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第10話 奇跡だ!? と皆が口を揃えて言う

 四角い建物の中は衣食住の空間、いわゆる生活スペースになっていって古いながらも手入れの行き届いたテーブルや椅子たちに招かれる。


「ここは身寄りの無い子たちの住む場所、セラフィア教会。申し遅れました私、この教会の牧師を勤めるクラータ・ケッターと言います。ケッターとお呼びください」


 席に案内され座ったセシリアに初老の女性が頭を下げて名乗る。


「大体のことはアメリーから聞きました。大変お世話になったようでありがとうございました」


「いえ、花を採ってきただけですし」


「だけ、とはおっしゃいますが崖に生えるリシュオンフラワーを私どもでは採ることは出来ませんよ。冒険者にしか出来ないのだと私どもに見せることも大切」


 ケッター牧師の言わんとすること、簡単な仕事だと言うと冒険者としての価値を下げてしまう。もっと深く考えれば子供たちの前で「簡単」などと言うと真似をして事故に繋がり兼ねないと言うことだろう。


「少し意地悪な言い方になりましたね。セシリアさんはもっと自分のしたことを誇ってもいいのです。せめて私たちの感謝の気持ちを受け取るくらいにはね」


「はい……覚えておきます」


 頬を掻き視線を下に向けるセシリアを見てケッター牧師は、苦笑と共にため息をつきながら自分に戒めを言い聞かせるように、自身の胸をトントンと叩く。


「ふふっ、年を取ると説教っぽくなっていけませんね。もうすぐお茶の時間です、お茶くらいはごちそうさせてもらえると嬉しいのですけど」


 話の流れから断れるわけもなく頷いたセシリアの目の前には、お菓子とお茶が並べられお茶の時間となってしまう。


 お茶とクッキーが並べられ、その香ばしい匂いにセシリアは自分が朝から何も食べていないことに気づく。

 麦を練って固めたクッキーはよく噛むと甘味が遠くに感じられ、同じく麦で作られたお茶は香ばしく飲みやすい。

 出身の村でもよく出ていた子供の定番のおやつは懐かしく、お腹も空いていたセシリアはクッキーを口に入れて懐かしさと共に噛み締める。


「お姉ちゃん美味しい?」


 向かいに座っていたペイネが身を乗り出してセシリアに尋ねる。その瞳はキラキラと輝いて喜びに満ちている。


「うん、美味しいよ」


 セシリアの言葉にキラキラした目から喜びの光を溢れさせ、さらに輝きが増した瞳でセシリアを見てくる。


「これね、デイジーお姉ちゃんが作ったんだけど、ペイネも手伝ったの! 麦をコネコネして頑張ったんだよ!」


「そっかぁ、ペイネちゃんはお菓子職人になれるね」


「ふわわっ!? なんでセシリアお姉ちゃんはペイネがお菓子職人になりたいって知ってるの?」


「え? なんとなくそうかなって」


 話の流れで言ったことに思いもよらない感激の仕方をされ、戸惑うセシリアの反対から声がぴょんぴょん飛んでくる。


「ねえお姉ちゃんは冒険者なんでしょ? どうやったら冒険者になれるの?」


「えっとね、実は昨日冒険者になったばっかりなんだけど、ジョセフさんって人がギルドに紹介してくれてね」


「「「ジョセフさん!?」」」


「偶然助けてもらってその流れで紹介してもらっただけだから、そんなに驚かなくても……」


 驚くみんなに対し、不思議そうな表情で首を傾げるセシリアに、前のめりになって話し始めるのはオトカルである。


「凄いよ! 王都五大冒険者の一人のジョセフさんから紹介されるって凄いことなんだよ! お姉ちゃんはやっぱり凄い人なんだよ! あっ!! それってもしかして冒険者の証じゃない?」


 オトカルが指さしたのはセシリアのポシェットの蓋に付いていた冒険者の証。


「あらほんと。ポシェットに付けてる冒険者さんっていないから気付かなかったわ。って、あらあらこれってブロンズじゃない? 久しぶりに見たわ。んー?

 そう言えばさっき昨日冒険者になったばかりって言わなかった?」


 隣に座っていたアメリ―がセシリアの持つ冒険者の証を見て段々と目を丸くしていく。


「あ、いえ。成り行きでこうなったと言うか」


「お姉ちゃんやっぱ凄いよ! ブロンズの冒険者になれる人ってだけでもなかなかいないのに、ブロンズから冒険者をスタートする人なんて聞いたことないよ!!」


 オトカルの目から放たれる尊敬の光が痛くて眩しい、セシリアが目を逸らすと他の子たちも目をキラキラさせて見ていることに気付く。


「お、お茶美味しかったです! そ、そろそろお(いとま)しようかなぁと思うんで、えっとぉアメリ―さん道を教えてもらえませんか?」


「もう帰るの? そうだわ! リシュオンフラワーの蛍火を見てからではダメかしら?」


「蛍火をですか、まあそれくらいなら」


 アメリ―が手にしたリシュオンフラワーを見て、最後まで付き合わないと道を教えてもらえないのだろうなとセシリアは諦めた表情を見せる。


「じゃあみんな! 暗くしたいからカーテン閉めて!」


 アメリ―の掛け声で子供たちが四方に散って部屋のカーテンを閉める。外の日はまだ高いがカーテンを閉めたことで部屋の中だけ暗闇が訪れる。

 暗闇に目が慣れるとカーテンの隙間から漏れる日の光はやけに眩しく感じ、外の世界と切り離されたような不思議な違和感を演出してくれる。


「さ~てと、みんながお待ちかねのリシュオンフラワーの蛍火タイム! 花は3つもあるしどれか成功するでしょ!」


 アメリーが掲げるリシュオンフラワーの白く小さな花。主に崖に生息し、夜風にあたると揺れた花から花粉を飛ばす。その花粉は暗闇で発光する性質を持っており、ふわふわ漂いながら淡い光を放つ様子が昆虫の蛍に似ていることから蛍火の花、リシュオンフラワーと呼ばれている。


 一つ目の花をアメリーが指で弾くと花がぼんやりと光る。暗闇で光る花に子供たちが歓喜のため息をつく。

 だが花の光はすぐに鈍くなりやがて消えてしまうと、子供たちのため息も感激から残念さを含んだものへと変わってしまう。


 アメリーが次の花を指で弾くが、花は光ることなく項垂れたまま。慌てて次の花を弾くとぽわんと光を放ち小さな光の玉が空中に浮遊し始める。


 ふよふよと頼りなく浮遊する花粉は、淡い光を放ち子供たちの目の前を通り過ぎる。子供たちは小さな光を瞳いっぱいに映し感激しているが、アメリーはどこか残念そうな表情をしていた。


 セシリアはその表情が気になって、アメリーをチラチラと見てしまう。


「セシリアお姉ちゃんのところに行ったよ」


 ペイネの声で我に返り慌てて声の方へ目をやると、セシリアの目の横を蛍火が横切り、そのまま正面へとやって来ると手へふんわりと着地する。


 落ちてなお手のひらの上で淡い光を放つ蛍火をじっと見つめるセシリアは、ふとリシュオンフラワーの効能を思い出す。


 (確か花粉には心を落ち着かせる効果があったはず。効果があるならスキルが使えるかも。もし使えたら蛍火をもっと長く見せてあげれるかもしれない。)


 手のひらに光る蛍火にそっともう片方の手を重ねる。

 セシリアがまだ光る蛍火を隠したと思った子供たちが「あっ」と声を上げるが、セシリアの手が優しい光を放つと声を飲み込んで成り行きをただ見つめる。


 光を放つ手を宙へ向かって広げると、手のひらから無数の蛍火が宙へ向かって飛び立っていく。


 宙へと飛んだ蛍火たちはセシリアの『広域化』のスキルを受け、泡のようにパチパチと弾け数を増やし空中をゆっくりと浮遊する。


 暗い部屋の中を飛び回る沢山の蛍火たちを見た子供たちは、みなが口をポカンと開けっぱなしにするがすぐに「うわぁぁっ!」と開いた口から感激の声を漏らす。


「上手くいった」


 一か八かで使ったスキルが成功したセシリアが安堵の表情を浮かべアメリーの方を見ると、アメリーは目を丸くして驚いたまま固まっている。


 そのままケッター牧師に目をやると手を組んで涙を流しながら浮遊する蛍火を拝んで「ああっ奇跡、これが奇跡なのですね」とうわ言のように呟いている。


「あ、いやこれ、スキルで広域って」


神域(こういき)!?」


「あ、いやたぶん何か違う気がします」


「ああ神よぉ……」


 感激のあまり倒れるケッター牧師を支えるアメリーとデイジーもまたセシリアを敬いの眼差しで見つめ、今もなお飛び交う蛍火に感激する子供たちにも囲まれ、どうしていいのか分からずセシリアは立ちすくむのであった。

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[一言] ここの人たち、何というかグイグイ来るなw
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