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死神のワンオラクル  作者: 名録史郎
10/12

死神のヘキサグラム

 夏休み中進展はなく、新学期も始まってもう二週間がたった。

 もう学校中の先生生徒は占った少なくとも、怪事件を起こすような人物はいないように思われた。

「アメリカとかでよくある銃乱射事件みたいに外部の人間が乗り込んでくるのかな」

 日本じゃ銃は手に入りにくい。

 だから、毒ガスを選択するというのは、ありえる話かもしれない。

 狂人の突発的な行動だとしたら、事前に警察に言うというのは、本来不可能だ。

 その警察を見かけたら、当日だけは、犯人は思い留まるかもしれないけれど、そのうち狼少年と思われて守ってくれなくなった頃に犯行に及ばれるだけだろう。


 放課後になると当然のように乃愛は僕の前の席に座った。

「んー暑いわね」

 乃愛は下敷きで自分を仰ぎだず。

「本当だよ。この学校設備はいいけど、30度越えないと絶対エアコン入れてくれないから、中途半端な時期が一番暑いよね」

 乃愛と適当に雑談する。

 もうクラスでは、公認の仲になっているし、元々女の子とはよく話していたので、みんなの視線は気にならない。

 まわりの人気がなくなってから乃愛は聞いてきた。

「今は何占ってるのよ」

「犯人は無差別に見せかけて、特定の誰かに恨みを持ってるって線で、占いしてる。人間関係占いかな」

「ふーん。誰が一番恨み買ってるのよ」

「乃愛だよ。ずっと彼氏いなかったから告白されまくって振ってただろ」

 実際は今は僕に恨みが移っている気がする。

 親友には凶刃に及ばれたし。

 とはいえ流石にもう犯行におよぶほどの人物はみつからなかった。

「ただもう限界。これ以上、大きな変化もないから、何を題材に占ったらいいかわからない」

 運勢占いで、みんなの運気が極端に落ちる日は特定できている。

 来週の月曜日だ。

 その日のみんなのラッキーアイテムは毒ガス防護マスク。

 間違いないと思われる。

 ただこれ以上はイメージが沸いてこない。

 タロットカードという、手段ではこれが限界だった。

 もう金曜日。

 本当に時間がない。

 気持ちは焦るが、かといってどうしたらいいかもわからない。

 ぐるぐる考えていると、僕は急に眠気がきて、倒れかける。

「凪流最近寝てる?」

 乃愛が支えてくれた。

「寝てるっていうか寝ちゃうっていうか」

 昨日も机でタロットカードを持ったまま寝てしまった。

 規則正しく生きていたので、夜頑張っても勝手にオフになってしまう。

「自分の体大事にしなきゃだめよ」

「それ僕にいうのかよ」 

 本当に大事にしてほしいのは、乃愛の方だ。あれから何度も説得しようとしているが、聞いてくれない。

「あはは」

「本当に来週の月曜日、乃愛は学校に登校するつもり?」

「だって占いよ。凪流の占いはよく当たるのもわかる。でも、例えば凪流と私の相性がものすごく悪いって結果がでて、私が凪流と付き合うの辞めると思う?」

「それは、思わないけど」

「もういいよ凪流。土日は思いっきりデートしましょ。仮に私が月曜日死んだとしても悔いが残らないぐらい」

 多分僕は、乃愛が死んだらどんな行動をとっても悔いは残るだろう。

 乃愛の望みを聞くのがいいかもしれない。

「わかった乃愛がそうしたいのなら、そうしよう。でも、今日までは頑張らせてよ。乃愛も他に気になる人いない?」

「教育実習生がきてるじゃない? 占ったの」

「高木先生だよね。もちろん占ったよ。犯人じゃなかった。他は?」

「うーん。思いつかない」

「そうだよね」

「高木先生は、ヘルメットみたいな髪が気になって集中できない」

 もちろん勉強にではなく、占いにだ。

 目を隠すほどの前髪でどうやって前を見ているのだろう。

「本当よね。あの前髪切りたいわ。先生、髪の毛切ってしっかりしたらイケメンよ」

 そうなのか。僕は全然そうは思えない。

「乃愛、髪の毛切れるの?」

「えっと、その、私一応、美容師目指してて」

「いい夢だね」

 すごく乃愛に似合いそうだ。

 僕も切ってもらいたいものだ。

 僕が感心していると、乃愛は不思議そうな顔をした。

「笑わないの?」

「えっ。なんで笑うんだよ。美容師で笑ってたら、僕なんか占い師だぞ。圧倒的に美容師の方が多いじゃないか」

「それもそうね」

「大体誰が笑うんだよ」

「お父さんとお母さんが……」

 なんて親だ。子供の夢も、しかもまともな夢も応援しないなんて。

「じゃあ、乃愛に何やれっていうんだよ」

「大企業の会社員になりなさいって」

「乃愛が大企業の会社員?  ははは、うける」

 僕は笑った。

「そっちは笑うの?」

「ああ、ごめんごめん。乃愛がパソコンにむかってカタカタやってるの全然想像できなくて、あ、でも、化粧品の販売員とかなら似合ってるかも、あれも一応大企業の会社員だろ」

 乃愛が化粧をしているのは、まだ見たことないけど、真っ赤なルージュを付けたらきっと似合うと思う。

「それは、ちょっとありね。でも、美容師がいいわ。高校卒業したら、専門学校行きたいんだけど、親は大学行きなさいっていうし、嫌になる。凪流はいいわよね。親と同じ職業目指してて」

「僕はいいけど、母さんはばあちゃんとめっちゃ喧嘩したみたいだよ」

「どうやって認めてもらったの」

「認めてはもらってないよ。家出して路上で占いで稼ぎながら過ごしたって言ってたよ」

「そうまでして、どうして占い師になりたかったのかしら」

「天啓が降りてきたって、だから占い師にならざるを得なかったって」

「何一つ参考にならないわ……」

「でも、大学行けっていうのによくこの学校きたね」

 進学率50%以下の高校だ。

「それはこの学校以外のテストすべて白紙で出したから、高校浪人か、この学校に通わせるかどっちがいいか迫ったら仕方なしに通わせてはくれたけど」

「やるね」

 乃愛らしい。

「将来どうしようかなぁ……将来か……もう考えてもしょうがないかもしれないけど」

 僕は目をそらした。

 楽しく雑談してもすぐに、引き戻される。

 乃愛が思い出したように言った。

「高木先生の教育実習って確か来週もじゃなかった? 来週の月曜日ということは、高木先生も巻き込まれるかもしれないわ」

 高木先生はワンオラクルで、犯人かどうかの確認しかしていなかった。

「そうかもしれない。高木先生の運勢、一応スリーカードでも見ておこうか」

 他の先生は誰も死ぬ運勢は出ていなかった。

 事件が起きるのがてっきり休み時間か何かだと思っていたが、高木先生の授業の時なのかもしれない。

 僕はタロットカードをシャッフルし、カードをめくる。


 いきなり死神のカードだった。


 このカードは本当に心臓に悪い。

「どういうこと」

「過去で、死神なんだから、先生になるための転機があったってことだと思う」

「なるほどね」

 ただタロットカードはダブりはないので、もう絶対に死神のカードがでることはない。

 現在や未来のカードで出る可能性はなくなったのだからいいことかもしれない。

 次のカードを僕はめくろうとする。


 手が固まる。


「どうしてめくらないの」

「いやなんかめくれなくて」

「えっ。だってまだ2枚目よ」

 2枚目は現在のカードだ。

 未来が見えないのはともかく、現在が見えないのは意味が分からない。

「そうなんだけど、なんなんだよ今日は」

 追い詰められて、占いすらまともにできなくなったのだろうか。

 僕はバックの中から小アルカナのカードを取り出した。

「それ小アルカナのカードよね。どうするの?」

「フルデッキで見てみようか」

「フルデッキって何?」

「大アルカナと小アルカナを混ぜて全部のカードで占うんだよ。占い方はいろいろあるからスリーカードで、うまくいかないなら、別のスプレッド試してみようと思って」

 僕の場合、大アルカナのワンオラクルや、スリーカードで結構な量の情報を読み取れるので普段ここまでする必要はあまりないけど、カードを引くことすらできなかったので別の方法を取ることにした。

 もう時間がない。やれることは何でもやる。

 とはいえ、僕がやれることは占いしかない。

「今からやるのはヘキサグラム、つまり六芒星のことなんだけど、スリーカードの過去現在未来に加えてプラス4枚、対応策、周囲の状況、質問者の状況、最終結果つまり全体の総括かな、がわかるんだよ」

 僕はオープンしている死神のカードを頂点に持ってきた。

 本来は三角形になるように、右に現在、左に未来のカードを置くがめくれないので飛ばすことにする。

 僕は小アルカナのカードを残り大アルカナのカードに混ぜた。

 僕は四枚目と念じてカードに手を当てる。

 さっきと違いめくることができた。

「逆位置ね。あんまりいい意味じゃないんでしょ」

 随分乃愛も占いになれてきている。だけど、

「普通はそうなんだけど」

 小アルカナはそうでないカードも多い。

 引いたカードはカップの8の意味は無関心、逆位置なら新しい関心。

「このカードは逆位置の方がいいよ。意味は新しい関心。新しい関心か。新しい関心……対応策で新しい関心ってことは、つまり別の方法を取れってことか。でも僕ができる占いの方法は、タロットカードとダウジングだから、タロットカードがダウジングしろって言ってる……のか?」

「どういうこと?」

「待って、次のカードをめくってみるから」

 結論を急ぐのはよくない。僕は次のカードをめくる。

 5枚目は逆位置のソードのエース。

「意味は突き進む悪い結果だからそのままの意味か」

 状況はなにもよくなっていない。

 目に見えないだけど、日に日に悪化しているということだろう。

 僕が勝手に占ってるだけなので、質問者はいない。6枚目も飛ばして、7枚目をめくる。

 出たカードは正位置のペンタクルの7。

「意味はなに?」

「少ない実り」

「少ないなんてダメじゃない」

「逆位置なら大きな実りだから、確かにあまりいい意味ではないけど、実りがゼロではないとも読み取れる、対応策のカードと合わせて考えると、ダウジングでその少ない実り、なにかを探せっていうことだと思う」

「なにかってなによ」

「なにか見失ったものだよ」

「だから、その肝心なものはなんなのよ。何をさがしたらいいかわからないとダウジングしようがないでしょ」

 乃愛の言うとおりだ。ただ

「タロットカードがダウジングしろって言っている以上、未来を見ても無意味ってことだと思う」

 ダウジングに未来予知の能力はない、

 未来は無意味で、僕が今探さないといけないもの。

 それはなんだ?

 それがわかれば希望も出てくる気がする。

「なんでわからないんだろう。カードにいつも触れるだけでいつも意味が分かるのに」

 こんな時に役に立たない。

 もう時間もあまりない。

 なんで今日にかぎって分からないんだ。

「カードに触れるだけわかる、カードに触れてないからわからない? 今はつまり現在ってことだから僕が見失っているものは……」 


 僕が見失ったものもタロットカードはちゃんと教えてくれていた。

 未来は無視していい。

 僕がこのタロットカード占いで見失ったものは……。


「先生の現在だ」

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