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第96話 いいえ、むしろ好都合です

 木々の間から姿を見せているオグマァ以外にも、多くの気配が周囲にあることをセシリアはグランツから報告を受け知っている。

 そしてボスであるオグマァは姿を見せていないらしく、目で確認できるオグマァたちを倒したところで姿を現す保証はないゆえに無駄に動くことは出来ず、初手を思考するセシリアは森の奥に視線を向けたまま足もとをにいるグランツに話し掛ける。


「本命を叩きたいけど、グランツ場所分かる?」


『おおよその位置は分かります』


『ならば話は早い。ここは兵たちに任せ、ミルコとロックを引き連れ少数精鋭で本命を叩くのがよいであろう。問題はこの群れの中をどう潜り抜けるかだが』


「ビーナ牧場でもらったお香で一時的になら道を開けることくらいできるかも」


 セシリアがポシェットからビンに入った魔物除けのお香である木を取り出すと聖剣シャルルがカタカタと震える。


『たしかそれは侵入禁止用であって、ビーナに影響がないように効果範囲が狭いのではなかったか? 『広域化』のスキルで広がりそうか?』


「使ってみないと分からないけど、元々の効果の範囲が狭いならあまり広がらないかも。そういう意味でも少数精鋭で行くべきかもね」


 オグマァの集団に囲まれても焦ることなく森の奥を見つめるセシリアの背を見つめ、命を待つロックとミルコをはじめとした兵たちはいつでも動けるようにとそれぞれ武器を手に持つ。


 セシリアが振り返ると、一同に緊張が走る。


「ボスであるオグマァを討つため少数精鋭で一点突破します。そこへ向かうのに私のスキル『広域化』を使用して敵を近付けさせないようにしますが、範囲が狭いため離れないようになるべく密着してくださいってぇええっ!?」


 説明を聞き終える前にミルコが素早くセシリアを抱え、お姫様抱っこをする。


「セシリア様、これくらい密着すればよろしいでしょうか?」


「み、密着し過ぎです!」


 慌てるセシリアの言葉が届くよりも先にロックが拳でミルコのわき腹を突っつく。


「てめえ、セシリア様に気安く触ってんじゃねえぞ。それにお姫様抱っこはしていいのは俺だけだ!」


「誰にやられるのも嫌です! って聞いてください!」


 顔を近付けいがみ合う二人に挟まれ叫ぶセシリアの頭にグランツの声が響く。


『セシリア様、オグマァの方が先に動き出しそうです。こちらから先手を打つためにもこのまま行きましょう』


 お姫様抱っこされるセシリアのお腹にグランツが飛び乗り座る。


「あぁ~もう! このまま行きます! 私が言う方向へ向かってください」


「くそっ! 左右を固めたい。もう二人ついて来てくれ」


 悔しそうに指示を飛ばすロックが後方へ、勝ち誇った表情のミルコがセシリアを抱いたまま先頭を、それに盾と槍を持った二人の兵士が左右を固め進み始める。

 それが合図となったのか、森の木々に隠れていたオグマァたちが一斉に飛び出して来る。


 セシリアがお香に力を込め『広域化』を付与するとその端をグランツがくわえ、セシリアが聖剣シャルルを僅かに抜きあらわになった刀身から発する高濃度に圧縮した魔力で熱を加えお香の木に火をつけ焚き始める。


 ミルコを先頭に走る一行に向かって来るオグマァだが、近付こうとした瞬間に鼻筋(はなすじ)にしわを寄せ顔をしかめ後ずさりしてしまう。


「このまま本命まで一気に行きましょう。もう少し右へ進行してください」


 お腹の上に座ったグランツが羽を差しながらセシリアに伝える方向を、セシリアがミルコたちに伝えボスの方へと向かう。

 ミルコにお姫様抱っこされたまま木々を駆け抜けるセシリアの頭にグランツの声が鋭く響く。


『あっちも気付いたようです。来ます!』


「みなさん、ボスが来ます!」


 セシリアの声と共に巨体を揺らしながら木々の間を器用に抜け、赤毛のオグマァが鋭い爪を振り降ろしてくる。

 それを盾を持った兵士二人が前に出て受け止めると、ボスオグマァが動きを止めた隙にロックの槍が肩に突き立てられる。


「ちっ、こいつ身を下げて致命傷を防ぎやがったか」


 素早く槍を下げるロックの前に兵士が盾を構えボスオグマァの攻撃を防ぎ、その間に横に回り込んだロックの槍がボスオグマァのわき腹へと向かう。


 カンッ!


 生物の音とは思えない金属音が響く。


「手甲だと!?」


 左手の甲に蔦で巻かれた鉄の板に弾かれた槍を引きながらロックが驚きの声を上げる。


「手甲だろうと俺の筋肉の前には無意味」


 セシリアを降ろしたミルコがボスオグマァへ拳を振るうが、それを手のひらで受け止められてしまう。さらに左拳を放つがそれも受け止められてしまう。

 だが、ミルコは焦る様子はなく口角を上げ笑みを浮かべる。


「力比べといこうか!」


 掴まれたまま自分の腕をひねり、ボスオグマァの腕をひねり始める。


「はああっつ!!」


 気合を入れた途端ミルコの上半身の服が破け飛び散り上半身裸になると、ミルコの力は勢いを増しボスオグマァの腕をひねり上げる。

 痛みでつま先立ちになる、ボスオグマァだが顔を上に上げると大きく口を開く。


「オグマァに力比べする人がいますか!」


 大きく口を開きミルコの頭にかぶりつこうとするボスオグマァの口に、セシリアの一振りが放たれる。

 紫の魔力が弾けボスオグマァが口を大きく開いたまま後ろへ吹き飛び大きな音を立て倒れる。


『力を溜め切れてないからこんなものか』


「緊急事態だから仕方ないよ。もう一回力を溜めて……ん?」


 聖剣シャルルを構えたセシリアが跳ね起きたボスオグマァの動きに注視する。勢いよく起きたボスオグマァがサッとその場から離れ、木の陰に身を隠すと何やらゴソゴソしている気配を感じる。


「なにか来ます」


 セシリアの声に盾を持った兵士二人が前に出て盾を構える。木の陰から姿を現したボスオグマァは大きなツボを持っており、それを地面に置くと口元を拭いながら口角を上げる。


 体を反りながら大きく息を吸ってお腹を膨らませたボスオグマァが、エビのように体をくの字に曲げ口を大きく広げると黄色く大きな球状の物体を放ってくる。

 兵士二人が盾で受け止めた瞬間黄色の球体が弾ける。


「うわああっつ」


「ぐわあっ!」


 弾けた球体に吹き飛ばされた兵士たちがベトベトする液体にまみれ、身動きが取れなくなりもがいている。


『ビーナの蜜を攻撃に使うとはな。避けるしかないな』


「う、うん……」


 ベトベトになってもがく兵士たちを余所につぼからビーナの蜜を補給したボスオグマァが再び蜜の爆弾を放つ。


「そんなもの俺の筋肉の前には効かん!」


「ちょっ、ちょっと待って!」


 セシリアの制し聞かずミルコが球体に向かって拳を振るう。


 パーン!!


 心地好い音を立て弾けた蜜爆弾の後には、全身蜜まみれになったミルコが立っていた。


「だからもぅ……ってこっちに近付かないでください!」


 蜜まみれになってベトベトになったミルコが手を広げセシリアに向かって歩いてくるのを怒ると、蜜人間になったミルコがしゅんと肩を落とす。


「まったく拳でやるヤツがあるか。こういうのは距離を取って当たらないようにするのが基本だ」


 ロックが槍を構えボスオグマァへ向かって走る。ボスオグマァが大きく口を開いたとき飛んできた物体をかわした瞬間ロックが目を見開く。


「岩だと?」


 避けて横を通り過ぎた物体が岩であったことに気づいたときセシリアの声が響く。


「上です!」


「え?」


 岩を投げたのと時間差で放たれた蜜爆弾がロックの上空で弾け蜜が降りそそぐ。

 そして蜜人間四号が完成したのを見たセシリアが頭を押えため息をつく。


「蜜まみれになるのは避けたいね」


『ちょっぴり期待している我がいるが、今は有事ゆえ自重しよう』


「そうしてくれると助かるよ」


 聖剣シャルルと会話を交わしながら攻略法を探すセシリアの目の前でミルコこと蜜人間三号が口元の蜜を剥ぎ取り叫ぶ。


「この姿はむしろ好都合! セシリア様の盾として全部受け止めてやる」


「負けてられっか! 俺だって全部受け止めてやる!」


 蜜人間四号が叫ぶと、一号と二号も盾を捨て立ち上がる。そして再び放たれる蜜爆弾に向かってべたべたと足音を立て走る三号が体ごとぶつかると爆発して蜜まみれになって吹き飛ぶ。

 それを見た四号たちも負けじと蜜爆弾に自ら突っ込んで、身をもってセシリアを蜜爆弾から守る。


「じ、地獄絵図だ……でも魔力を溜めよっと」


 蜜爆弾を受け続ける四人の惨状に感謝しながらセシリアは聖剣シャルルに魔力を集める。

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