へお伝え致します」


 セシリアがおそるおそる尋ねると、隣を歩くアメリーが深々と頭を下げて丁寧に答える。


「えーと、普通に喋ってもらって大丈夫ですよ」


「いえいえ、そんな滅相もありません!」


「あんまり丁寧だとその、目立つと言いますか、恥ずかしいと言いますか。なにより普通に話してくれた方が嬉しいんですけど」


「な、なるほど! あまり目立つとセシリア様を狙う不届きものなんかがいるかもしれませんものね! 

 それに幼少期から丁寧な扱いを受けたセシリア様、丁寧な扱い故に周囲と壁もあったはず! 心からの友だちが出来ず友情に飢えていて、冒険者になりそして友と呼べる存在にであった! それが私!! ええ、その期待にお答えしてみせます!」


「あ、いや、えー、もー」


「めんどくさい」もう少しで出そうになったその言葉を飲み込んで、セシリアは道案内をしてくれるアメリーと共に歩く。


「そう言えばセシリアは何で冒険者になったの?」


 ニコニコと笑顔で尋ねてくるアメリーの切り替えの早さに驚きつつも、セシリアはその質問になんて答えようか考える。


 お金を稼ぎたい、それもあるが根本的なきっかけを考えたとき、ふと自分が何かをやったことで両親や兄妹の喜んだ顔が思い浮かぶ。


「いろいろありますけど、強いて言うのなら依頼達成したとき喜んでくれる人の笑顔がみたいとかですかね」


 自分で言ってて恥ずかしくなったのか、笑って照れを隠すセシリアの姿を見たとたん、アメリーの目から大粒の涙が溢れだし感極まってセシリアに抱きつく。


「かっ、かんどーしましたぁ!! さすが奇跡を起こす方! 心の有り様が違います!!」


「くっ、くるしぃーっっ」


 アメリーの激しい包容に潰され溺れるセシリアは手足をバタつかせるが、アメリーの口から出た言葉が包容とは対象的に静かなものだったのでじっと耳を傾けてしまう。


「子供たちにリュシュオンフラワーの蛍火がすごく綺麗なんだよってお話したら、見たいって言われてね。それでつい安請け合いしちゃって困ってたの。

 セシリアがお花を見つけて、採ってきてくれただけでも嬉しかったのにあんな奇跡まで起こしてくれて、本当に感謝してる」


 セシリアからそっと離れると、目に溜まった涙を拭ったアメリーが優しく微笑む。

 泣いていて頬が赤くなっていたのも、目を擦って腫れぼったくなっていたのも含め、見せた笑顔はとびっきりのいい笑顔でセシリアの胸に刺さる。


「私が子供のころ見た蛍火が舞う光景を子供たちにも見せたかった。いいえ、それ以上の素敵なものをセシリアは見せてくれた。私も感動しちゃたもの。本当にありがとう」


「いえ、役に立てたのなら嬉しいです」


 なんだかんだあったけど、喜んでもらえたなら良かったとセシリアも笑みをこぼす。


「ここが町の市場がある広場になるわ」


 アメリー言われて当たり前を見回したセシリアは、見覚えのある場所であることに安堵のため息をつく。


「ありがとうございます。助かりました」


「ううん、お礼を言うのは私の方。セシリアの見せてくれた奇跡、絶対に忘れないから」


 お礼を言いながら微笑むアメリーの姿に胸の奥が温かくなったセシリアは、自分の胸をそっと押さえ微笑み返す。


 アメリーと別れ、宿に向かいながらセシリアは今日のことを思い出し物思いにふける。


「すごく慌ただしかったけど、結果人助けになったなら良いかな。冒険者らしいし」


 喜びを噛みしめた笑みを浮かべ、ふと思い出したのは宿に置いてきたお金。お金をきっかけに現実に戻ったセシリアは指を折りつつ使い道を考える。


「装備は整えるとして……あ、服は必須だな」


 改めて自分がスカートを穿いていること思い出して裾をひぱって確認する。


「あんなに沢山あってもなぁ。まあ、あるのは嬉しいんだけど、う~ん」


 自分の力で手に入れたわけではないお金に、折角もらったんだし自分の為に使ってやろうという気持ちと、何も活躍していないのに冒険者を目指す者としてそれでいいのか? と言う葛藤を心の中で激しくぶつけ、首を捻りながら歩くセシリアの視界に2つの小さな影が横切る。


「あれは確か朝の子供たち……」


 影が向かった方へ近付くと、建物の壁に寄りかかる男の子と地面にしゃがみこむ女の子がいた。

 誰かが見ていることに気付いた男の子は身を強張らせつつも、背中に女の子を隠し睨むが、近付いたのがセシリアだと気付くと吊り上がった目を少しだけ緩める。


 それでも警戒心を緩めないのは背中に隠す女の子の存在があるからだと理解しつつも、取りつく島のない男の子にセシリアは眉間のしわを僅かに寄せ、どうしたものかと困ってしまう。


「お兄ちゃん、おれい」


 背中に隠されていた女の子が男の子の服の裾を引っ張ると、男の子は振り向いて女の子に向かって頷いた後再びセシリアの方を向く。


「ありがと」


 明後日の方向に僅かに頭を傾け小さな声でお礼の言葉を言う男の子に、日頃言いなれていないのだと感じつつそれを笑ってはいけないとセシリアは真剣な表情で男の子に目を向ける。

 少年は一瞬目を大きくして驚いた表情を見せて慌てて目を逸らす。


「喜んでもらえたなら良かった。ところできみたちは何してるの?」


 男の子はセシリアから目を逸らしたまま黙っていたが、何度か口をパクパクさせた後小さな声で答える。


「ごはん……探し……」


 この言葉で大体を察したセシリアは考える。


 王都に限ったことではないがここ王都は華やかな分、他の町や村よりも貧困の格差が大きく、両親と死に別れてしまい行き場を失ったり、捨てられた子供たちがいると言う話を聞いたことがあること。

 今朝パンを盗みを止め、パンを施したことで一時的にお腹は満たされたが、夜になればお腹は空くわけで、結局また盗みに手を出すことになること。


 目の前にある問題の深さに考え込んでしまう。


 男の子の服の裾を握って薄汚れた顔でセシリアを見つめる女の子。自分一人だけでも大変だろうに幼い妹を見捨てずに必死に生きる男の子。


 どうにかしてあげたいと言う気持ちが湧いてくる。それと同時にただの偽善じゃないかと自分を否定する言葉も湧いてくる。


 この子たちだけを助けたところで貧困にあえぐ子供たちが救われるわけではない。それは自己満足じゃないかと思う気持ちに、自分が手を差し伸べることで一人でも、たとえ一瞬でも喜んでくれるならいいじゃないかと言い聞かせ、納得すると心と現実で同時に頷く。


 なによりもこの子たちが村にいる兄妹たちの姿と重なり、セシリアにはこのまま見捨てることが出来なかった。


「えっと、私の名前はセシリアって言うんだけど一緒にご飯食べない?」


 突然の提案に目を丸くする男の子の瞳がご飯と言う言葉を聞いて大きく揺らぐ。


「おにぃ、いや、えっとお姉ちゃんお腹すいてて、今からご飯食べに行くとこだったんだ。一人で食べるのは寂しいし一緒にどうかな?」


 もう一押しとセシリアが掛けた言葉に男の子の瞳が更に大きく揺らぐ。

 その期を逃さず男の子の手を取ったセシリアはもう一つの手を女の子に差し伸べる。

 女の子も一瞬目を大きくして驚くがすぐにセシリアの手を握ると、顔を緩めて笑顔を見せる。


「ほら、行こう」


 嬉しそうな笑みを見せる女の子と、顔を真っ赤にして引きずられるように歩く男の子を両手にご飯屋へと向かう。

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