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第101話 聖女も使いようかなって

 カニューとは簡単に言えばカニである。大きな違いと言えば立ったときの大きさが三メートル程度と人よりも大きいことである。

 ニャオトの言葉を借りれば、地球で食べるカニよりも若干大味であるが大きいゆえに食べ応えはあり満足感が半端ないとのこと。


 村人の案内で到着したフルーヴ川には、遠くからざっと見渡しただけでも十数体のカニューが確認できた。本来なら縄張り意識の高いカニューが一つの場所に集まって共存生活することは珍しく、モールドをはじめとした学者たちは興味津々と言った感じで観察している。


 軍隊長であるボルニアの指示によって素早く隊編成が行われると、作戦の説明がなされカニュー討伐作戦が決行される。


 セシリアと言うと聖剣シャルルを手にしたまま突っ立ている。


 魔族との戦いならばセシリアの持つ聖剣シャルルの力が必要だが、普通の魔物討伐となれば騎士団や冒険者たちの方が強い。

 今後の行われるであろう対魔族戦を想定しセシリアを中心に据え、その周囲を兵たちが指示に従い一糸乱れぬ動きで攻防を繰り広げる。

 冒険者たちを中心とした隊はカニューが逃亡しないように囲いつつ討伐していく。


 セシリアの目の前に現れたカニューの巨大なハサミを数人の兵が剣で受け止め、動きを止めたところを周囲を囲んだ兵たちがカニューのハサミや足の節を狙い剣や斧を振り降ろし切断していく。崩れ落ちるカニューの口に剣を突き立てとどめをさす。

 動かなくなったカニューの確認をする者と、次のカニュー討伐に向かう者に素早く分かれる兵たちの無駄のない動きにセシリアは感心しながら戦況を見守る。


『普通の魔物ですね。魔族の匂いも感じません』


 グランツの声がセシリアの頭のなかで響く。


『今回ははずれと言うわけじゃの』


「アイガイオン王国でも魔物の生息地の変化が観測されてるし、一概にはずれというわけでもないかもしれないけど」


『餌を求めて川を下ってくるほど上流で餌がなくなったのか、それともカニューを脅かす何かが現れたなど色々と考えられるな』


 カニューの大きなハサミが兵たちによって切断されるなか、四人による脳内会議は続く。


『この度のカニュー討伐を受けたのは魔族の動向を探るため……というわけではないだろう』


「魔族だからとかじゃなくて、困っている人がいれば助けるってのが冒険者としてあるべき姿かなと思うし」


 聖剣シャルルの問いに照れくさそうに答えるセシリアは言葉を続ける。


「シャルルたちの力を借りて、周囲の人たちに助けてもらわないと戦えないけど、私が聖女として困っている人を助けることができるのなら今の立場も役に立つのかなって」


『うむうむ、男の娘として生きていく決意しかと受け取ったぞ』


「いや、そんなこと一言も言ってないから。役に立つなら今は聖女として頑張るのもありかなって話」


 セシリアが手に持っている聖剣シャルルと会話している間にも、兵たちによるカニュー討伐は着々と進み周囲にはカニューの残骸が積み上げられていく。


 周囲の殺伐さが嘘のようにセシリアは剣を持ったまま優雅に立ち、優聖剣シャルルたちとの会話を続ける。


『討伐に向かうのに村長に気を使いつつ理由をつける言い回し! わらわは感動したのじゃ』


『あれは私も感動しました。相手に気を負わせない立ちふるまいはまさに聖女!』


 アトラとグランツに絶賛されセシリアは頬を赤くする。


「あ、あれは聖女らしく振る舞うならあんな感じかなぁ~って。ほら、シャルルが演技指導してくれたからそれを参考にしてね」


『立派になって我は嬉しいぞ。我が想像する聖女としての立ち振る舞いとして文句なしだ。立派な男の娘に育ってくれて感無量だ』


「まだ言う。あくまでも聖女として人を救えるならそれもありかもって話で、男の娘になったつもりはないから」


『うむうむ』


 はいはい、みたいな聖剣シャルルの物言いに頬を膨らませ不満をあらわにするセシリアだが、その姿がもう尊いとシャルル、グランツ、アトラの三人が心をときめかせる。


『セシリア様、二匹高速で近付いて来ます』


 グランツの声にセシリアが頷き、聖剣シャルルの鞘に手を掛ける。


 やられてばかりでいられるかと、二匹のカニューが怒涛の横歩き突進を繰り出し兵たちを押しのけセシリアに向かって突っ込んでくる。

 左右から土煙を上げ真っ直ぐ突っ込んで来るカニューの前にそれぞれミルコとロックが立ち塞がると、カニューの硬い甲羅を拳が砕き槍が風穴をあける。


 二匹のカニューが倒れるなかセシリアが聖剣シャルルを鞘から抜き、紫の眩い光を煌々と放ち始める。周囲のカニューが全て倒れたのに聖剣を抜くセシリアの行動の意図を読み取ろうとみなが注目する。


「みなさん下がってください。きます」


 静かに言い放つセシリアの言葉とほぼ同時に周囲の警戒を行っていた兵の危険を知らせる声が響く。


「上流からカニューの群れが押し寄せてくるぞ!!」


 水しぶきを上げながら一丸となって突っ込んで来る五匹のカニューが向かって来るのが見えた瞬間、セシリアが聖剣シャルルを真横に振るう。


 紫の光を放ち輝く斬撃はカニューの群れを真っ二つに切り裂き進行を食い止める。美しい光の斬撃とその凄まじい威力にみなが見惚れるなかセシリアが聖剣シャルルを鞘に納める。


「みなさんのおかげで無事カニュー討伐できました。ありがとうございます」


 背中の白い羽根が光となって弾け、空中にポンと出て来たグランツが足元に着地し聖剣シャルルを抱きかかえた聖女セシリアが微笑み、お礼を述べるとみなが雄叫びを上げ勝利を喜ぶ。



 ***



 その日の夜、カニューの身をふんだんに使った料理が振る舞われ宴が開かれる。


「せいじょさま、これおいしいよ!」


 アイーダが焼いたカニューの身をセシリアに差し出してくるので、セシリアが口を開けると嬉しそうに食べさせる。


「うん、美味しい」


 笑顔で応えるセシリアを見て嬉しそうにアイーダが次の食材を探しにパタパタと走り去って行く。

 入れ違いにやってきた村長たちがセシリアの前で頭を深々と下げる。


「思った以上に大漁でしたね。あまり日持ちはしないようですから早めに食べて下さいね。それと甲羅の方の処理はお任せしてもいいですか?」


 村長がお礼を言う前に掛けられたセシリアの言葉に村長は目を潤ませながら首を横に振る。


「本当に聖女セシリア様には敵いません。カニューの甲羅を売ったお金で聖女セシリア様の銅像を……」


「銅像はいりません。それよりも村のために使ってください」


 既にアイガイオンの王都、セラフィア教会、メトネ村と三体も作られてしまった自分の銅像をこれ以上増やしてなるものかとセシリアは村長の言葉を遮る。


「本当にありがとうございます。この御恩は決して忘れることはございません」


 再び深々と頭を下げてお礼を言う村長たちの足元をすり抜けて来たアイーダが、皿に盛られたカニューのから揚げを掲げる。


「これね、ものすごーーーく美味しいんだよ! せいじょさまのお料理する人たちが

 作ってくれたんだ」


 アイーダの屈託のない笑顔を見て微笑むセシリアは、カニューのから揚げを食べながらちょっぴり幸せを感じる。


(思い描いていた冒険者と違うけど、まあこれはこれでありなのかも)


 日が落ち空に輝き始めた星を見上げ、村人や兵たちの楽しそうな声に包まれながらそんなことを思うのである。

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