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死神のワンオラクル  作者: 名録史郎
2/12

始まりのワンオラクル

「思い過ごしだといいんだけどな」


 ようやく放課後である。

 占いをするのに休憩時間は短すぎるので、今日は放課後が待ち遠しかった。

 昨日の宏隆の占いはなんだかおかしかった。

 調子が悪い……ならよかったんだけど、なんだか調子はいい気がするのが余計に気がかりだった。

 僕はわざとらしくタロットカードを机に広げてみせる。

 勝手にみんなを占ってもいいが、やっぱり対面で会話をしながらやる占いの方が結果がよくわかる。

 僕が有名な占い師の息子であることは知られているので、教室でタロットカードを触っていると興味本位で話かけてくる女子がよくいる。

 今日は、ちょっと積極的に占わせてほしい。

 誰も話しかけてこなければ、自分からお願いしようと思っていると、本結さんが目の前の席に座ってきた。


「夢咲君、ちょっといい?」


 本結さんは、結構占い好きなので、時々お願いされる。

 最近も彼氏との相性をみてあげたりしたばかりだ。

 相手が大学生とは知らなかったけど、うまくいっているようでなによりだった。


「本結さん、ちょうどよかったよ」


 ちょっと占わせて、と言おうとすると、

「夢咲君、乃愛と付き合ってるんだって?」


 突然の爆弾発言に、クラスの空気が凍りつくのを感じた。

 それほど大きな声ではなかったはずだが、人気者の本結さんがしゃべると声が通る。

 ただでさえ、本結さんと話すだけで、羨ましそうな視線を向けられるのに、とんでもないデマを流された。


「はあ、何言ってるんだよ?」


 本結さんは僕の態度にきょとんとしている。

 冗談で言ってるわけではなさそうだ。


「あ、分かった。照れてるんだね。そんな照れなくてもいいのに」

「はあ?」


 照れるも何も意味不明である。

 なにがどうしてどうなったらそんなデマを信じることになるんだ。

 綾霧さんとは、仲良く話したこともない。

 占わせてもらったことはあるけど、一度ぐらいだ。

 それに占わせてもらうのはクラス全員の女子にお願いしているから、特別なことでもない。

 全く心当たりがない。

 何のことだ?

 クラスのなかでは、美人だとは、思うがそれがどうしたというのだろう。

 別に僕の好みではない。

 なのに、クラスの男達から謎の反感を買っている。

 僕がクラスの中で占いを通して、女の子たちに親し気に話しかけても、今まで男たちからそれほど反感を買わなかったのは、僕自身が占ってきた女の子の恋愛にかかわったりしてこなかったからだ。

 ちょっと状況がわからないけど、しっかり弁解しておこう。

 そうおもったら、いつの間にか僕の隣に綾霧さん本人がたっていた。

 本人がいるのなら話が早い。

 本人の口から否定してもらおう。

 僕が口を開こうとすると、綾霧さんはそれより早く、僕の手をにぎる。


「ちょっと来て」


 有無をいわさないすごい力で、僕を引きずるようにひっぱった。


「えっ? ちょっと何? 僕忙しいんだけど」


 意味がわからなさすぎて、抵抗する気力が沸いてこない。

 クラスを出ると、そのまま人気のないほうへひっぱられていく。

 ついたのは屋上へとつづく階段の踊り場だった。


「こんなところに連れてきて、要件はなに?」


 綾霧さんは、突然しおらしくなってぼそりと言った。


「……付き合ってほしい」 

「えっ。付き合ってほしいって何? 男女交際的なやつ?」


 僕がそう聞き返すと、しおらしさはなくなり、つんとした表情になった。


「そうに決まっているでしょう」


 あまりに強い言い方なので、まるで告白する態度に思えない。


 告白ドッキリだろうか。

 僕がはいと返事をしたとたん、カメラを向けられ笑いものにされるような……。

 正直勘弁してほしい。


「なんの罰ゲームか知らないけど、人を巻き込まないでほしいんだけど」

「罰ゲームって酷くない? 私は本気で言ってるのに」

「本気でも嘘でもどっちでもいいよ。とにかく、僕は綾霧さんとつき合う気はないよ」


 断られることを想定していなかったのか、僕の返事に綾霧さんに動揺がはしる。


「ほ、ほら、私クラスで一番、かわいいでしょ?」


 ちょっと釣り目で、気の強そうな態度。

 すらりとしていながら、出るとこは出ているプロポーションと、すっきり整った顔立ち。

 可愛い系か美人系かと言われたら、美人系なのではないだろうか。

 ただ自分で自分のこと可愛いという奴は可愛くない。


「いや全然、高嶺みはるの方がかわいいよ」

「誰それ?」

「アイドルだよ」

「思い出したわ。さすがに日本一のアイドルグループと比較されても困るわ」

「アイドルグループのコンセプトはクラスで一番かわいい子だよ。比較としてはちょうどいいだろ」

「断るなら断るで、せめて他に好きな人がいるぐらい言いなさいよ」

「だから、他に好きな人がいるって言ってるだろ」

「アイドルは却下よ」

「なんでだよ。別にいいだろ」

「アイドルは、絶対付き合えるわけないんだから」


 なんて酷いことを言うんだ。

 宝くじに当たるより、可能性が低いかもしれないがゼロではないはずだ。

 握手までならしたこともある。

 お金ははらったけれど。


「せめてクラスの他の女子とかにしなさい。そうでないなら、お試しに私と付き合いなさい」


 そんな上から目線の告白あるかよ。

 告白されたのこれが初めてだから、比較はできないけれど、絶対なんか違う。


「絶対それ、付き合って欲しい方の態度じゃないからな。絶対いやだよ」

 

 僕の返事に、ぐっと息をのんだ。


「す、数ヶ月だけでもいいから」


 なんかちょっと譲歩したぞ。

 罰ゲームにしては、なんか粘るな。

 だからといって付き合う気はない。


「なんでそこまで、僕にこだわるんだよ」


 罰ゲームなら他の人にしてほしいし。

 本気の告白なら、なぜ僕なのかわからない。


「えーと、その……紬に乃愛は、彼氏できないの? て聞かれて、夢咲君って答えちゃって」

「……いや、なにやってるんだよ」


 それで突然、本結さんが僕のところに突撃してきたのか。

 本結さん、大学生とつき合ってるらしいし、自慢されて、見栄はったのか。

 それはいいとして、何故彼氏役を僕にした。

 喜んで引き受ける奴なら他にも沢山いるだろうに。


「彼氏のふりでいいからしてくれない」

「なんで僕が。理由はわかったけど、自業自得だろ」


 綾霧さんはキッと睨む。


「他の女の子にするみたいに、私にも少しは優しくしてくれてもいいじゃない」


 綾霧さんは僕を突き飛ばした。

 たいしたちからではなかったが、僕は体をよろめかせて、手に持っていたタロットを一枚落とした。

 死神のカードだった。

 僕は死神のカードを見ながら言った。


「ほらみろ。どうせお前も来月には死ぬんだから」


 綾霧さんは目に涙を浮かべる。


「私のこと好きじゃなくても、そこまで酷いこと言わなくてもよくない?」


 綾霧さんの泣き顔をみてはっとする。


「ちょっと待って、今僕なんて言った?」


 僕は、僕自身が発した言葉に衝撃を受けていた。


「はあ? 自分で言ったんでしょ。私が死ぬって」

「そこだけじゃなくて、お前『も』って言ったよね」

「たしか、そうだったと思うけど、なんなのよ」


 確かに頭には来ていたけど、僕は女の子に悪口を言ったりはしない。

 僕は悪口ではなくて、タロットを見た瞬間、インスパイアから占いの結果を言ったにすぎない。

 つまり……目の前にいる綾霧さんもそうだけど、このままだと身近な誰かが他にも死ぬということだ。

 多分一番の候補は宏隆。

 昨日の占いの結果はそういうことだろう。

 ということは、今からやるべきことは、目の前の綾霧さんを占うことだ。

 そうなってくると……。


 背に腹は代えられない。

 僕は、ぐっとこらえて言った。


「……いまから数ヶ月ってことは、夏休みの間だけでいい?」

「何の話?」

「付き合う話だよ」

「いまさら、どういう心変わりなの?」

「僕の条件をのんでくれたら、夏休みの間だけなら、付き合ってもいい」

「今更なによ。エロいことさせろとか言うんじゃないでしょうね」


 興味がないわけではないけど、そんな外道なことを条件にしたりしない。 


「条件は、僕の占いの練習に付き合ってほしいだけだよ」

「それくらいならいいけど」

「それは了承ってことだよね。僕は夏休み、毎日、占いするつもりだからよろしくね」

「はあ!? 毎日? 嘘でしょ」


 綾霧さんを今から毎日占えば、些細な変化にも気づくだろう。

 何故死ぬのかわかれば、そんな未来を回避できるかもしれない。

 そのためには不本意だけど、恋人同士になって近くにいたほうがいい。


「そのかわり、僕も君の友達にたいして、恋人らしく振る舞ってあげる。夏休みがおわれば綾霧さんが振ったことにしてくれてもいい」


 妥協点としてはこれでいいだろう。

 綾霧さんは正直好みではない。

 宏隆も他のクラスメイトも綾霧さんのこと好きな奴が多いが、男をアクセサリーか何かと思っているような女のどこがいいんだろうか。

 見た目か。

 まあ、普通それがすべてだよな。

 長い艶やかな髪。

 すらりと伸びた足。

 細くくびれた腰。

 それなりに膨れた胸。

 整った顔立ち。

 みんなが惚れるのもわからなくもないけれど、性格が最悪。僕は遠慮したい。

 だけど、夏休み中にクラスメイトの葬式なんて行きたくない。

 好きとか嫌いとか関係なしに、死相がでているクラスメイトをさすがにほっとけない。


「どうする? 本結さんに付き合ってるって言っちゃたんだろ?」

「付き合うわよ。でも、こっちだってもう幻滅したんだから、振りだけだからね」

「はいはい。わかったよ」


 好きでもないのに、必要以上にベタベタされてもかなわない。

 あくまで振りなのだから、誰も見ていないところで、優しくする必要はないだろう。

 占い師は印象が九割だから、普段は努めて好青年を演じてきたのに、もうずいぶん地が出てしまった。

 自分の彼氏の悪口は言って回ったりしないだろうから、雑に扱っても大丈夫だろう。

 とりあえず、死なないという確信が持てたら何でもよかった。


 教室に戻ったあとも散々だった。

 興味津々の本結さんには、乃愛に口止めされていたけど、本結さんが知ってたから驚いたというような話を適当にした。


「全然そんな仲良さそうなそぶりなかったのに、不思議ね」

 と本結さんは、首をかしげる。


 大丈夫その認識は間違っていない。

 僕が一番そう感じている。


 いつも占いばっかりやってるので、クラスメイトの男子で本当に仲いい奴は宏隆ぐらいだが、宏隆は昨日、綾霧さんとの恋占いをしたばかり。

 絶交だと言われても仕方がない状況だ。

 戻ったときには、部活にいったのかいなかったが、教室でのやり取りを聞いていなかったわけがないので、明日どんな顔をして会えばいいかわからない。

 綾霧さんから告白されたといえば納得してくれるだろうか。

 ……無理だろうな。

 一発ぐらい殴られる覚悟はしていた方がいいかもしれない。


 帰り道、喫茶店でデートという名の打ち合わせを行った。

 連絡先の交換。

 今後は下の名前で呼ぶこと。

 お互いの家の住所。

 等々、僕らはお互いのことで知らないことが多過ぎる。というか占いで使った名前と誕生日以外ほとんど何も知らなかったといってもいい。

 普通だったら、お友達から始めた方がいいレベルだった。

 人生初の彼女、しかも人がうらやむような美人なのに、嬉しさがほとんどない。

 逆にいうと少しは嬉しいが、完全に不安と憂鬱さが上回っている。

 事務的に高速でお互いの情報をやりとりし、とりあえず見た目だけ、普通のカップルまで押し上げた所為で、付き合い初めのドキドキとかは、まるでなくてなんだか損した気分だった。


 家に帰ると簡単に二人分の夕飯を作った。

 父さんはもう死んでいて、僕は一人っ子。

 母さんはいつも夜が遅いので、高校に入ってからは、僕が作ることにしている。

 夕飯を食べてから早速、占いを始めた。


「死がはっきり見えたのは綾霧さん。ああ、そっかもう乃愛って呼ばないと」


 ボロがでないように、独り言でも乃愛と呼んでおくべきだろう。


「とにかく、まずは乃愛からしっかり占うべきなんだよな」


 まだ来月とはいえ、高校生で余命30日とか嫌すぎる。

 形だけで、どうせ別れるのは確定しているが、今は彼氏。

 偽装であっても、付き合ってる彼女が死んでうれしいわけではない。


「高校生が死ぬ原因ってなんだ。元気そうに見えて、病気とかだったら、今から病院に行けば間に合うかもしれない。あとは交通事故とかかな。自殺はするようには見えないし、失恋のショックでとかは流石にないよな。一応は付き合えたわけだから」


 本当に僕のこと好きだったか怪しいが、とりあえず、占ってみることにする。

 本当はやりたくないが、人の命がかかっている緊急事態だ。

 普通にタロットで占うのではなく小細工することにした。

 白い紙に、注射器と車と首吊りの紐の絵をかいてみて、タロットカードにすぐとれるテープでぺたりと貼る。

 本来だったら、タロットカードにかかれている絵柄から占いの結果を予測しなければならないが、こうしておけば、解釈に悩まなくていい。

 僕は、さっそくカードをシャッフルし、めくってみる。

 何も貼っていないカードがめくれた。


「じゃあ、違うのかな。災害とかだと、夏だし溺死とか、山登りいって墜落死、遭難して餓死とか」


 山、海、食べ物に×、どんどん絵を描いていく。

 またタロットの山に混ぜて、ワンオラクル。

 なんでもないカードをひいた。


「これも違うのか。じゃあ、なんだよ。事件に巻き込まれるのか」


 刺死、焼死、毒死、を連想できるナイフ、炎、毒入り試験管の絵を描いて、またタロットカードに混ぜる。

 そして、僕はカードをめくった。

 めくれたカードはナイフのカード。

 僕が刺死をイメージして書いた紙だ。


「誰かに刺されるのか……」


 僕は探偵とかじゃないから推理とか無理。

 容疑者を絞れれば、犯人はわかる。


「恨みは……買ってそうだな」


 お世辞にも性格がいいとは言えない。

 モテてるようだし、振った男は数知れないだろう。

 あの感じだと、後腐れがないようにだなんて気にした対応もしてないだろうし。

 性格はともかく美人には違いないから夜道でおそわれて、脅しで使用するつもりだったナイフを相手がうっかり使ってしまうとかいう展開はありそうな気がする。


「とりあえず、事件が起こる日まで頑張って占って、その日は、家から一歩も出ないようにして、なるべくにぎやかに泥棒とか入ってこないようにすれば、どうにかなるかな?」


 実は強烈なドジっ子で、料理中にすっころんで、包丁がぐさりとか占い以前の問題だ。

 もしそうならさすがに諦めだ。


「さすがに、死ぬ日までは占えないか」


 タロットカードで、日程を割り出そうとするなら、小アルカナを利用するのが良さそうだけど、死因の絵を描いたりしたように、少し小細工が必要そうだ。

 ただ少し遠い未来だと結末だけは決まっていて、細かい日にちまでは運命が決まっていないかもしれない。

 死ぬのが来月なら、まだ慌てる必要はないだろう。

 そう思っていると、携帯電話が鳴りだした。

 着信者は綾霧乃愛。

 さすがに無視するわけにはいかないだろう。


「どうした? こんな夜中に」

「どうした? じゃないでしょ。折角、可愛い彼女ができて、電話番号も教えてあげたのに、かけてこないわけ? しびれ切らしてこっちからかけちゃったじゃない」

「特に用もないよ」

「恋人同士は用もなくても、電話かけるものなのわかるでしょ? ちょっとぐらい私のこと気にかけてくれた?」


 振りだけなんだから、誰も見ていないところで恋人のように振る舞う必要はないと思う。

 友達に対する見栄だけじゃなくて、本当に僕のことが好きなのだろうか?

 幻滅したと言っていただろうに。

 いまいちよくわからない。

 それに今までしてたのは……、


「ずっと乃愛のこと占ってたんだけど」

「ようやく私の魅力がわかってきたのね」


 どんな自意識過剰なんだ……。

 電話じゃなかったら、ひっぱたいていたところだ。

 実際DVしたりはしないけど、もうちょっとおしとやかさが欲しい。


「で、どんな結果だったわけ?」

「死因は刺殺みたい」

「相性占いとかしてたんじゃないの? なにそんな物騒なこと占ってるのよ。まだ来月私が死ぬって本気で言ってるの?」

「一応心配してるんだけど」


 占いなんて半信半疑が当たり前、自分が死ぬって占いならなおさらなのもよくわかる。


「信じらんない。ちょっと、そんな占いじゃなくて、明日の運勢占ってよ」


 まあ、まだ来月だとわかっているのだから、そこまで焦らなくてもいいだろう。

 僕はため息ついた。


「分かったよ。明日の運勢ね」


 明日の運勢ぐらい、カード一枚めくればいいだけなんだから、簡単だ。

 僕は、乃愛の顔を思い浮かべながら、ワンオラクルしようとする。


 カードが引けなかった。


 宏隆を占った時と同じように指が動かなかった。

 僕は今日の運勢に切り替えて、タロットカードを引く。

 表になったカードは死神のカード。

 ようやくわかってきた。

 このカード自身に死の意味がほとんどなくても、僕はこのカードから死のイメージも読み取っている。

 本来の意味もあるけど、死が近いという意味もあるようだ。


「……今どこにいる」

「明日の運勢はどうしたのよ?」

「占えない……」

「どうして?」

「考えられるのは、乃愛が今日死ぬかもしれない」

「なんでよ。占いでも、死ぬのは来月なんでしょ?」

「あの占いの結果を見てから乃愛と付き合うことを決めた」


 つまり、付き合わなければ、来月死ぬはずだったのに、付き合うことに変更したせいで未来が変わった。

 占いで行動を変えた結果、未来がよくなるとは限らない。

 原因はわからないが、今回の場合死期が早まった。

 家ならまだいい。

 しっかり戸締りさせて、一か所で大声でずっと電話をしていれば、暴漢が家に入り込んでいたとしても、無理に襲ってはこないだろう。

 外ならまずい。

 どこから、暴漢が襲ってくるかわからない。


「運命が変わったのかもしれない。とにかく今どこにいるんだよ」

「自分の近くのコンビニにいるけど? でもたかが占いでしょ。そこまで心配しなくていいじゃない」


 仮にも僕の彼女なら、たかがなんて言わないでほしいな。

 でもそんなことより、女の子が、なんでこんな遅くに出歩いてるんだよ。

 もう十時じゃないか。

 今日はあと2時間しか残ってないぞ。

 コンビニか、夜道よりは、まだましか?

 でも、コンビニ強盗とかよくニュースになってるぞ。

 ありえる。 


「店員さんはいる?」

「当たり前でしょ。なにいってるの」

「どんな人?」

「男の人よ」

「年齢と体格は」

「大学生かな。結構体格いいわよ」

「見たことある人?」

「結構、前からいる人よ」


 勤務中の人がいきなり刃物もって襲ってきたりはしないだろう。

 それなら、帰り道よりは、コンビニの方が安全かもしれない。

 占わなければ、コンビニに長居する事もないだろうから、これで少しは運命も変わるはず。

 警察に電話するか?

 いやだめだろ。占いで死ぬかもしれないから守ってくださいとかどう説明すれば、いいかわからない。


「今から行くから、絶対そのコンビニ動かないで」


 僕になにかできるかわからないが、その場にいる人間も変わればさらに未来は変わるはずだ。


「今からこっちくるの? そこそこ距離あるけど」


 住所はおしえてもらっている。

 自転車で15分ぐらいだ。

 ものすごく遠いわけでもない。


「じゃあ、待ってるから」


 電話越しの声が、なんだか少し嬉しそうに聞こえた。



 僕は、夏だというのにできるだけ、皮のジャケットを上に着て、胸に小さめのまな板と腹に雑誌を挟んで、家の中で唯一武器になりそうな子供用の金属バットを持つと、自転車にまたがって、乃愛の元に向かった。

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