表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神のワンオラクル  作者: 名録史郎
8/12

海のワンオラクル1

 八月半ば、僕らは海に来ていた。


 黒のビキニ。

 普段はそこまでだが、水着になるとグンと主張してくる胸。

 水着がちらりと見えるハーフパンツ、筋トレによって無駄肉は一切なく、スレンダーなくびれが艶めかしい。

 腕につけたバングルがより肌の白さを際立てている。

 乃愛は完全に海をわが物にしていた


 一緒にいる本結さんも負けていない。

 フリルがいっぱいついた青と白の水着。

 可愛いらしさを引き立てている。

 ほんのちょっとだけぷにっとしたお腹もセクシー。

「えへへ。可愛いでしょ」

 若干あざといが、もちろん誰もが許してしまう可愛さだ。

 思ったより胸も大きく意識しなくても、視線が引き寄せられてしまう。

 が、僕は頑張って視線を引き離す。

 本結さんは、他人の彼氏。

 僕がまじまじ見るわけにはいかない。

 できるだけ、乃愛の方をむいて視線をかわしておくことにする。

 乃愛は少なくとも今は自分が彼氏。

 いくら見つめても、怒られはしないだろう。 

「紬、可愛いわ」

 僕のかわりに乃愛が褒める。

 自分が世界一可愛いと思っている同士。

 気が合うのだろう。

「紬、可愛いよ」

 本結さんの彼氏もほめる。

 峰矢さん。

 市内の大学生だ。

 顔立ちもよく、体も鍛えてて、何より声がいい。

 非の打ち所がない。

 年上で大人の余裕も感じる。

 このメンバーに僕が混ざっているのが、場違いのようだ。

 本結さんは、僕の指にはまっている指輪をちらりと見た。

「夢咲君、本当に、乃愛の彼氏だったんだね」

「前もそういわなかった?」

「乃愛って少し強引なところがあるから、ちょっとだけ、無理やり言わせてるのかと思っていたの」

 本結さんはばつが悪そうにいう。

「ははは」

 僕の口から乾いた笑いがでた。

 実際偽装彼氏なのだから、間違ってない。

 本当に乃愛のことよくわかっている。

「夢咲君、乃愛が好みだったんだね。なら仕方ないね」

「うん?」

 なにが仕方ないのかわからなかったので、僕は、曖昧に頷いた。

「でもよかった。あの子、ずいぶん前から凪流君のこと好きだったし」

「ずいぶん前から?」

 告白は、罰ゲームとかではなくて、本当に僕のこと好きだったのは、もうわかっていたけど、いつからとかきっかけとか僕は、何一つしらない。

「あたしもきっかけとかは詳しくは知らないけど、一年の半ばごろからだよ」

 そんな前からなのか。

 顔が好みとはいわれたことあったけど、それが一番の理由なら一年の始めからだろうし、きっかけなんかあっただろうか。クラスは一緒だったし、話したこともあったけど、特別なことなんてなんにもなかったと思うけど。

「乃愛は、ああ見えていい子だからね。他の女の子を気があるように誤解させたらダメだよ」

 すごく本結さんは、すごく真剣な顔で言う。

 ああ見えて……確かにその通りだ。

 見た目や態度では、わからないが、ものすごくいい子なのはもうよく知っている。

 本結さんは、ぐいっと僕に体を乗り出してくる。

 体が触れそうになり、僕は慌てて一歩離れた。

「わかった?」

 僕は、圧におされて、頷いた。

 僕がうなずくのを確認すると、いつもの笑顔にもどる。

「じゃあ、早速泳ごう!」

 本結さんがやっほーとジャンプして走り出そうとするのを、乃愛ががっしり捕まえた。

「紬にプレゼントがあるの」

「えっ。今? あたし誕生日でもないよ」

「はい。ライフジャケット」

 乃愛は、自分のバックから、ライフジャケットを取り出した。

 本結さんは目を白黒させる。

「えっ。何これ?」

「紬、泳げないんだから、これつけときなさい」

「あたし泳げるし、こんなの誰もつけてないよ」

「だからいいのよ。いいから」

 なにがだからなのかもわからないが、ごり押しでいこうと決めている。

 ちょっと強引なところとは、こういうところだろう。

 ただどうみてもちょっとじゃない。

 強引そのものだ。

「いやだって」

「あなたのためにできるだけ可愛いの選んできたんだから」

 無理やり、ライフジャケットをつけさせている。

「可愛い水着が台無しだよぉ」

「いいじゃない。かっこいい彼氏がいるんだから、他の人、悩殺する必要はないでしょう。付けなかったら絶交よ」

「なんでそこまで?」

「死ぬよりいいでしょ」

「意味わかんないよ」

 無理やり着せようとする乃愛に本結さんは必死で抵抗する。

 美女二人水着で押し合いのバトルになった。

 絵面的には、なんだかずっと見ていたい気分になったがそういうわけにもいかないだろう。

 何とかならないかと思い、僕は峰矢さんに声をかけた。

「すみません。本結さん誉めてもらえませんか」

「えっ? ああ」

 峰矢さんは、なにが起こっているのかわからない顔をしていたが、僕に促されるまま、本結さんを誉めた。

「紬、似合ってるよ」

「本結さん。それ僕も一緒に選んだやつだよ。ちゃんとつけてよ」

 本結さんは、彼氏から褒められては、抵抗をやめた。 

「わかったよ。着ければいいんだよね」

 本結さんはしぶしぶライフジャケットをつける。

 袖を通すだけなら、すごく可愛いが、乃愛が無慈悲に前をしっかりしめると、本結さんは悲しそうな顔をした。

 僕としては、視線の吸引力がすさまじかったら、助かった。

 本結さんはしばらく虚空を見ていたが、我に返ると、今度こそはと海に走り出そうとする。

「待ちなさい」

「なに? まだ何かあるの」

「海に入る前には、しっかり準備運動しないと」

「誰もそんなことしてないよ」

「誰もしていないことが、私達がやらない理由にはならないわ」

「そ、そうだけど、前来たときは、そんなことしなかったよね。今日の乃愛おかしくない? 夢咲君も乃愛に何か言ってよ」

「本結さん。はずがしがってないで、ちゃんと準備運動して」

 僕は乃愛の隣にならび率先して運動を始める。

 正直僕も恥ずかしいが、人命がかかっている前では、恥ずかしさは些細な問題だ。

「夢咲君まで、どうしたの? そんな堅物キャラじゃなかったよね?」 

 普段の性格とかも些細な問題だ。

 本結さんが溺れる可能性が下がるのであれば、何でもやる所存だ。

 近くにいた家族の話し声が聞こえてくる。

「お姉さんたちも、運動してるから、みんな運動してからはいりましょうね」

「はーい」

 お母さんの声に仲良さそうな三人兄弟が返事をする。

 母親は僕らに一礼する。子供が素直に言うことをきいて嬉しそうだった。

 この流れで本結さんは駄々こねるわけにもいかず、しぶしぶ一緒に体操してくれた。 

「それに、本結さん、泳ぐ場所もう少し、監視員が近い場所がいいと思うんだ」

 僕は、監視員の位置と、監視員が救命道具がちゃんと持っているかどうか確認した。

「凪流、ちょっと監視員のところまで、何秒かかるか測ってみて」

「わかった」

 僕は、乃愛に言われて、監視員のところまで走ってみる。

 往復で30秒か。

 よしとしよう。

 事前に気にかけれるところはこんなものだろう。

 普段は絶対こんなことしないので、占いの結果に影響を与えることができるはずだ。

「ねぇ、なんで二人とも今日は、意識高い系なの。なんでそんなに安全意識が高いの。なにがあったの」

 なにかあったのではなく、何かあるかもしれないから備えているだけ。

 占いの内容は、本結さんに教えたりしないで楽しんでもらおうと二人で決めた。

 ただなんだか裏目っている気がしないでもない。

 僕らのやりとりを見て、峰矢さんは楽しそうに苦笑いしていた。


  海では、本結さんからあまり離れないように気をつけながら、普通に遊んだ。

 自分の占いながら、本結さんが溺死するっていうのが信じられない。

 ライフジャケットや体操やらがいい作用をしてくれているといいが、

 占いの結果が変化したかどうかさすがに海ではタロットカードを広げられない。

 お昼まで何事もなかったので、とりあえず昼食にすることにした。

「私、何か食べ物買ってくるね。紬、勝手に一人で海に入ったりしないでよ」

「しないよ。なんであたし今日は幼児扱いされてるの」

「日頃の行いの結果よ。凪流、ちゃんと見ててね」

 乃愛は、そういうと、海の家の方向に歩いていく。

「夢咲君、日ごろの行いってなに?」

 乃愛の理由付けがどんどん雑になっていっている。

「夢咲くん、綾霧さんが捕まってるよ」

 峰矢さんが僕に伝えてくれた。

 乃愛は僕らから、ちょっと離れただけで、他の数人の男達に捕まっていた。

「峰矢さん。本結さんが海に行かないようみててください」

「夢咲君まで、あたしを幼児扱いする」

 僕は、弁解せずに乃愛のもとに走った。

「何やってるんだよ」

 僕は、急いで乃愛の元にいくと、わかりやすく典型的なナンパにあっていた。

 大学生くらいの男3人組が乃愛の前をふさぐように立っている。

「お姉さん、一人?」

「ご飯食べるなら俺らと食べない?」

「おごってあげるよ」

 乃愛の顔を見ると明らかにイラついているが、ナンパ師達はそんなのお構いなしだ。

 一人の男が乃愛の肩をつかもうとしたので、僕は、無理やり間に割り込んだ。

「すみません。この子、僕の彼女なので」

 とにかくテンプレなセリフを言うだけ言ってみた。

 ナンパしてきたお兄さん達は僕を見た瞬間、『あん?』って顔をした後、完全に僕を見下したのがわかった。

 こいつが彼氏なら、たいしたことないというのがありありとわかった。

 僕は本当に争いごとはダメだ。

 喧嘩なんてしたことないし、ましてや人を殴ったことなんて。

 一人が拳を大袈裟に振り上げてみせそのまま振り下ろす。

 横から伸びてきた手が拳を受け止める。

 その手の持ち主は、そのまま相手の腹を思いっきり殴った。

「俺の命の恩人に手をあげるとはいい度胸だな」

「葉月君……」

 助けてくれたのは、葉月君だった。

 拳を鳴らして、喧嘩上等だと威嚇する。 

 金髪で、三白眼で、ピアスをたくさんつけてて、明らかにヤンキー。

 学校停学になるとか何も気にしていない。

 喧嘩してもいいことないと判断したのか、ナンパ師たちは下がった。

 殴られた男は、腹を痛そうにしかめている。

「彼氏持ちの癖に、ナンパしてくださいみたいな雰囲気出しやがって、馬鹿にしてきたのはそっちだろう」

 他の男が文句を言う。難癖いがいなにものでもない。

「ちっ。やってらんねぇ。いこうぜ」 

 ナンパ師の一人が促すと3人の男達は退散していった。

「葉月君、助かったよ」

「このくらいたいしたことねぇよ」

 吐き捨てるように言った。

「あたしの彼氏マジヤバ。かっこいい」

 あとからゆっくりきた滝音さんが葉月君を絶賛する。

 派手なヒョウ柄の水着でダイナマイトボディを着飾った滝音さんが葉月君に抱きつくこうとする。

「じゃあな夢咲。なんかあったら、いつでも呼んでくれ」

 葉月君は、滝音さんを押し返しながら、さっそうと去っていく。

 

 本当に葉月君は格好いい。

 頼れる兄貴感はんぱない。

 同級生だけど。

 葉月君はヤンキーなのは間違いないけど、別に自分から殴りかかったりしたことはなく、相手が因縁つけてくるのを返り討ちにしているだけとのことだった。


「凪流ありがとう」

「お礼なら、葉月君に……」

「ナンパされて、彼氏に俺の彼女だっていうの一度やってみたかったの」

 僕はうんざりした。

「僕にそういうの求めるのやめてくれる?」

 柄じゃないんだよ。本当に。

 筋トレは多少頑張ったけど、ケンカの仕方なんて知らないんだから。

 僕は、ため息をついて、自分が着ていたパーカーをかぶせた。

 目を引く胸が見えなくなれば多少はましだろう。



 

 乃愛は下手に一人にするとホイホイナンパ師がよってきそうなので、僕も一緒について行くことにした。

 本結さんも、峰矢さんと話してるのが見えたのでとりあえず大丈夫だろう。

 海に近づかなければ、溺死することはない。

 乃愛と焼きそばでも買おうかと相談していると、

 海の店の前で、一番会いたくない人間がいた。

「凪ちゃん……」

 男女二人組のうち女の子の方が僕の名前を呼ぶ。

 小動物のように可愛い女の子だった。

 乃愛がぐいっと僕の腕に両腕を絡ませてくる。

「乃愛!?」

 乃愛はナンパ師の時以上に、警戒心を募らせていた。

「凪ちゃん、この人は?」

「私は、綾霧乃愛。凪流の彼女よ」

 乃愛は僕が答えるより先に、自分で答えた。

「凪流この子は?」

「ゆら、幼なじみだよ」

 一番会いたくないのは、ゆらではなくて……

「おお、凪流じゃないか。久しぶり」

 小さいころは、僕とゆらと一緒に遊んでくれて大好きだったお兄さん。

 今では一番大っきらいな人。

「久しぶり……ナツ兄」

「凪流、別嬪さん連れてるじゃないか」

「まあ」

 僕には嫌みにしか聞こえない。

 乃愛もなぜか、褒められたというのに、険しい顔をしている。

「会ったの一年ぶりぐらいじゃないか」

「そうかも」

 それはそうだ。そのころから嫌いになったのだから

「折角だし、一緒に食べないか」

 絶対いやに決まっている。

「いや、ちょっと他の友達を待たせているから」

 なんだろう。昔はあんなに好きだったのに。

 こんなに嫌がらせしてくる人だっただろうか。

 僕の気持ち気づいていないわけはないのに。

 気持ちがぐらぐらするが、

 乃愛がぴったりくっついてくれているのでどうにか心を保てた。

「そっか。凪ちゃん。またね」

 ゆらに対しては少しだけ申し訳なかった。

「うん。また今度……」

 僕は消え入るような声で、そう答えて別れた。


 ゆら達が見えなくなると乃愛はぱっと腕を放した。

「ふーん。そういうことなんだ」

 ゆらに会うまで機嫌がよかったのに、急に機嫌が悪い。

「ゆらって子、凪流が好きなアイドルに似てるわね」

 本当にこういうときだけ、勘がいい。

「偶然だろ」

「私と付き合っても、全然嬉しそうじゃない理由も、仕方なしなら付き合ってくれてる理由もわかったわ」

「そんなんじゃないよ」

 本当に乃愛は、僕よりぼくのことわかってそうだ。

「それにゆらって子。私にたいして嫌そうな顔をしてたわ」

「はあ? ゆらがそんなことするわけないだろ」

「きっと凪流のことキープしてるつもりだったわね」

「キープってなんだよ」

「自分が好きな人に振られたときの保険」

「何を根拠にそんなこと」

「女の勘よ」

「勘か。乃愛も僕みたいなこと言うじゃないか」

「私も占い師になれそう?」

「きっとね」

 乃愛といつも通り話していると、気持ちが落ち着いてきた。

 みんなには、彼女だと言えて、自分自身には彼女じゃないと言い聞かせることができるこの関係は、僕にとっては都合がよかった。

 居心地もよかった。

 夏休みに入ってからは、今日までゆらのことを思い出すこともなくなっていた。

 死相のことを抜きにしたら、なんだかんだいって、僕も楽しかったのかもしれない。

 だけど、約束の期日も少しずつ近づいている。

 そろそろちゃんとしなければいけない時期が近付いてきたのかもしれなかった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ