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死神のワンオラクル  作者: 名録史郎
5/12

夏休みのワンオラクル2

 夏休み二日目。

 僕と乃愛は、二人で汗を流していた。

 僕は気合いを入れて、体を動かし続ける。

 運動不足だと、自分の体を支えるので精一杯だ。

 慣れない筋肉を使用する所為で、腰やらあちこちの筋肉が悲鳴をあげている。

 僕の方が先に限界がきて倒れ込む。


 何してるかというと、もちろん筋トレだ。

 占いをするなら、道具がそろっている自分の家がいいということで、乃愛を家に呼んだ。

 家に着くなり、乃愛は開口一番


「筋トレしてくれない?」


 そう言った。


「私夏の目標考えてきたの」


 今年の夏の目標は、海でかっこいい彼氏を友達に自慢する事らしい。

 運動部でない僕の体は貧弱。

 お世辞にも他人に見せびらかせる体ではない。

 最初から、そういう体つきのやつを彼氏にすればいいだろうに。


「せめて、あばら骨がわからない程度、胸筋つけて、うっすら割れる程度、腹筋つけてよね」


 運動不足は解消したかったし、ちょっとぐらいならいいかと思い、承諾したのがまちがいだった。

 筋トレメニューも豊富で、一つの筋トレの指定の回数が三桁単位で、吐きそうだ。


「ちょっとこのくらいで、ばてないでよ。次はこれね」


 丁寧にやり方までかかれたメモを見ながら僕は、次の筋トレを始める。


「ほんと、お前、ふざけるなよ。限度ってものがあるだろ。回数多すぎるだろ」 


 腹筋をしながら、息も絶え絶え、僕はしゃべる。


「普通みんなこの位の回数、筋トレしてるわよ」

「誰だよ。そのみんなって奴は」

「多分、自衛隊とかよ。知らないけど」

「自衛隊は普通じゃないだろ」

「しょうがないでしょ。1ヶ月ないぐらいで仕上げないといけないんだから」


 8月中旬に、海に行く約束をしたそうだ。

 もちろん僕は強制参加。

 それはそうだ。

 自慢する彼氏というのは、僕のことなのだから。


「なんで僕がこんなことしなくちゃいけないんだよ」


 となりで同じメニューをこなしている乃愛が僕に言う。


「だから、私も一緒にやってるでしょ。女だってね。筋肉多少ついてる方がむしろ柔らかく見えるのよ。だからみんな筋トレしてるんだから」

「だから、みんなってだれだよ」

「モデルとかに決まってるでしょ。知らないけど」 

「基準にするところがおかしいだろ」


 自衛隊とか、モデルとか一般からかけ離れたところを基準にしてるんだよ


「お前、もうモデルなっちまえよ。そしたらもっとかっこいい彼氏捕まるだろ」

「嫌よ。世間にあんなに、体を晒して恥ずかしいじゃない」

「全然、感性がわからないんだけど」


 僕は、乃愛の友達に体をさらさないといけないのに。


「私は彼氏と友達にいいとこ見せたら、それで十分よ」


 友達に自慢したいだけで、ここまでストイックになれるのは本当に尊敬する。

 それに彼氏って誰だよ。

 ……僕か。

 愛情表現がストレートすぎて逆に分かりずらい。


「みてよほらうっすら腹筋割れてるでしょ」

「おいマジやめろ。普通にエロくて興奮するだろ」


 こういうのって、普通海で初めて体見てドキドキするものじゃないのか。


「お腹見たぐらいで、なに言ってるの? どうせ私のこと好きじゃないんでしょ」

「男の好きと興奮するは別物なんだよ」


 世の中、男向けのアダルトビデオが溢れてるのも知らないのだろうか。


「好きなやつはもちろん興奮するし、なんなら嫌いなやつでも興奮するんだよ。お前から色仕掛けしてきた場合はエロいのなしの条件無理だからな」

「お腹は海で見せるのに?」

「2人っきりでやるなって話だよ」

「どこまでならいいの、ミニスカートは?」

「ダメに決まってるだろ」


 ミニスカートはいて筋トレしたらどこがとは言わないけど、丸見えじゃないか。


「ノースリーブは」

「ダメだって」


 今日着ているのは、胸元も開いているから、乃愛が腹筋とかしていると上から見下ろす角度になり、胸がよく見える。

 ここまでされたら好きとか嫌いとか関係なしにドキドキする。

 理性が飛びそうだ。

 なんか間違いがあったりすると、別れるに別れられなくなるので、さすがに手を出すわけにはいかない。


「スカートは膝まで、袖あり、胸元は絶対あけるな。筋トレするならスカート禁止」

「校則じゃん」

「校則は男子が勉強頭に入るためにあるようなもんだろ」


 さすがに僕も腕やふくらはぎを見ただけでは興奮しない。

 学校の授業中に興奮する変態に頭いいやつはいない。

 そんな奴は男子校に行くしかない。


「わかったわよ。スパッツとか持ってきたらいいんでしょ」

「普通のズボンにしてくれ頼むから」


 完全に僕を悩殺しにきてるだろ。

 勘弁してほしい。  


「少し休憩しましょう。これ私の手作り」


 乃愛からなにか渡された。


「ありがとう。いや、でも何か飲み物に見えるけど? 手作りって、スムージーか何か?」

「プロテイン」

「完全に僕のこと育成ゲームかなにかだと思ってるだろ……」


 この間の服といい、今日の筋トレといい僕を完全に自分好みにしようとしてる。


「凪流がこの夏休みの間だけとかいうからでしょ。普通に付き合ってたら、健康のためとか、一緒に長生きするためとか言って、筋トレさせるわよ」

「結局、筋トレさせるんじゃないか」

「で、どうするの? 飲むの? 飲まないの」

「……飲むよ」


 僕は少しだけ口をつける。意外とおいしかった。


「おいしいでしょ。最近のプロティンは」

「そうだね」


 乃愛は自分もプロティンを飲んだ。

 クラスのみんなはほっそりした乃愛が家では必死に筋トレしてプロティン飲んでいるとは想像したこともないだろう。

 本当は、必死で筋トレしているからほっそりしているのか。

 もちろん血筋もあるのだろうけど、美人はそれ相応の努力をしてるということだろう。


「トイレ借りてもいい?」

「いいよ。一階だよ」


 僕は、乃愛が下の階に降りていくのを確認してから残りのプロティンを飲み干した。

 女の悲鳴が二つ響いた。

 あ、しまった。

 二人とも説明するの忘れてた。

 家につくなり、筋トレなんてさせるものだから、すっかり失念していた。

 僕が慌てて、下の階に降りていくと、乃愛がかわりに登ってきた。

 乃愛は慌てて、僕の部屋に引っ込んでいく。

 僕が一階に降りると、寝起きの恰好をした母さんがいた。


「凪流ちゃん、誰? さっきの女の子」

「えーと、彼女」


 でいいんだよな。

 親にもそれでいいはず。

 期間限定なだけで問題ない。


「凪流ちゃん家ではおとなしいのに今日はうるさくて、変だなって思って」

「はははは」


 僕は乾いた笑いでごまかした。


「凪流ちゃん、二人で運動してたの?」

「うん。まあ、そうだよ」

「できれば、その、お母さんが出勤してからやってほしいなぁ……とか思ったり」

「ああ、ごめんうるさかったよね。起こしちゃったよね?」


 まだいつもなら寝ている時間だ。


「それはいいんだけど」


 やっぱり彼女を呼ぶときは、一言いうようにとかそういうことだろう。

 わざといわなかったのではなく、母さんは夜が遅いので、会わなくて言えなかっただけだけど、メールぐらい入れておけば良かった。


「次から気をつけるよ」


 母さんは胸の前で拳を握りしめている。


「お母さんがんばるから」

「うん?」

「お母さん、自営業だけど、テレビにも出たことあるし、自営業だけど、大御所の政治家のお客さんもいるし、自営業だけど、普通の母子家庭より全然稼いでるし、自営業だけど、安定してるから、何も心配することないからね」

「うん。しってるよ」


 そんなに自営業連呼しなくてもいいのに。

 母子家庭だけど、お母さんの稼ぎは普通の家よりものすごくいいのは知っている。

 それにしても、息子が部屋で筋トレしただけでなぜ決意を新たにしているんだろう。


「凪流ちゃん。今日はお店しめた後もあっちで原稿するから夜はかなり遅くなるから多分帰ってくるの夜の11時ぐらいになると思うよ」

「ええ、ああ、うん。夕ご飯作ったら冷蔵庫に入れておくよ」


 いつもは息子にそんな詳しく帰る時間まで言ったりしないのに、今日は本当にどうしたんだ。


「家族が四人になっても大丈夫だから」


 そうか。

 息子が彼女を連れてきたから、嫁入りを想定してるのか。


「お母さん気が早いよ」


 家族増えるとお金かかる。

 僕はまだ学生だ。

 ん? あれ? でも四人?

 人数が合わないような?

 あと一人はどっから来たんだ……。

 ……。

 あ、そういうことか。

 僕は顔がほてるのを感じた。


「母さん、僕たちは筋トレしていただけだよ」


 僕は慌てて弁解する。


「あはは、うん。筋トレ。そうね。そうよね」


 母さんは視線をふらふらさせて合わせようとしない。


「ねえ。ちょっと全然信じてないよね」

「筋トレするなら、お母さん家にいない方がいいよね」

「別に全然いてくれていいから」

「凪流も思春期だもんね。わかる、わかるわ。お母さんに言えないこともあるよね」

「そういうことじゃないよ」

「じゃあ、お母さん行くからね」


 母さんは、それ以上息子の口からなにも聞きたくないと言わんばかりに視線を逸らして、自分の部屋で着替えを始める。


「いかがわしいことなんて、なんにもしてないから! ねえってば!」


 息子の主張をなにも聞かずに最低限の身支度だけして飛び出していってしまった。

 僕が呆然と母さんが出て行った玄関を見ていると乃愛が、僕の部屋から顔をのぞかせた。


「ちょっとお母さんいるなら教えといてよ。あなたのお母さん今日お休み?」

「母さんは、仕事午後からだよ。夜お店あけてる方がお客さん来るから」

「そうなのね。うちの両親は、朝7時には二人ともいないから、働いている人はみんなそうだと思っていたわ」


 会社員の親はだいたいそうなのかもしれない。


「お父さんは、普通の仕事?」

「父さんはいないよ」

「えっ?」

「離婚とかじゃないよ。僕が中学のころ病気で死んじゃって」

「ごめんなさい」

「別に気にしなくていいよ。もうずいぶん前のことだから」


 ありがちな癌で死んだだけだ。

 父さんは母さんより十も年上だったから、若くしてというわけでもなかった。

 それでも早い方だけど、まあ、そういうこともあるだろう。

 いくら母さんが一流の占い師でも、回避できない未来はある。

 100年後の未来が見える人間なんていないのだから。

 それに母子家庭だけど、母さんの稼ぎは普通の家庭よりよっぽどいい。

 ちょっとだけバツが悪そうにしていた乃愛が気を取り直して僕に言った。


「休憩したら、筋トレの続きしましょう」

「まだやるのかよ」

「当たり前でしょう。さっき休憩って言ったよね」


 僕は、体力が有り余っている乃愛を見て、げんなりした。


「さっき飲んだプロテインの量なら、もっと運動しないと逆に体に悪いわよ」

「罠を張り巡らせるのやめてくれないかな」


 さらにげんなりした。

 乃愛は本当にやりたい放題すぎるよ。

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