海のワンオラクル2
ご飯を食べてから、乃愛と本結さんは二人はビーチバレーで遊び始めた。
僕も混ざろうかなと思っていると峰矢さんが話しかけてきた。
「夢咲君達はいいなぁ」
「どうかしましたか」
「なんか気兼ねなく話しててうらやましいよ。もしかして幼馴染とかだったりするの」
僕は幼馴染という言葉に過剰反応してしまう。
「いえ違いますよ。付き合い始めたの先月ですし」
「全然そう見えないよ。うらやましいな」
「峰矢さんたちは付き合ってどのくらいなんですか? 」
「三か月ぐらいだよ」
思った通りだった。
「ああ、やっぱり」
「やっぱり?」
「確か五月ごろ、告白されたから相性占いしてほしいって本結さんから言われたことがあったんですよね。峰矢さん、占った通りの人だったんで」
「夢咲君が占い得意なのは聞いていたけど、占ってくれていたとは、知らなかったな。ちなみにその時どんな結果だったの」
「本結さんのことすごく大事にしてくれるいい人って答えましたよ」
「そっか、それで紬が付き合う気になってくれたのなら、付き合えたのは夢咲君のおかげかな」
峰矢さんはうれしそうだった。
僕の占いが人を幸せにしたのなら、占い師の冥利に尽きる。
「それにしても、本結さんとどこで出会ったんですか?」
大学生との接点なんてめったにないだろう。
「紬が僕のライブを聞きに来てくれてね」
「バンドやってるんですか。やっぱり声がいいなと思ってたんですよ。もしかしてプロ目指してたりするんですか?」
僕は興奮して聞いた。
「音楽は趣味程度やっていくつもり、プロ目指してるなら、ファンで一番かわいい子捕まえて、海に遊びに来たりしないよ」
「別に彼女いたぐらいいいじゃないですか。芸能人だってみんな結婚していくでしょ」
「それは、結婚してもファンが絶対離れない自信があるからできるんだよ。若いうちは、恋人になりたいって気持ちを利用して、ファンを増やしていくものだから」
確かに僕が夢中になっている高嶺みはるに恋人がいると知ったら、熱も冷めるだろう。
「逆にいい歳してバンドマン目指してるやつは、年上のOLとかのうちに転がり込んで、一日中音楽やってるような奴ばっかりだよ。それで大成するやつは一割もいるかどうか……何かを成したいのなら、それ相応の覚悟がいる。僕には、それまでないよ」
音楽業界の事情はよくわからない。
占い業界は、それほど競合はいない。
そもそもまともに占いができる人間自体が少ないからだ。
難易度は高いが、音楽とは少しベクトルが違うかもしれない。
「それに勉強もしないといけないし」
「大学生なんですよね。学部はなんですか?」
「医学部だよ」
どんなハイスペなの?
ちょっと不平等すぎない。
本結さん、どんな彼氏捕まえて来たんだよ。
「紬の話じゃ、夢咲君のお母さんはあの有名なドリーミー風美湖、夢咲だからドリーミーなのかな」
「そうですよ。以外に安直なんですよね」
「夢咲君も、占い師になったら、ドリーミーになるの」
「そうかもしれません。親の七光りは若干嫌ですけど、利用できるものは利用した方が人気出ると思いますし」
「夢咲君はプロ目指してるんだね」
「プロっていっても、最初は母さんの手伝いするぐらいですよ」
「じゃあ、人気出る前にちょっと占ってもらえる?」
「いいですよ。タロットカードが得意なんですけど、濡らしたくないので簡単なのでもいいですか」
「もちろん」
峰矢さんはこくりと頷く。
「じゃあ、ぱっと思いつくものでいいので大切なもの二つ思い浮かべてもらってもいいですか」
「思い浮かべたよ」
僕はラッキーアイテムを思い浮かべる要領で、頭の中を空っぽにした。
閃光のようなものが走り、イメージが沸き上がる。
「うーんとですね。思い浮かべたもの、二つのうち、どちらかなら簡単に手に入ると思います。ただ両方手に入れようとすると、結構茨の道ですね」
峰矢さんは随分驚いた顔をした。
「何を思い浮かべたんですか?」
「えっ? 君は何浮かべたかわかってて答えたんじゃないの」
「いえ、そういうわけじゃ。別に僕は占いができるだけで、心が読めるわけではないので。峰矢さんが思い浮かべたものの関係性をインスパイアしてみただけですよ」
「どうして?」
「いや、どうしてと言われても、占いなので、論理とか求められても、僕にもわからないんですよね。あ、でも思い浮かべたものを教えてもらえれば、もう少し深く解釈できるかもしれません。教えてもらえますか」
「それは……」
峰矢さんが答えようとしたところで、乃愛が帰ってきた。
「ちょっと休憩。凪流達も一緒にやりましょう」
「ちょっと待って、峰矢さんの占い終わったら」
「ふーん。占いしてたんだ。凪流、飲み物取ってくれる?」
「ああ」
僕は占いを中断して、クーラーボックスをあさろうとする。
遠くを見ると、乃愛がいなくなって暇をもてあそばした本結さんがポーンとなげたボールが少し風に流され、飛んでいく。
飛んでいった先にいたのは、さっきのナンパ師三人組だった。
空振りに終わったのだろう。
イラついているのが遠目にもわかる。
「すみませーん」
本結さんがこえをあげる。
ラッキーといわんばかりだったが、拾い上げると、僕と目があった。
本結さんが、僕らの連れだと分かったのだろう。
明らかにいやらしい顔つきになった。
「おっと、手が滑った」
ボールを海の方へと投げつける。
ボールは泳いでいいしきりの少し先に落ちた。
「何あれ。感じ悪」
事情を知らない本結さんが憤慨する。
本結さんは、海に入ってボールを追いかける。
次の瞬間、僕は急激な運気の低下を感じた。
「乃愛、本結さん止めて!」
「わかった」
乃愛は、本結さんの元に、僕は、ライフセイバーのところに走った。
乃愛が叫ぶ。
「紬。危ないから待ちなさい」
「まだ幼児扱いするの、このくらい、大丈夫だってば」
乃愛の忠告を聞かずに、本結さんは泳いでいく。
遠くに本結さんが進めば進むほど運気が下がっていく。
ぶちんと運気が切れる音がして、
「きゃあ」
本結さんは悲鳴をあげた。
本結さんは、急に海に引きずり込まれる。
乃愛は、海に飛び込むと、急いで本結さんの元に泳ぐ。
僕は、ライフセイバーに声かけながら、とってきた浮き輪を乃愛の前に向かって投げつけた。
乃愛は、本結さんを浮き輪に捕まらせる。
「紬、大丈夫?」
「何かが足に絡まってて」
「ちょっと待ってて」
乃愛は、海に潜った。
しばらくして、浮き上がってくると、僕に叫んだ。
「凪流。浮き輪、引っ張って」
「わかった。峰矢さんもお願いします」
ようやく岸まできていた峰矢さんに声をかける。
「わ、わかった」
僕は、全力で、浮き輪につかまったロープを引っ張った。
「うわーん。ありがとう。ライフジャケットつけてなかったら、私死んでたよ」
「怪我してない? 本当に、大丈夫?」
どうやら、ロープのような物が両足に絡まっていたようだ。
乃愛が少し無理にとったのだろう。
本結さんの足が赤くなっている。
それ以外に大きな怪我はないようだった。
ただ足がすこし腫れている気がする。
多分クラゲだろうか。
多分ロープに足が絡まったのと同時にクラゲにも刺されてパニックになって溺れてしまったのだろう。
ライフジャケットをつけてなくて、僕たちが動くのが遅かったら死んでいたのだろう。
本結さんは、乃愛に抱きつく。
「君たち、救助のプロか何かなの?」
市民プールにいって、二人で何度も救助練習を頑張ったかいがあった。
「しかも、紬が溺れる前に動きだしてなかった?」
「ははは」
ライフジャケットがあったから、全然たいしたことはなかった。
海水も飲んでもいないだろう。
ちょっと驚いた。
その程度ですんだ。
タロットをめくらなくてもわかる。
今日はもう大丈夫。
本結さんは、峰矢さんの車で先に帰って用心のため病院に行くことにした。
「このくらいたいしたことないのに」
本当は夕ご飯も一緒に食べて、もっと遊ぶ計画だった。
本結さんは、すごく残念そうだった。
「生きてるんだから、またあそべるでしょ」
乃愛は本結さんを慰める。
「よしよし」
乃愛は本結さんの頭をなでる。
「もう、子ども扱いしないでよ」
本結さんは、照れたような顔をした。
朝ほどは子ども扱いされても嫌そうな顔をしていない。
「ごめんね乃愛」
本結さんがバツが悪そうに言った。
「なに謝ってるの?」
「ちょっと乃愛に嫌われちゃったのかと思ったから」
あれだけ強引にライフジャケット着せればそう思われても仕方がない。
「馬鹿ね。私があなたのこと嫌いになるわけないでしょ」
乃愛は自分が嫌われても、きっと友達のためなら何でもやるのだろう。
本結さんは、峰矢さんの車の窓から元気に手を振る。
「また誘うね! 一緒に遊ぼうね」
僕らも手を振って二人を見送った。
僕らは駅のベンチに座っていた。
「あー1日楽しかった」
乃愛が満足そうにいう。
「結構気疲れしたけど……。でも、よかったね。事件じゃなくて」
僕は本結さんの明日を占った。
ちゃんと占える。
未来は変わった。
死人もでてないし、ただ事故を回避しただけ。
友人が発狂したり、爆破事件に巻き込まれたり、誰かの悪意に巻き込まれたわけではない。
今日はどこでも起こりうる事故を防いだ。
それだけだ。
夕日が沈む海を見ながら、次の電車を待つ。
乃愛の友達に彼氏を自慢するとい目的も達成できたのではないのだろうか。
「来年はもっとかっこいい彼氏と来たらいい」
僕はぽつりとそう言った。
「そんなこと、今言わなくてもよくない? 折角の気分が台無し」
「約束は夏休みの間という話だっただろう」
「あと二週間ね。そんなに私と別れたいの?」
「別に積極的に別れたい理由はないよ。だらだらこんな関係を続けていくのも悪くはないなと思ってる。少なくとも、事件が解決するまでは、付き合ってほしい」
「ふーん、そっかぁ。そうね。どうしようかなぁ」
「なんでそっちが仕方なく付き合ってやってる感じなんだよ」
「ふふふ」
楽しそうに乃愛は笑う。
実際乃愛との会話のやりとりは楽しい。
「悪かったよ。最初、罰ゲームだなんて言ったりして」
乃愛が僕のことを好きなことは、ちゃんと感じることができる。
最初の対応は、今思い返すとあんまりだったと反省している。
「でも、どうして僕なんか好きになったんだよ」
それだけは未だに謎だった。
「一度だけ、私に占いさせて欲しいって言ってきたことあったでしょ」
「次の日の運勢占ったよね」
「てっきり私は、他の男の子と一緒で、口実をつくって私と話しかけたかったと思ったのよ」
「いや別に、下心なんてなかったよ」
「知ってるわよ。あなたは次の日、他の女の子に話しかけてたでしょ。あなたは、本当に占いがしたかっただけ。次の日も話しかけられるものだと思って、あしらい方まで考えてた私は、馬鹿みたいだった」
「ふーん。で、きっかけは?」
「今のがきっかけよ」
「今の話に好きになる要素あったか?」
「きっかけなんてどうでもいいでしょ」
乃愛はそっぽを向いた。
「わざわざ僕を選ばなくても、本当にお前のことが好きな奴はいっぱいいただろ」
「知らないの? 女の子はね。好きな人以外からの好きは気持ち悪いって」
「じゃあ、アイドルやってる女の子はなんなんだよ」
「あれは異常者の集まりよ」
「ひどい言いようだな」
「ぶっちゃけ、お金のためでしょ。知らないけど」
「そうなのか……」
「アイドルなんかどうでもいいのよ。私はそれからあなたのこと目で追うようになって、ぼんやり見てたら、紬に指摘されたのよ。夢咲君ばっかり見てるって、それで私も凪流のこと好きなの自覚して、ようやく意志を固めて、よし告白するぞと思って奮い立たせるために、紬に実は彼氏なのって言っちゃって」
「しょうもない嘘つくなよ」
本当に順番はちゃんと守ってほしい。
「しょうがないでしょ。そのくらいしないと私は勇気が出なかったんだから」
「嘘が真になったから、よかったけど、どうするつもりだったんだよ」
「だから、お礼言ってるでしょ」
お礼だったのか。
「塩対応されて好きになるとか、天の邪鬼すぎるだろ。もっと楽な恋したらいいのに」
「凪流は人のこと言えないでしょ」
「なんでだよ。僕は、別に乃愛と違って、乃愛以外の女の子に告白されたことなんてないんだからさ」
僕のどこに楽な恋が転がっていたのか見当もつかない。
「あなたに気がある女の子は、あなたに恋占いお願いするわ。そして、凪流にこういわれるの。『君の好きな人は、君に興味ないみたいだね。他の人にした方がいいと思うよ』って」
僕は、自分が占った内容は覚えている。
そう占った相手のことも。
確かに何人かそう占った子がいたかもしれない。
その中で一番印象的だった子は……。
僕は、乃愛に言った。
「まるで、本結さんが僕のこと好きだったみたいじゃないか」
「そういうことよ」
「まさか」
快活でいつも楽しそうに笑うクラスで一番可愛い女の子。
最近は、それほどでもないけれど、一年のころはよく占いをお願いされた。
今思えば、頻度が減ったのは、その占いを境にだったかもしれない。
彼女が僕のことすきだったなんてそんなこと……。
「凪流にそう占われた日、紬泣いてたわ」
泣いてたなんてしらなかった。
僕みたいに辛い恋は避けた方がいいと思ってそう口にしただけだったのに。
「私告白したとき、本当は振られると思ってたもの。実際もお情けで付き合ってもらってるだけで振られたわけだけど。振られた時は、好きな子のこと聞き出そうと思ってた。多分紬って答えると思っていたから、そしたら紬に教えてあげようって。そしたら凪流は訳わからないアイドルの名前を言うし、まあ、結局それもブラフだったわけだけど」
「嘘ついたつもりはなかったよ」
アイドルに夢中だった。それは間違いない。
「凪流の占いは、当たるわ。でも変えられないわけじゃない。あなたが紬にそこまで興味なかったのは本当。興味がないというより、意識する余裕がなかったといった方が正しいかしら。だって凪流は失恋したばかりで傷心だったんでしょ? 違う?」
「……その通りだよ」
昔からよくゆらにはナツ兄との相性占いをせがまれた。
嘘つくわけにもいかず、いい占いがでてゆらが喜ぶたびに、僕の心は傷ついていた。
だけど、ナツ兄は、僕らみたいな年下のこと相手しないだろうと思っていた。
成長していくにつれて、ゆらは、さらに魅力的になり、三つ差なんてたいしたことなくなった。
ちょうど一年前ごろ、ゆらの思いは伝わり、二人は結ばれた。
ゆらからのろけ話をよくされていた。
心がじくじく痛むような毎日だった。
それでも他人にやさしくありたいと思っていたが、感受性は多分死んでいたのだろう。
「占いの結果がそうだったとして、それでも紬が告白してきたらどうだった? 私みたいに頭ごなしに断ったりはしなかったんじゃない?」
「どうかな」
今となってはわからない。
少なくとも意識はしたかもしれない。
「それに、どうして僕にそんなこと教えたんだよ」
「だってフェアじゃないでしょ」
「フェアってなんだよ」
「紬と約束したの。どっちが凪流と付き合うことになっても恨みっこなしよって、なのに凪流が紬の気持ち知らないのは、私としてはすっきりしないでしょ」
「僕は、よけい心かき乱されてるんだけど」
もうなにもかも後の祭りだ。
「付き合って、わかっただろ。俺がどんな人間か。運動オンチで、みっともなく失恋を引きずってて。アイドルオタクで。弱腰で情けなくて。いいとこなんてないだろう?」
「そうね。付き合ってよくわかったわ。やっぱり凪流は占いばっかりしてて、他人の幸せばっかり気にしてる。あなたは、他人を占って、いい結果が出たときが一番嬉しそうよ。そんなあなたが未だに好き。付き合ってみても私の想いは変わらない。むしろ前より強いぐらい」
少し間をおいて乃愛は言った。
「期間延長をお願いするわ」
「それ、付き合って欲しい側の態度じゃないだろ」
なんて横柄な奴なんだ。でもすごく乃愛らしい。
「凪流にとって、私はそんなに好きではないでしょ。今つき合えているのが不思議なくらいよ」
「付き合う前はそうだったけど、今はそうでもないよ」
「それでどうするの。まだ幼なじみのこと思い続ける? 今からでも、紬にする? 海に凪流連れてくるって言ったら喜んでたし、凪流が彼女になってって言ったら彼氏と別れてでも、すぐ彼女になってくれるんじゃないかしら」
「人から奪えるような性格してたらこんなことにはなってないだろう」
ゆらにも結局告白すらできなかった。
ゆらが幸せそうに話す顔をみたら、とてもその幸せにひびを入れるようなことはできなかった。
「つまり消去法で私ってことね?」
「そうなるかな。乃愛はそれでいいのか」
消去法なんて乃愛に失礼極まりない。
でも、乃愛はなにもかもお見通しで、実際そうとしかいえない。
「だって、私。このまま振られてたら、惨めだったじゃない。だから、ありがとう」
お礼を言わないといけないのは、こっちかもしれない。
「乃愛がいなかったら、今日、僕のほうこそ惨めさの塊になるところだった。まあ、そもそも海なんか来なかったかもしれないけどさ」
一人で、ゆらとナツ兄に出くわしていたら、心が砕けていただろう。
乃愛が隣にいてくれたから、どうにか平気だった。
「私はいままで惨めだったわ。紬は凪流を諦めて、いつの間にか彼氏作ってたし」
本当はきっと逆なのだろう。
友達思いの乃愛のことだ。本結さんに彼氏ができたから、僕に告白する決心ができたのだろう。
「おさまるところに、みんな収まったってことかしら。あらためて、よろしくね凪流」
「だけど、ちゃんと付き合うなら、条件がある」
「わかってるって、今度こそ、エロいことさせて欲しいんでしょ」
乃愛は笑って言った。
「そんなんじゃないよ」
そんなふざけたはなしではなくて、本当に大切な話だ。
僕は、大きく息を吸って言った。
「みんなが毒死する日僕と一緒に学校をサボって欲しい」
「それは……」
乃愛も忘れていたわけではないだろう。
確かに、乃愛も本結さんも運命は変わった。
だけど死相がなくなったわけではない。
「乃愛も死にたくはないだろ。学校がある日だし、事件か事故かわからないけど、運命の日が近くなればいつおこるかもわかると思う」
何度も命の危険に遭遇したことによって、最近はタロットカードを使わなくても、運気の動きを今まで以上に正確にとらえられるようになってきた。
「学校を休めば、多分回避できる」
でもそれは、僕と乃愛二人だけだ。
「みんなに言って回って、その日を回避したらいいんじゃない」
「発生時期もしくは、発生場所……別の日か別のクラスで発生するだけかもしれない。そうなるとそんなことを言ってまわった僕達が間違いなく疑われる。事件なら犯人を、事故なら原因を突き止めとかないと、未来は変わらない」
「私はみんなに死んでほしくない」
「僕だって、クラスメイト死んでほしくはない」
乃愛と気持ちは同じだ。
「僕は占い師、他人の幸せを願うもの」
まだ見習いだけど。
「僕はギリギリまで原因を探るよ。探偵とか警察じゃないから、僕は占いしかできないけど」
証拠を見つけるため、町中を駆け回るとか。
そういうことは僕に向いていない。
カードを捲って、未来を予測する。
僕にできることはただそれだけだ。
「前日までで原因も犯人もわからなかったら、僕はその日仮病を使って休む」
「何かが起こると分かっていれば、何かできるかもしれないでしょ。今日みたいに」
「占い結果は、毒死。毒ガスか何かだとしたら、視認できるかもわからない。今日みたいに本結さんだけを注意していればいいわけでもないんだ。悪意が絡んでいたら、今日みたいに注意するだけじゃ多分運命はかわらないよ」
事故か事件かまだわからないけど、悪意の可能性の方が高い気がする。
誰かの悪意ならば、こちらの動きに対して、対応してくるだろう。
「だからさ。乃愛僕と一緒に学校休もうよ」
身をよじるほど、愛おしさも、
テレビを越えて伝えたい熱烈さもない。
好きというより好き勝手出来る関係がよかった。
「何も考えずに自分らしくあれた。好きというより、楽だった。乃愛の何もかもを手に入れたいわけではない。でも、失いたいわけじゃないんだ」
君を手に入れて幸せになりたいわけでも、君を僕が幸せにしたいわけでもないけれど、どこかで幸せでいてほしいとは思うよ。
この気持ちを好きだと定義してもいい。
見栄ではなく、本心から、
「僕は、乃愛に死んで欲しくない」
と、思ってる。
「私も死にたくないけど、わかるでしょ? 私がどんな人間か」
「見栄っ張りだよね」
「私は、命より見栄を取るわ。自慢する友達がいなくなったら、私の存在意義がないもの」
「そうだね。乃愛は、そんな奴だよ」
見栄っ張りの振りしてるけど、誰よりも友達思いで、友達の為なら自分の命もかけれる。
乃愛はそういう女の子だ。
対して僕は情けないほど、弱虫。
死ぬかもしれないところに一人で行かせるなんて、彼氏として失格だ。
当日、一人で乃愛を学校に行かせたら、僕に彼氏としての資格はない。
「死が二人を分かつまでね。そういうことでしょ。だったら私が死ぬまでは付き合ってよ」
「わかったよ」
君の為にできることをやろう。
僕は、強くないし、
探偵でも、警察でもないから
占うことしか出来ないけれど。
夏が終わっていく。
楽しさと焦燥をはらんだまま。




