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死神のワンオラクル  作者: 名録史郎
4/12

夏休みのワンオラクル1

 乃愛の死が回避できて、めでたしめでたしのハッピーエンド……。

 どうやら、そういうわけではなかったらしい。


◇ ◇ ◇


 夏休み初日、僕は、乃愛を近所の喫茶店に呼び出した。

 目的は、乃愛と別れるため。

 最初の約束は夏休みの間だったが、そう設定したのは、来月死にそうだったからだ。

 乃愛の死は回避できたし、僕が付き合い続ける理由が特になくなったからだ。

 一応は、付き合ったわけだから、本結さんに嘘吐き呼ばわりはされないだろう。


「ということで別れよう」


 僕はそう切り出した。


「嫌よ。約束は夏休みの間だったでしょう。反故はなしよ」


 そういうとはおもったよ。


「それにしても、本当に僕のこと好きだったんだな」


 知らないのはむしろ僕ぐらいだった。

 噂の広がり方が早かったわけだ。

 乃愛はムッとして言う。


「馬鹿なの? 好きでもないのに告白したりするわけないでしょ」


 けなすのか、愛を伝えるのかどっちかにしてほしい。


「でも幻滅したって言ってただろ」

「あんなの言葉の綾に決まってるでしょ。私が好きでもないやつに呼び出されて、わざわざやってきたりすると思うの。そんなこともわからないの。頭のねじ飛んでるの?」


 だから、けなすか愛を伝えるのかどっちかにしようよ。

 店員が乃愛の前に頼んでいたパフェを運んでくる。なんだか大きくないか。


「私、一人じゃ食べきらないし、一緒に食べてくれない?」


 スプーンを取って渡してくる。

 乃愛は、一口たべると満足そうにうなずいた。

 ぼんやりしている僕に言う。


「どうしたの食べないの? おいしいわよ。なんなら食べさせてあげようか?」


 乃愛はさりげなく恋人イベント盛り込んでくるよな。

 僕はため息が出る。


「自分で食べるよ」


 一口もらって気づいたが、食べさせてもらうよりはましだけど、一つのパフェを二人で食べるのは十分いちゃついてるように周りから見えるのではないだろうか。

 乃愛に、全力で外堀から埋められていってる気がするな。

 今はアイドルより好きな子いないし、僕のこと好きで、その気にさせてくれるならそれならそれでいいんだけど、性格が好みじゃないんだけで。

 乃愛は、ツンデレともなんか違う気がするんだよな。

 一番近いのは、俺様キャラなんだけど。

 俺様キャラの女バージョンはなんていったらいいんだろう?

 私様かな?

 そうかと思うと自分の水を取りに行く時は、さりげなく僕の分も持ってきてくれたりもする。 

 自意識過剰オンリーワンなのに、素直さと優しさが同居してる。

 根はいい奴なんだよな態度がわるいだけで。

 思ったより話慣れたし、不快な感じはもう特にない。


「占いを手伝えばいいんでしょ。夏休みの間一人寂しく占いするよりいいでしょ。とりあえず私のこと占ってみたらどう?」


 まあ、夏の間はいいか。

 乃愛が彼女だと誤解されても、困る人間は……宏隆ぐらいだった。

 今は別にいない。

 学校がないと、占いする相手がいなくて困るのも確かだし、夏休みの間こき使ってやろう。

 僕は、あんまり周りの視線とか気にするのをやめて、乃愛の前にあるアイスを左手にもつスプーンで口に運びながら、右手で机の上に置いていたタロットカードをワンオラクルした。

 

 めくれたのは、死神のカードだった。


「なんで……?」


 僕は思わず、アイスをこぼした。

 カードから乃愛が死ぬイメージが流れ込んでくる。


「ちょっとこぼさないでよ。あんまりいい結果じゃなかったの」


 流れ込んできたイメージは、乃愛から告白されたときの占いと全く同種のものだった。


「……やっぱり乃愛は来月死ぬらしい」


 乃愛も驚いて僕の顔を見てくる。


「どういうことなの」

「どういうことなのかは僕にもさっぱりわからない」


 占いに理屈を求められても困る。

 宏隆は乃愛を殺して自分も死ぬというようなことを話していたので、僕はてっきり宏隆の未来が見えないことと、乃愛の死が連動しているものだと思っていた。

 警察にも、最初は乃愛が狙われていたというような話をしっかりしたし、宏隆に今後刺されたりしないかは、僕は、しっかり占っておいたので、今は大丈夫になったはず。

 ということは、もともと乃愛が死ぬ理由は宏隆とは関係なくて、僕が付き合うことにしたから、宏隆が発狂して、乃愛の死が上書きされたということなのかもしれない。

 僕が動揺していると、乃愛は嬉しそうにしていた。


「よかったわね」

「なにもよくないよ。乃愛しぬんだけど」


 意味が分からない。なんで自分が死にそうなのに喜んでいるんだ。


「凪流が毎日占って、どうにかしてくれるんでしょ」

「どうにかなればいいけど」

「凪流は私が死にそうな間は見捨てられないでしょ。死にたくはないけど、死にそうって占いがでてるのは私的にはラッキー。一緒にいる口実ができたわ」


 僕の優しさにつけこまないでほしいなぁ。

 僕も惚れた弱みにつけこんで、占い手伝わせようとしてたけどさ。


それに、「言っとくけど、僕は、運動もダメだし、占い以外に特技はないよ。物理的に守るとか無理だから」


 この間は逃げる暇もなく刺されたけれど、ピンチのときはひとりで逃げる。

 みんな死んで欲しくはないけど、自分が一番死にたくない。


「知ってるわよ。そのくらい」


 はっきり言われるのは、それはそれでショックだけど。


「それに今まで学校でしか会ったことなかったからわからなかったけど、私服もダサいわね」

「それ自分の彼氏に言うことなのか」


 ジーンズにTシャツという何も考えていない恰好だから、そういわれてもしかたがないけど。


「顔はお母さん譲りよね。かっこいいと思ってるわ」

「ああ、そう」


 会ったことはないはずだが、母さん有名人なのでネットで検索すれば写真はいっぱい出てくる。

 どこかで見たのかもしれない。

 それにしても、乃愛が僕を好きな要素は顔か。占い師を目指している僕にとっては顔がいいといってもらえることは、いいことではある。

 でも好きなところは結局顔か。

 なんだか少し残念だ。


「まずは、私の彼氏に相応しいような洋服から買いに行きましょう」

「うん。僕のこと育成ゲームかなにかだと思ってるだろ」


 僕は呆れたが、女の子目線で服選んでもらえるのはありがたかったので、僕らはパフェを食べ終わった後で、服を普通に買いに行った。

 乃愛は僕に買わした服と同じ種類の服を自分も後で買って、勝手にペアルックにしていた。

 夏の間に、僕の恋人気分を満喫しきるつもりなんだろう。

 死ぬかもしれないのに、のんきなもんだ。


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