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第八十五話 決戦の刻

 翌日の放課後、決戦の刻を迎えた。

 舞台は俺のホームである体育館。

 コートの脇には、本日ただの応援団と化しているうちの部員とマネージャーがいる。


 だがしかし。


「なんか多くないですか?」


 ギャラリーがめちゃくちゃ多かった。

 女子バスケ部の部員のみでなく、例の先輩集団の姿も。

 まぁそれはわかる。

 でも、その他にも大量に見物客がいる。

 見覚えのない顔だらけなので、恐らく二年生の先輩だ。


「みんなお前に興味あるんだよ。ほら、未来ちゃんの件で目立ってたから」

「……まぁなんでもいいですけど」


 体育館の二階フロアにも人がいるのを見ると、少し昔の試合時を思い出す。

 一応は注目選手だったわけで、試合中は色んな学校の選手に見られていた。

 懐かしい記憶だ。


 と、別にギャラリーがどれだけ多かろうが俺のやることは変わらない。

 目の前の宮永先輩を倒して、凛子先輩に付き纏うのをやめてもらうだけである。


 それにしても、このギャラリーは今回の勝負がどういう背景から行われているか知っているのだろうか。

 仮に知っていたとして、この先輩はよく人を集めようと思ったな。

 どう考えても先輩サイドが不利だろう。

 女子に付き纏って後輩に嫌がらせしてるだなんて、最悪である。


「お前と一対一なんて何年ぶりかな」

「二年ぶりですかね」

「あの頃は俺がよく勝っていた」


 まぁそれは事実だ。

 接待プレイだったとはいえ、毎度負けていたのは事実なのだから。

 信憑性をなくさないように、たまに勝つのがコツだった。


 しかし、宮永先輩は目を細める。


「お前が本気でやっていたかは微妙だけど」

「……」

「まぁそんな事はどーでもいいか」


 先輩は手に持っていたボールをつきながら、ニヤッと笑った。


「部活を辞めて腑抜けた後輩には流石に負ける気がしねぇ。それも故障して自暴自棄になっていた奴に。お前ら知ってる? こいつの最後の試合」


 脇に立って俺達を見ていた凛子先輩たちに話しかける宮永先輩。

 その語り口は実に愉しそうだ。


「走らねぇ、飛ばねぇ。ボールを持とうもんなら足を気にして立ち止まる。そんなわけだから当然お荷物。皮肉だったよな、今まで散々でけぇ顔してたのに、最後の試合が先輩頼みって」

「……」


 自分の中の薄暗い感情がじわっと広がってくる。

 凄く不快だ。


「結局試合後半ボソッと顧問に『すみません、下げてください。俺の代わりに他の先輩を出してください』だとよ。クソダサかったよな、あの時のお前」


 嫌な記憶がどんどん思い出されていく。


「で、逃げるようにバスケをやめたお前が、高校に入って女バスのコーチしてんの? はぁ? マジおもろすぎだろ」

「……」


 だけど、大して心の芯にまでは響かなかった。

 それはこの前の言葉があったからだろう。

 日曜の先輩の言葉に考え込んでいた俺に、ぶつけてくれた部員達の想い。

 俺には味方が付いているのだ。

 一人じゃない。


「だからって、そんな昔の事持ち出して後輩に粘着してるあんたよりマシじゃないかしら?」


 余裕の笑みを浮かべて言い放った姫希に、俺も笑みが零れた。


「確かに中学の時の俺はダサかったかもしれないです。すみませんでした。でも、今の俺は腑抜けじゃないですよ」

「はぁ?」

「俺、こいつらのコーチなので。遊び感覚で務まるほど、こいつらのコーチングは楽じゃないんですよ。口で言っても仕方ないので、証明します」


 話は終わりだ。

 さっさとこいつを倒して、騒動を終わらせる。

 ふと視線を体育館入り口に移すと、真顔で突っ立っている未来を見つけた。

 どこかに居そうな気はしたが、相変わらず怖い。


「ルールは十点マッチでリバウンドは無し。攻守は一回ずつ交代だ」

「わかりました」


 一度スイッチに入ってしまえば早いもので、お互いに集中モードで私語は止まる。

 一気に緊張感が漂い始めた。

 

「先攻はやるよ」

「ありがとうございます」


 そして戦いの火ぶたが切られる。

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