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死神のワンオラクル  作者: 名録史郎
12/12

幸福の味方

 月曜日、僕と乃愛は、廊下から中庭を見下ろしていた。

 夏休み前に占ってあげた女の子二人組が男につめよっている。

「私のことが一番好きって言ったよね」

「あたしのこと、誰よりも愛してるんでしょう」

 きっと詰め寄られている男の人が、うわさの先輩だろう。

 女性にモテるだけあって、かなりカッコいい。

 今は二人に詰め寄られてたじたじだ。

「何あれ? ださ」

 乃愛は、その様子をみて呆れている。

「あの二人夏休み前に占ってあげたんだけどさ。あの状況になるのがわかっていたから、どうにかしてあげたかったんだけど」

「凪流は、占いで当ててあげたんでしょ。何も気にする必要ないじゃない」

「そういうわけにはいかないよ。占い師なんだからさ」

「未来を当てるのが、占い師でしょ」

「違うよ。いい未来の道しるべを提示してあげるのが占い師だよ」

「じゃあ、あれはあれで幸せなんじゃないの?」

「どこが?」

「男は、女の子二人にモテてるわけでしょ。女の子二人も両思いには違いないし」

「いや、まあ、そうかもしれないけどさ」

 幸せの感じ方は人それぞれだし、人の付き合い方もそれぞれだ。

 僕らの場合は……。

「凪流?」

 乃愛が僕にきく。

「何?」

「ちゃんと約束覚えてる?」

 私が死ぬまでは付き合ってよ。

 乃愛は確かにそういった。

「覚えてるけど、やっぱり条件があるんだよね」

「今度こそ、エロいことがしたいんでしょ?」

 僕は、ふふふと笑った。

「ちゃんと乃愛は僕より長生きしてよね。じゃないと別れることになっちゃうだろ?」

「じゃあ、今の内に死んだ後もに期間延長お願いしてもいい?」

「長生きしてくれるなら、もちろんいいよ。じゃあ、条件はエロいことだけにしとこうかな」

「なによ。やっぱりしたいんじゃない」

「ははは」

 僕は、笑った。

 男の子だし、好きな女の子といろいろしたいのは当たり前だ。

 もちろん。そのうちの話だ。

 いますぐじゃなくていい。

 将来があるのだから、あわてなくていい。

 僕らの運勢は変わった。

 明日も間違いなく占える。

「凪流、少しだけよくわからなかったから。聞いてもいいかしら」

「いいよ」

「どうして凪流は先生が偽物だって知っていたの?」

「探さなきゃいけないものが、先生の現在だとわかれば、過去の死神の意味は転機ではなく死になるよ」

「でも、凪流、高木先生は犯人じゃないって言ってなかった」

「だから、高木先生はすでに殺されてたんだから犯人じゃない。被害者だよ。僕は高木先生を占ったんだ。僕らの前に教育実習で教壇に立っていた名前も知らない人じゃない」

「そうね。確かにその通りだわ」

 名は体を表すというように、名前は占いに重要だ。

 占いでは、僕が念じた通り、本物の高木先生の運勢が表示されていた。

「金曜日、家に帰って、タロット占いの指示通り先生がどこにいるかダウジングしたよ。隣の県の山中だった。何度やっても、そんなとこにいるわけがないっていうぐらい山奥でさ。でもきっと高木先生はそこにいるんだよ。僕の占いはあたるし」

「山奥だったら閉じ込められている可能性だって……ないのよね。占いで死んでるって出てるわけだから」

 先生が死んでるというのも、山奥にいるのも、すべて占いでの話だ。確証はない。

 僕らが確証を得て警察に話したことは、僕らの学校に教育実習にきた高木先生が本物ではないということ。

 あとは警察にそのことを話して、学校のすみからすみまで調べてほしいとお願いした。

 特にエアコンの中を見てほしいと。

 ダウジングでそこに毒薬が仕掛けられていたのはわかっていたから。

 担当してくれた警察の人が爆弾事件のときと同じ人でよかった。

 爆弾が仕掛けられているかもと思ってくれたらしい。

 実際は毒薬だったわけだけど。

 きっと日中30度をこえてエアコンが起動したときに毒ガスを撒き散らすようになっていたにちがいない。

「でも、どうして毒薬で全員死ぬとこだったのかしら。毒薬に気づいて逃げ出せば、何人か助かりそうなものだけど」

「今日学校に来たときに、気づいたんだけど、教室の扉が外と内側が入れ替わってた。窓もそうだよ」

「入れ替わるとどうなるの」

「あの扉、鍵が閉めれるから外から鍵がかけられるようになる。窓もそうだよ」

「閉じ込められるってこと?」

「そういうことだよ」

 探偵物の小説にでてくるような。

 不可能を演出するような密室ではない。

 中にいる人間を確実に殺すような密室だ。

 毒ガスで少し弱れば、窓ガラスを割ったり力がいることできなかったのだろう。

 確実にみんな死んでいたに違いない。

「大学行く前に、私にもちゃんと教えてくれたら良かったのに」

「危険なことはなかったから。それに、占いだからさ。本当は高木先生が死んでいるなんて結果、僕ははずれてほしいと思っていたんだ」

 占いで未来は知れても、確定ではない。

 だけど、過去は絶対にどうにもならない。

「あとわからないのは、凪流の力があれば、爆誕魔も毒殺魔も簡単に捕まえられるでしょ。どうして警察に連絡しないの」

 ダウジングのことを言っているのだろう。

 乃愛は、高木先生や、島崎さんの無念を晴らしてあげたいのだろう。

 その気持ちもよくわかる。だけど……、

「占った結果、もう未来で誰かが傷ついたりすることはないことはわかってるよ。僕がこの力を使って、警察官になりたいなら、捕まえるけど、僕がなりたいのは占い師だからさ。占い師はね。相手がどんな人でも幸せを願うよ。悪い人にとって、警察に捕まることは不幸なことだろう」

「それはそうだけど」

「誰かの正義はさ。他の誰かを不幸にするからね。僕は、正義の味方ではなくて、幸福の味方。悪いことをする人間だって、きっと自分の幸せの為に、悪いことをしてると思うんだ。そんなことをしなくても、もっと他に……他の人と一緒に幸せになれる方法を提示してあげるのが僕の役目だよ。みんなが幸せな世界になれば、悪いひともいなくなる」

 ただの理想論だ。

 実際はそんなわけにはいかない。

「誰かを助けようとすることが誰かの不幸に繋がっていたり、相手のことを思って言ったことが相手を傷つけてしまったり、僕もまだまだだけど、幸せを思う気持ちだけは忘れてないよ」

「謎が謎のまま残って凪流は気にならないの」

「それを言ったら、僕は自分が占いをできるかとが小さい頃からの謎だけど、気にしたことはないよ」

「まあ、そうよね」

 乃愛は、ようやく納得したようだった。

「僕は、占い師として一生懸命頑張ったし、あとはこの学校に一人ぐらいいる探偵とか警察を目指す奴ががんばるんじゃないかな」

「他力本願ね」

「ダメかな」

 僕は乃愛の顔色を窺った。

「ううん」

 乃愛が首を横に振る。

「凪流はきっとそんな感じでいいと思うわ」

 乃愛の肯定が僕を満たした。

「ありがとう。そういってくれて。でも僕も、乃愛が誰かに殺されたりしたら、殺した相手を幸せにしたいとはきっと思えないよ。憎しみにとらわれてしまったら、もうその時点で占い師は失格だろうね。そしたら僕は、この力を失う。そんな気がするんだ。だから、まずは僕自身が幸せにならないと」

「ふーん、じゃあどうしたら凪流は幸せになるの?」

「乃愛は今幸せ?」

 僕は質問に質問で返した。

「凪流が隣にいるから、私は幸せよ」

 乃愛が笑っている。

 なら僕も笑顔で返そう。

「乃愛が幸せなら、僕も幸せだよ」

 

みんなの幸せが僕の幸せ。

幸せは自分の手でつかみ取るもの。

幸せは自分の心で感じるもの。

僕自身ができることは手助け程度。

君が自分の足で進んでいけるように。

君自身で選択できるように。

僕は占いで君に未来を提示する。

最後まで読んでくれた方がいたらありがとうございました。

励みになるので、評価などしてくれると嬉しいです。

これで、占い師凪流と乃愛の物語は終了ですが、

需要があれば続き書くかもしれません。


ずいぶん趣が違うかもしれませんが、

他の作品も読んでくれると嬉しいです。


ではでは、また会いましょう。

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