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第九十三話 付き合ってるの?

 今日は部活後、用事がある。

 久々にあきらの家にお邪魔させてもらう予定なのだ。

 夕食をおばさんに振舞ってもらう。

 かれこれいつぶりだろうか。


「お邪魔します」

「あらいらっしゃい~」


 隣の家のリビングルームに行くと、キッチンにはおばさんが立っていた。

 あきらはと言うとぼーっとリビングに寝転がってスマホを見ている。

 親の料理の手伝いをしようという気はないらしい。


「遅かったね」

「練習試合の話をつけに行ったからな」

「そっか。本当に決まったんだよね?」

「おう。三校で集まって遠征だな」

「楽しみだねっ」


 緩い顔で笑うあきらだが、俺は正直楽しみよりも緊張感の方が勝っている。

 こいつらの実力は勿論、そもそも統率が取れるのか心配だ。

 特にすずとか。


 あきらの隣に座ると、おばさんがやって来る。


「もうそろそろご飯できるよ。柊ちゃんの好きな卵焼き作ってるからね」

「おばさんの卵焼き美味いからなー。マジ嬉しいです」


 お世辞ではない。

 絶妙な焼き加減と甘さが癖になるのだ。

 そして何より、あの味をあきらは再現できない。

 あきらも何度か卵焼きを作っていたが、自分で納得いかないのか、その度に首を傾げては唸っていた。


 それにしても、いつ来ても変わらない家だな。

 嗅ぎなれたはずの、だけどちょっと違うあきらの匂いがする。

 今はあきらがうちに来てご飯を作ってくれているが、一時期は俺がこの家にお邪魔していた。

 懐かしい記憶だ。


 しばらく待っていると、ご飯の支度ができたらしく、用意を手伝う。

 隣の幼馴染家では配膳を手伝うのがマナーだ。

 あきらと二人で三人分の皿や箸を机に並べる。

 ちなみにおじさんは出張でいない。


 出された料理はThe・和食だった。

 卵焼きに豚汁、ホッケの塩焼きにきゅうりのぬか漬け。

 あきらが作らないタイプのメニューである。


「柊ちゃん、最近学校はどう?」

「あー、なんか色々盛り上がってます」

「そう? 楽しそうでいいわね」


 嘘は言っていない。

 全くもって楽しくなかったが、盛り上がっているのは間違いないだろう。

 未来の件、宮永先輩の件、どちらも色んな人を巻き込んだ騒ぎだった。


 脂の乗った美味いホッケを白米と一緒に食べていると、隣のあきらにジト目を向けられていた。


「なんだよ」

「なーんでもないっ」


 よくわからないあきらの反応。

 そんな俺達を見つめていいたおばさんは口を開いた。


「あんた達、付き合ってるの?」

「「……」」


 タイムリーな言葉に、思わず黙ってしまった。

 あきらとは何もないが、ここ最近”付き合う”というワードで悩み中だったからだ。


 少しして、俺は慌てて首を振る。


「いやいや、そんなわけないですよ。俺達は幼馴染ですよ? 幼馴染同士で恋愛とか、あり得ないです」


 フィクションの世界じゃないのだ。

 幼馴染同士で恋愛関係になるだなんて想像できない。

 だがしかし、否定した俺に比べてあきらは黙ったままだ。

 ただぼーっときゅうりを齧りながら遠くを見ている。


「おい、お前もなんか言え」

「え? いや。そんな」

「はぁ?」


 なんだその曖昧な反応は。

 さてはこいつ、話を聞いてなかったのか。


「でもそうね。柊ちゃんはカッコいいし背が高いし、モテるわよね」


 すずと言い凛子先輩と言い、最近の身の回りの出来事を考えると否定できないのが変な感じだ。

 これがモテ期って奴なのだろうか。


「俺なんかよりあきらの方がモテますよ。可愛いし料理上手いし明るいし」

「あら。柊ちゃん口が上手くなったわね。うちの子をそんなに褒めても何も出ないわよ?」

「ははっ」


 嘘は言っていない。

 彼氏がいないのが不思議なくらいだ。

 客観的に見てもあまり非の打ち所がない奴だからな。


 あきらはそんな俺達の会話を聞いているのか、聞いていないのかよくわからない態度で飯を食べていた。

 自分の家だから気が抜けているのだろう。

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