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第八十六話 最高の締め

 一対一について、俺は散々偉そうな顔であきら達に指導してきた。

 オフェンス開始時にまず何をしろと言ってきたか。

 それはゴールを見る事だ。


 見ると先輩は俺のドリブルしか警戒していなかったようで、若干距離が甘い。

 これなら打てる。

 俺は躊躇いなく3ポイントシュートを放った。


 焦ってシュートチェックに飛んでくるが、身長差もあるので届かない。

 俺のファーストシュートはネットを揺らした。


「あと7点です」

「マジかよ。……ブランクあるのにあれ決めんのか」


 最初の一本目というのはプレッシャーがない。

 特に俺の場合先攻だったわけで、これを外せば負けるかもという不安にメンタルが左右されないからな。

 比較的入りやすいだろう。


 逆に、一発目でこんなシュートを決められると相手は焦る。

 10点先取での初手3点は効果絶大だ。


 オフェンスを交代し、今度は俺が先輩のディフェンスにつく。

 こちらは3ポイントも警戒して、ガチガチのディフェンスである。

 まぐれだろうと、1ゴールも許す気などない。


「チッ、俺にスリーがねぇのは分かってるくせに」

「……」

「ッ!」


 無駄口をたたく先輩の手からボールを叩き落とした。

 ドリブルをつくことすらできなかった先輩は絶句する。


「もうちょっと強くボールを持った方が良いですね。ガードのプレイヤーはこういうとこ狙ってきますよ」

「舐めんな」


 早くも完全に温まってしまった先輩に、少し申し訳なく思う。

 ついいつもの癖で指導してしまった。

 毎日コーチングをしていると、良くない動きには一言注意をしなければ気が済まないのだ。


 と、再び俺にボールが回って来るので、今度はドリブルで抜き去り、シュートを決めた。

 何という事はないただのレイアップ。

 ほぼノープレッシャーで俺の攻撃ターンは終わる。

 予想はしていたがかなりのイージーゲームだ。


 と、次のオフェンスターンで先輩の動きが変わった。

 体を押し付け、力でゴリ押すパワープレーにシフトした。


「……うっ」

「はは、踏ん張りが足りねぇんじゃね?」


 どうしても怪我をしている右足に力が入ってしまう。

 大量にサポーターなどを厚く履き重ねているのだが、完全に衝撃を吸収することはできない。

 俺はそのままゴール下まで押し込まれた。


 しかし、バスケは力技が全てではない。


「一度シュートフェイクを挟んで左」

「……ッ!?」


 俺が言った直後、彼はシュートフェイクを入れて左にターンした。

 ほぼ予想通りに動いた先輩のフックシュートを俺は思いっきり叩いた。

 結構力が入っていたのか、そのボールは唯葉先輩の所まで飛んで行く。


「……読んでたのか?」

「先輩の癖ですよ。自分より身長の高い相手にはいつもシュートフェイクで様子見してましたから。それに、左利きの先輩なら左サイドに動くと考えるのが自然です」

「次だ次!」


 とは言え、俺の記憶にあった先輩よりは数段テクニカルな択ではあった。

 仮に読みが通っていても、俺の身長が190cmなければ防げなかったかもしれない。

 以前の彼ならただ左にステップを入れるだけだっただろうし、フックシュートも打てなかったはずだからな。


 凛子先輩の話通り、先輩は練習をしていたのだ。

 短期間で新たな戦法を取り込んだのは素直に凄いと思う。


 しかし、こうまで差がはっきりすると流石にしらける。

 ギャラリーも展開が読めているのか、場の空気が落ち着いてきた。


 俺は次の攻撃で、少し難易度が高いドリブルからのステップバックスリーという技を決め、完全に先輩の心を折った。


 そして彼の攻撃は何も通じない。

 いくら俺の足に負荷をかける戦法を選ぼうが、肝心のシュートが入らないのだから、点差は一向に縮まらないのだ。


 あっという間に勝負はラストターン。

 8-0の有利局面を迎える。


 既に敗北を悟っているのか、暗い瞳で俺の持つボールを見る先輩。

 そんな彼を俺はドリブルで揺さぶり、転がした。

 いわゆるアンクルブレイクって奴だ。


 立ち上がることを諦めてため息を吐く先輩。


 ちらっと脇を見ると、少しわくわくしたような顔を見せる姫希と凛子先輩が見えた。

 昨日言った展開通りに運んでいるからな。

 期待するのも無理はない。


『なぁ、こういうのはどうだろう? ラスト一本、アンクルブレイクで完全なフリー局面を作って一人アリウープするっていうのは』


 別に先輩の心を折りたいからやるわけじゃない。

 ただ単に締めとしてカッコいいからやるんだ。


 俺はボールをバックボードに優しく当て、そのまま助走をつける。

 上空で跳ね返ってきたボールをキャッチ、それをリングに押し込んだ。


 10対0。試合終了である。


 当然だが、体育館は本日最高の盛り上がりを見せた。

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