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死神のワンオラクル  作者: 名録史郎
1/12

死神のワンオラクル1

 いつも通りの放課後。

 教室でぼんやりタロットカードを触っていると、女の子二人組から声をかけられた。


夢咲(ゆめさき)君ってあの有名な占い師の息子なの?」

(きみ)も占いできるの?」


 二人の女の子は矢継ぎ早に質問してくる。


 僕は二人に圧倒されながら、

「一応練習中だけど」

 しどろもどろに答えた。


 二人は隣のクラスらしい。

 クラスメイトには、よく占いしてあげるので、どこかで噂を聞いてやってきたのだろう。

 こちらとしても、練習相手が欲しかったねで願ったり叶ったりだった。


「どんな占いがいいの?」


 僕はタロットカードをシャッフルしながら、目の前に座ったおさげの女の子に聞く。


「えーと、その」


 さっきまでの勢いはどうしたのか。

 小さくうつむいてしまった。

 

「この子、好きな先輩に告白するみたいで、うまくいくか見てほしいんだって」


 おさげの女の子の代わりに、強気そうなサイドテールの女の子が答えた。


 やってもらいたいのは、定番の恋占いとのこと。

 得意中の得意の占いだ。

 僕は微笑を浮かべながら、メモ帳をバッグから取り出した。


「君の名前と先輩の名前教えてもらえる?」


 僕は、消え入りそうな女の子の声を必死に聞き取って、メモ帳に書きとめた。 

 僕は、女の子と先輩のことを思いながら、


 ワンオラクル。


 つまり、カードを一枚めくった。


 出てきたのは死神のカード。

 黒い鎧を身にまとった骸骨、死神のカードだ。

 死神のカードとはいえ、正位置なので悪い意味合いばかりではない。

 むしろ悪いイメージで連想することはほとんどない。


 僕は、カードをトントン叩きながら、イメージを固めていく。


「死と再生のイメージだね。再出発かな」

「まだ何も始まってないよ」


 僕の言葉に、女の子は唇を尖らせた。

 僕は、死神の瞳を見つめながら、さらにイメージを膨らませる。


「運命を受け入れて、突撃するといいと思う」

「当たって砕けろみたいに言わないでよ!」


 女の子は、怒ったようにいった。


「ごめん。そんなつもりじゃないんだけど」


 悪い結果を伝えたつもりではなかったけれど、少し怒らせてしまったらしい。

 占いの結果は、わかるけど、やっぱり人にうまく伝えるのはむずかしい。

 それに、死神を見ると、まだ語りたがっているように感じた。


「うーん? なんだろう?」


 告白自体は、うまくいきそうな気配がする。

 なのになんというかうまくいくのに、ハッピーで万々歳という感じでもないのはなんでなんだろう。


「その先輩がどういう人か占ってみていいかな」

「こんどこそいい結果、お願いします」


 僕は再び、ワンオラクルしてみた。

 出たのは女帝のカード。


「なんか良さそうなカードね」


 おさげの女の子は、声を弾ませた。


「うーん。正位置だったらよかったんだけど」


 出たのは、上下逆の逆位置。

 本来の意味と反対、もしくは弱い意味で解釈しなければいけない。

 しかも、恋愛関係だとあまりいい意味ではない。


 2つの占いの結果から判断すると、

「先輩はあんまりいいひとじゃないから、この占いで区切りをつけて、次の恋を見つけた方がいいってことになるんだけどさ。その先輩は浮気性なんじゃないかな」


 僕はグーパンチをうけた。


「先輩の悪口言わないで」


 目に涙をためて、おさげの女の子は走り去っていった。

 世界がぐらぐらする僕にサイドテールの女の子はきいてくる。


「占いの結果悪かったから、振られるってことよね」


 気のせいかなんだか声が嬉しそうに弾んでいる気がした。


「告白自体はうまくいくんじゃないかな。二股されるって占いにはでてるよ」


 僕はビンタをうけた。


「信じらんない」

 信じられないのは、僕の方だよ。


 サイド女の子は立ち上がると、大股で去っていった。


「いたたた」


 人に占わせといて、普通殴るかな……。


「もうなんなんだよ」


 結構わかりやすくいい占いだと思ったんだけど……。


「もしかして……」


 まさかと思って、もう一度占うと二股の相手はサイドテールの女の子だった。


「なるほどね」


 サイドテールの女の子は、あきらめてもらうために、僕に占いをさせたのだろう。

 当たらないといいなぁと思う。

 だけど、僕の占いはよく当たる。

 百発百中だと思ってもいい。

 だけど、回避する方法も一応あるんだけれど……。

 もうちょっと最後まで話を聞いてほしいよ。


 僕は、床に散らばってしまった、タロットカードを拾い集めていると、

「いいよな。凪流(なぎる)はモテて」

 親友の宏隆(ひろたか)が声をかけてきた。


「今のを見てモテてるように見える?」

「女の子に声かけられるだけモテてるだろ」

「モテてるんじゃなくて、女子は占いが好きなだけだろう」


 女の子は僕が好きではなくて、占いが好きなだけだ。


「なんでそうまでして、占いするかな」 


 少し腫れた僕の頬を見ながらいう。 


「家業継がないといけないし」

「別に凪流のお母さんは継いで欲しいなんて言ったことないんだろ」

「まあ、そうなんだけどね」


 どっちかというと僕が占いをしたいのだ。

 僕の母さんは、世間でも有名な占い師。

 ドリーミー風美湖(ふみこ)

 若いころは、美人すぎる占い師として世間をにぎわせたこともある。

 結構歳をいった今でも、それなりに美人だし、何より占いがよく当たるので、人気だ。

 占いの先生が身近にいるのだ。

 好きなことをやるための、環境が整っている。やらない手はない。


「僕は、まだまだ未熟だから、腕をもっと磨かないと」

「凪流の占い当たるだろ? 十分じゃないのか」

「占いを当てられてようやく二流だよ。うまい伝えらて人を幸せにできて一人前」


 未来が見えても、占いから現状を変える手段がわかったとしても、それをうまく伝えなければ意味がない。

 実行するかどうかは自分次第とはいえ、選択肢をうまく提示してあげないといけない。

 今回のように、怒らせてしまったら全然ダメだ。

 占いの結果が悪かったとしても曲げて伝えるわけにはいかないが、もっとやんわり伝えなければいけなかった。

 今さっきのは、どう伝えればよかったんだろう。

 もうちょっとよく考えないといけない。


「よし! じゃあ練習のため、俺のこと占ってくれよ」

「オーケー。明日の運勢でも占おうか?」 


 場数を踏めるのはありがたい。


「じゃあ、綾霧(あやぎり)さんと付き合えるか占ってくれよ」


 宏隆が前のめりになって、言ってきた。

 

「お前も恋占いかよ」


 しかも高嶺の花ときたものだ。

 綾霧乃愛(のあ)

 美人でちょっときつめのクラスメイトの女の子。


「お前、ああいうのが好みなのか。本結(もとゆい)さんとかが好みなのかと思っていたよ」


 僕が言った本結さんもクラスメイトだ。

 ショートカットがよく似合う可愛い系の女の子。

 綾霧さんと違って、誰とでも親し気に話すので人気が高い。


「本結さんはなぁ。どうもイケメン大学生と付き合ってるらしいんだよ」

「へぇ。うまくいったんだなぁ」


 話しかけやすいので、よく占いの練習に付き合ってもらう。

 この間も、告白されて悩んでるという話だったので、相性占いをしてあげたばかりだった。


「意外だよな。大学生と付き合うなんて、本結さんは、てっきり……まあ。いいや」


 宏隆はなにやらもごもご言いよどんで、結局口にはしなかった。


滝音(たきね)さんは?」


 滝音汐穏(しおん)

 派手派手で髪も金髪に染めのパーマをかけている。

 制服の上からでも胸の膨らみがはっきりわかり、ぶっちゃけエロい。

 年中日焼けしていて所謂、黒ギャル系女子。


「お前変なこというなよ。葉月(はづき)に聞かれたらどうするんだ」


 宏隆はあわてて周りを見た。


「やっぱり滝音さん、葉月君と付き合ってるのかな」


 葉月君は、クラスのヤンキーだ。

 よく滝音さんと一緒にいる。

 葉月君も金髪なので、滝音さんとお似合いだ。


「直接話聞いたわけではないけど、どう見てもそうだろ。三大美女の中で、フリーなのは綾霧さんだけだよ。綾霧さんはまだワンチャンあるかもしれないだろ」


 綾霧さん、本結さん、滝音さん三人を男子の中で勝手にクラスの三大美女と呼んでいる。

 綺麗系、可愛い系、エロい系と三者三様だけど、それぞれ人気だ。


「当たるんだろ。付き合えるかどうか占ってくれよ。頼むよ」

「やめとけって、付き合えないって出たらどうするんだよ。お前も僕を殴るのか。やめてくれよ」


 僕は未だにヒリヒリする頬をさすった。


「いい占いが出たら、告白するし、悪い結果だったらしない。それだけだからさ」

「占いの前に、綾霧さんと話したことあるのかよ」

「一度だけあるよ。話しかけたら、ため息つかれた」

「ダメじゃね。それ」


 占う前から結果わかりそうなものだけど、なんでそうまでして占いたいのか。

 僕には、よくわからない。


「いいから!」


「わかったよ」


 わかってないよな。

 似非占い師は、占う前に話した内容から、占いの結果を操作するものなんだけどなぁ。

 まあ、僕はそういう似非占い師とは違うからいいんだけど。

 僕は、綾霧さんと宏隆のことを考えながらシャッフルしワンオラクルする。

 出てきたカードは、また死神のカードだ。

 めくった瞬間、死神と目があったきがしてドキリとする。


「さっきの女子にも出なかったか。なんでそのカードばっかりでるんだよ。何枚も入っているわけじゃないよな?」

「一枚だけだよ」


 僕のタロットカードを不思議そうに眺める。

 僕のタロットカードの山を勝手に触って、確かめる。


「本当に一枚だけだ」

「だからそういってるだろ」

「結果は?」


 宏隆せかすように聞いてくる。

 僕はため息をつきながら、頭に現れたイメージを伝える。


「さっきの女の子と同じ、諦めて次に行ったほうがいい」

「つまりどういうことだ」

「綾霧さんと付き合うのは望み薄かな」

「がーん」


 宏隆は古典的なリアクションをしてみせる。


「でも、悪い意味ばかりじゃないよ。他の女の子となら付き合えそうだよ」


 綾霧さんとは、はじめから望み薄だったから、そういう意味だとわりといいカードだったかもしれない。

 ただ宏隆は不満そうだった。


「未来を変えるにはどうしたらいいんだよ」


 結果が悪ければ諦めるという話だったが、やっぱり本心はそうではないらしい。


「この占いの結果を踏まえて、普段の自分なら絶対やらないようなことをしたら運命変わるかもしれない」

「具体的には?」

「ぱって思いつくようなことじゃダメなんだよね。とりあえず、今までの何かをリセットして、今までしてこなかった何か新しいことを始めるのがいいよ」

「ミュージシャンになるとかか?」

「宏隆に音楽のイメージはないから未来を変えるにはいいんじゃないかな。未来が変わるってだけで、綾霧さんと付き合える保証はないけどね」


 風が吹けば桶屋が儲かるぐらいの影響力だろう。

 未来を変える道のりは長い。


「でもサッカーはどうするんだよ」

「辞めようかな」

「マジかよ」


 宏隆はサッカーはかなりうまいし、身長も高いので、サッカー続ける方がモテそうなのに。 

 綾霧さんはともかく。

 

「まあ、そんなに結論を急ぐなよ。恋愛だけじゃなくて、全体運も見てあげるから」


 恋愛だけの占いで、人生を左右する選択をするのはどうかと思う。

 僕はもう一度シャッフルすると、今度は宏隆のことだけを考えた。


「今度はスリーカードで占ってあげるよ」

「スリーカード?」

「三枚のカードから、過去、現在、未来を占う占い方だよ。まあ、みててよ」


 僕はまず、一枚目、つまり過去のカードをめくった。


「戦車のカードだね。正位置だしいい感じだよ。成功とか勝利を意味するカードだから、過去は順調だったことを意味するね。サッカーの試合もいいとこまでいってたよね」

「まあな」


 次に2枚目現在のカードをめくった。


「おいまたこのカードかよ」


 宏隆が落胆する。


 死神のカードだった。


 しかも逆位置、さっきより悪い。

 僕はカードに触れて、解釈を考える。


「あれ? 変だな」


 いつもなら自然と思いつくのに、イメージが沸いてこない。


 僕が、死神を見ると、ぞくりと背中に悪寒が走った。


「どうせ、さっきと意味一緒だろ。次のカードをめくってくれよ」


 逆位置だからそうではないのだけど、沸いてこないものは仕方がない。


「ああ、そうしようかな」


 僕はもう一枚めくろうとすると、金縛りにあったみたいに指が動かなくなった。


「なにやってるんだよ」

「いや、なんか指が動かなくて」


 ワンオラクルだとちゃんと占えたのにどうしてスリーカードはうまくできないんだ?

 なんとか山の上まで指を持っていこうとすると、なぜか反発する。

 もしくは三枚目が引けないというのが、占いの結果なのだろうか。

 それだと未来が存在しないということになってしまう。

 さすがにそんなわけはないだろう。

 僕が占うことを諦めると、指はすぐ動き出した。

 一体何なんだ。

 今までこんなことなかったのに。


「ははは、やっぱり今日はちょっと調子が悪いみたい」


 僕は三枚目をひかずに、タロットカードを片付けた。

 きっとスランプ。

 そう結論づけた。


「おいおい、占いは絶対当たるんじゃなかったのか」

「まあ、占い師の絶対当たるはさ。手品師の種も仕掛けもありませんみたいなただの常套句だから、まあ、参考程度にするといいよ。それに僕はまだ半人前だし」

「それはそうか」


 僕の言い訳に納得したようだった。

 宏隆にはそういったものの、僕の占いは本当によく当たる。

 自分で言うのはなんだけど、才能はあると思う。

 だけど、いろいろ精進が足りない。

 もっとうまくコントロールできるようにならないといけない。


 それにしても……。

 僕にはどうして悪い意味がほとんどないはずの、死神が恐ろしく見えたのだろうか。

 嫌な不安が身を包むようだった。

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