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第九十八話 お見舞い

「これあげるわ」

「わっ、ブラウニーだ。調理実習だったんだっけ?」

「そうなの。あ、凛子先輩これ」


 放課後の部活で。

 姫希があきらと凛子先輩に、調理実習で作ったチョコブラウニーを配っていた。


 結局恐れていた事態にはならなかった。

 分量通りに作ったため、ブラウニー地獄は回避できたのだ。

 ほっと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。


 ニコニコ顔でブラウニーを受け取るあきらと凛子先輩を見ながら、俺は首を傾げる。


「あれ、唯葉ちゃんとすずと朝野先輩は?」

「唯葉と薇々は委員会。すずは知らないけど」

「……」


 黒森鈴。

 最近は真面目に出席していたから忘れていたが、サボり魔のロクでもない奴だった。

 同じクラスの奴はいないし、学校に来ていたのかも不明。

 仕方がないのでメッセージを送ってみる。


 と、そんな俺を他所にあきらと姫希が話していた。


「姫希も髪切ったんだ」

「奇遇ね」


 あきらの髪はショートボブくらいまで短くなったため、いつものポニーテールではなくなっている。

 涼し気で懐かしさも感じる。

 そんな彼女は何故か挙動不審だった。


「ひ、姫希は知ってて髪短くしたの?」

「何をかしら?」

「いやその……好みって言うか」

「はぁ?」

「な、なんでもないっ!」


 おかしな態度に苦笑する姫希。

 彼女はそのままあきらに言った。


「何の話か知らないけれど、ちゃんと似合ってるわよ。可愛い」

「あ、あはは……。ありがと。姫希もめっちゃ似合ってて可愛いよ」

「そ、そうかしら? 自分じゃよくわからないわ。鬱陶しいから切っただけだし」

「試合前だから切ったの?」

「そうよ。あきらも一緒でしょ?」

「え? う、うん! 勿論だよっ!」


 やはりどこか返答がぎこちないな。

 そんなよくわからない幼馴染をぼーっと見ていると、凛子先輩に話しかけられる。


「今日は何の練習するの?」

「三人ですからね……」


 困ったものだ。

 試合前だし、ちょっと実践的な指導をしたかったんだが、この人数だと流石に難しい。


 きょとんとした顔の凛子先輩と目が合い、なんとなく逸らす。


 正直ランメニューやディフェンスメニューを入れてもいい。

 体力作りはスポーツにおいて最優先だし。

 ただ、俺は今まで走らせるメニューはあまりやらせていない。

 楽しくはないし、そのせいで部活に来てくれなくなったら元も子もないからな。


「いつも通り二対一のプレイ練習とか、ちょっと走りながらレイアップの練習でもしますか」


 どのみち五人から三人に減っただけだ。

 元の数が少なすぎるため、できる練習はあまり変わらない。


 なんて話していると、スマホに返信があった。


「『熱出てる。大変』だそうです」

「37.8℃か。結構高いね。辛そう」


 どうやらすずはサボりではなかったらしい。

 グループに一件のメッセージと体温計の画像が送られてきた。

 それを見ているともう一件メッセージが送られてくる。


「『しゅうきお見舞いに来て。プリン食べたい』だそうですけど」

「行ってあげなよ」


 まぁ断る理由はない。

 俺と凛子先輩が話していると、姫希とあきらも近づいてくる。


「そっか、すず熱出て休んでたんだ」

「大丈夫なのかしら」

「俺あいつの家知らないんだけど、どこなんだ?」


 聞くとこの前買い出しに行ったスーパーの近くだと分かった。

 それならすぐに行ける。

 少し面倒だが、心配なのでプリンを持って見舞いに行ってやろう。


 そんな俺に凛子先輩が言った。


「僕が案内するよ」

「助かります」


 道も確かではないし、案内してくれる人がいた方が良い。

 そう思って頷くとあきらと姫希も口を開く。


「じゃ私もっ」

「あたしも顔くらい見てあげようかしら」

「それならみんなで行こっか」


 唯葉先輩と朝野先輩はいないが、まぁいいだろう。

 すずもみんなにお見舞いに来てもらった方が嬉しいはずだ。

 というわけで、部活後は今日居るメンバーですずのお見舞いに行くことになった。

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