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姫プレイ聖女~冒険者に憧れた少年は聖女となり姫プレイするのです~  作者: 功野 涼し
聖女は里へ帰り北へと向かう

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第98話 聖女おこです

 ニャオトにとって遊戯語(ゆうぎご)で書かれた文献を読むのは苦ではない。どちらかと言えば元の世界の言葉に異世界で触れれることに喜びを感じている。


 そして彼はシズェア王が国中から集めさせた遊戯語(ゆうぎご)が書かれている資料を保管している資料室で、薄めの本を開き目も見開き遊戯語(ゆうぎご)を必死で解読している。


 ページをめくる度、薄い本の残りページがさらに薄くなり、描かれている女の子の服も薄くなる。そしてニャオトの息は荒くなる。


 次のページを開けばいよいよクライマックスに向けて怒涛の展開、いやむしろそこが本編の始まりである。


 そっとページを指で摘まみ息を吞んだ瞬間。


 スパーン!


 頭の後ろに強い衝撃が走る。


「なにを真面目に読んでいるのですか! ぜえ~ったいにそれ、今関係ないですよね!」


 頭を押えたニャオトが目を丸くしたまま後ろを振り返ると、そこには怒るセシリアが立っていた。自分が何をしていたか、そしてその様子を気になる人に見られていたことにニャオトは焦る。


「コッコレハ……ダイジナヤツ」


「むぅ~、それじゃあ声に出して読んでみてください。大事かどうか私が判断します」


 日頃怒らないセシリアに責められ縮こまってしまうニャオトは、視線を薄い本に視線を落とすがどこをどう読んだって大事なことは書かれていない。


 声を出して読んだところで結果は目に見えている。これ以上嘘をつくのは無理だとニャオトはあきらめる。


「ゴ、ゴメンナサイ」


「まったくもぉ〜」


 両頬を膨らませ呆れながら怒るセシリアは、腕を組み仁王立ちしているがその姿は怖いと言うよりも愛らしい。


「なんで怒っているのにニヤけているんですか」


 ぎろりとにらむセシリアの視線に再びしゅんと縮こまるニャオトを見てセシリアはため息をつく。


「資料を読み解く作業は大変でしょうけど、こういう本を読むのはあまり感心しません。まあ男の人がこういうの好きなのは理解できますが」


「男の人がこういうの好きなのは理解できます」は男としてのセシリアの意見であるが、ニャオトは「まったく男の人ってしかたないですから。私の前で読むのはやめてくださいね」的な違う意味で捉えらてしまう。


 卑猥な本を読む男に「本当に好きなんだからもぅ」と怒る彼女、そんなシチュエーションを想像しニャオトはニヤけてしまう。


「セシリア様、シズェア王がお呼びです」


「分かりました。すぐに行きます」


 セシリアが伝言を伝えにやってきた従者と会話を終えるとニャオトを指さす。


「薄い本とか読まないで頑張ってくださいよ」


 こくこくと必死に首を縦に振るニャオトを見てセシリアが笑う。


「作業大変でしょうから、ちゃんと休憩はしてくださいね。無理はいけませんよ」


 そう言ってセシリアはくるっと回って背を向けると急ぎ足で部屋を出て行く。去り行く背中を見て異世界転移して本当に良かったと幸せを噛みしめ、分厚い資料を開き翻訳に励む。



 ***



 廊下にでて速足でシズェア王のもとへ向かうセシリアの隣にラベリが寄って来て引き止めると、鏡を持ったアメリーの前に立たされ髪をくしでとき始める。


「ビーナの蜜を髪にぬって保湿するなんてものもありますから、髪へのダメージは無いと思いますけど、まだキシキシしますか?」


「う、うん。なんかまだベトベトしてる感じがする」


 セシリアはビーナの蜜を頭から浴びたことを思い出しテンションの下がってしまう。


「なんだかよく分からない液体を全身に浴びて、男の人に囲まれ涙目で帰って来たセシリアを見てびっくりしたもの」


「い、言い方! それになんでくねくねしてるのさ!」


 顔を赤くして鏡を持ったままくねくねするアメリーにセシリアが怒るが、当の本人はどこか想像の世界へトリップしているようでまったく聞いていない。


「そこの変態シスター、ちゃんと鏡を持ってくれますか。くねくねするせいでセシリア様のお仕度ができないんですけど」


「変態シスターとは失礼なこと言うわね!」


「事実です。それよりもちゃんと鏡を持ってください変態シスター」


「むぅ~変態って言う方が変態なのよ!」


「なんです! このちょー普通な私を変態と呼ぶとは許せんません!」


 セシリアは自分を挟んで口喧嘩を始める二人にため息をついてしまう。



 ***



 セシリアはシズェア王が従者に持ってこさせた資料を手に取り、一通り目を通したあとシズェア王に目をやる。


「この間アイガイオン王国に現れたオルダーと名乗った魔族はシズェア王国の北西を通った可能性があると言うことでしょうか」


「うむ、フルアーマーの騎士と馬が物凄いスピードで駆け抜けるのを見たと、たまたま山の中で山菜採取のクエストを受けていた冒険者からの報告があったのだ。

 遊戯語(ゆうぎご)は各地に残っておるであろうからどの国へ向かっても問題ないせであろうが、今現在動いている魔王軍の動きを追うことも有効だと私は思う」


 大きく頷きながら答えるシズェア王の言葉を聞いてセシリアは再び資料に目を落とす。


 シズェアの北西を辿ると行きつく先はシュトラーゼと呼ばれる国。


「シュトラーゼは北にあるフォティア火山からもたらされるトロップフェ湖を有する水の豊かな国であり、自然にお湯が沸くことから大浴場や温泉と言われる珍しい文化がある。私も何度か入ったことがあるが疲れもとれとても気持ちが良いからオススメするぞ。

 おっと話が逸れたな、シュトラーゼはトリクル女王が統治する国だ。聖女セシリアの動向は把握してるはずだが、もし向かうのであれば私の方からも(ふみ)をしたためておこう」


「お心遣い感謝いたします」


 セシリアが頭を下げるとシズェア王はゆっくりと首を横に振る。


「いいや、礼を言うのは私の方だ。我が国の名産品であるビーナの蜜を襲うオグマァを討伐してもらっただけでなく、牧場の修繕まで手伝ってもらって感謝しかない。牧場主たちに代わって礼を言わせてもらう」


 シズェア王に言われ、オグマァたちによって破壊された牧場の柵や家の修繕を手伝っているミルコやロックたちのことを思う。


「翻訳が終了するまでもう少し滞在いたしますし、お役に立ちたいと彼らが自ら申し出ましたので。こちらこそ突然の申し出を受けて頂き感謝いたします」


「うむ、自ら人に尽くすその尊き心は、聖女セシリアの人徳の賜物なのだろうな」


 感心するシズェアが目を細め頷くが、事実はちょっと違う。


 セシリアをビーナの蜜まみれにしたミルコへの罰として牧場の修繕を手伝うように命じたとき、セラフィア教で行われた聖魂注入の噂を聞いた一人の兵がセシリアの前で突然土下座を始める。


「蜜まみれになったセシリア様を見てドキドキしてしまった愚かな男に罰を! 愚かな私めにセラフィア教会で行ったとされる聖なる鞭を!」


 その兵が自分の罪を告白してきたせいで数十人をビンタする羽目になり、その流れでミルコ以外も修繕へ向かわせたのである。

 ちゃっかり聖魂注入されるために並ぶミルコとロックのワクワクした表情を思い出し、呆れと怒りが湧きあがってくる。


(なんで私の周りには変なのしかいないんだろ。まったく嫌になっちゃうよ)


 色々思い出して眉間にしわを寄せるセシリア。


「そうそう、牧場主たちや蜜を扱う店から聖女セシリアへのお礼にとビーナの蜜を使った品が多く届いておる。今宵の食事にも出るであろうからぜひ堪能してくれ」


「はい、それは楽しみです」


 シズェア王の言葉を聞いてちょっぴりおこだった聖女は、少しだけ機嫌がよくなるのであった。

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