第九十五話 自覚
※あきらの視点です
ベッドの上で掛け布団に包まり、私は目を開いていた。
隣では柊喜が寝ている。
なんだかんだで柊喜も疲れていたのか、すぐに寝付けたらしい。
かすかに寝息が聞こえるのが可愛い。
寝ると言って会話を終わらせたものの、当の私は全く眠気なんて来ていない。
むしろ眼が冴えて仕方がない。
胸もドキドキして、鼓動の音がうるさいくらいだ。
ちょっと前から変だった。
姫希と柊喜が話しているのを見たら胸が苦しくなったり、凛子ちゃんは柊喜の事が好きなのかな……なんて考えて嫌な気持ちになっていた。
そんな自分が意味不明だった。
私は柊喜が誰かと付き合ったりすることに否定的ではなかったからだ。
そもそも、未来ちゃんと付き合っていた時も何も思わなかったし。
だけど、何故か最近は柊喜が他の子といるのを見ると胸がきゅっと締まるような感覚があった。
その理由がやっとわかった。
多分私、柊喜の事が好きなんだ。
「はぁ……」
布団から顔だけ出して隣を見ると、昔から変わらない柊喜の寝顔があった。
歳のわりに幼い。
髭も薄いし、大きな子供を見ているみたいだ。
柊喜の事が好きだと気付いたのは、さっきの言葉がきっかけだった。
『そんなに気になるんなら触ってみる?』
そう言おうとして、踏みとどまった。
何を言ってるんだ私ってなった。
女の子が付き合ってもいない男の子におっぱいを触らせるなんて、とんでもない事だと思う。
でも別に、嫌じゃない。
柊喜に触られたら、照れるかもしれないけどそれだけだ。
不快になったりはしないと思う。
前からそうだった。
キスだろうが何だろうが、柊喜となら嫌じゃない。
でもちょっと考えてみる。
もしその相手が柊喜じゃなかったら……。
全然知らない男の子と手を繋いだりキスしたり、その他にも色々できるかって言われたら、多分無理だ。
いや、絶対無理。
これは柊喜が幼馴染だから、ではないと思う。
知らないうちに、私はこの男の事が好きになっていたのだ。
というか、そう考えると最近の自分の感情に納得ができた。
姫希や凛子ちゃんに抱いていたのは嫉妬だったんだ。
いつからだろう、柊喜にそんな感情を抱くようになっていたのは。
明確なきっかけは分からない。
だけど、そっか。
私は柊喜の事が好きなのか。
「……きも」
気持ち悪い。
自分の事が理解できなくて嫌いになる。
なんでよりによって、家族同然に育ってきた柊喜に、こんなことを思うようになっちゃったんだろう。
やっちゃいけないことをしている気分だ。
だって柊喜は、絶対に私の事を意識してないし。
「普通の男子高生って、JKが隣で寝てて、こんなに呑気に眠れるのかな」
姫希が来た時もそうだったけど、こいつは一体何なんだろう。
誠実なところは美点かもしれない。
でも、ちょっと傷つく。
前泊まった時は同じベッドで寝たのに、結果的には逃げられて終わったし。
いつも可愛いとか、色んな事言って褒めてくれるけど、それは家族に対して言ってるだけだもんね。
毎回物凄く嬉しいんだけど、ちょっと複雑。
「この天然女たらし」
睨みつけて言ってみたけど反応はない。
規則正しい寝息だけが返ってくる。
これからどうしよう。
柊喜の事が好きなのは私だけじゃない。
すずは勿論、姫希だって絶対好きだ。
未来ちゃんだって、どういう行動をするかわからない。
安心できるのは凛子ちゃんくらいかな。
この前の合宿で、凛子ちゃんの態度は、あくまで柊喜を後輩として可愛がってるだけだってわかったし。
あと、この気持ちは柊喜に知られちゃダメだ。
絶対に引かれる。
今まで通り、ご飯を作ってあげたりもしにくくなるかもしれない。
そんなの絶対に嫌だ。
「どうしたらいいんだろう」
私は再び布団をかぶった。




