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第八十三話 呼び出し

 数日経過した木曜のこと。

 昼休みに空き教室に呼び出された。

 面倒くさいなと思いながら教室の扉を開くと、例の先輩がよぉと手を挙げる。


「何の用ですか」

「そう邪険にしないで欲しいな。陽太と1on1やるらしいじゃん」

「……それが?」


 要領を得ないので本題を迫ろうとすると、竹原先輩は渋い顔をした。


「あいつヤバいよな」

「え?」

「知ってる? あいつがなんでお前に嫌がらせしてるか」

「何か理由があるんですか?」

「陽太って中学の時、君が原因で彼女にフラれたことあるんだってさ」

「……」


 知らない話だった。

 驚いていると、竹原先輩はやれやれと肩を竦めながら続ける。


「昔部活でよく喧嘩してたんだろ? そのことがバレて、なおかつ君より下手くそだったから『だっさ』って言われてフラれたらしい」


 喧嘩というより、理不尽に怒鳴られた時に言い返していただけだが。

 それを喧嘩とは言わない気がする。

 そして、仮にそれが事実でも妥当である。

 後輩に当たり散らしているような彼氏は嫌だもんな。


 ただ、それはそれとして。

 なんでこいつはそんな話を俺にしたんだ。

 言っちゃダメだろ……。宮永先輩の面子丸つぶれじゃないか。


「で、オレもそれに利用されてるってわけ」

「へぇ」

「正直もう飽き飽きしてんだわ。あいつのだっせー仕返しのために、なんでオレが好きな子に嫌われるようなことしなきゃならないのかってね」

「……それで?」

「ガチで陽太をボコボコにしてくれない? そうすればオレも解放されるし、あいつも調子乗れなくなるだろ」


 この竹原とかいう先輩、嫌いだ。

 マジで生理的に受け付けない。

 未来への怒り感情とは違って、単純な嫌悪感を覚える。


 嫌われたくないなら最初から従わなければよかっただろ。

 それを、このタイミングで寝返って、宮永先輩を売って。

 俺は宮永先輩も嫌いだが、それとこれとは別だ。


「あんま他人の秘密とか言わない方が良いっすよ」

「はぁ……。オレがどれだけ秘密をバラされてきたと思ってるんだ」


 そう言われると納得しそうになる。

 まぁ雑な扱いをすると、見限られるって事だな。

 だからと言ってこの先輩を正当化する気はないが。


「あと、君狙われてるよ」

「誰に?」

「未来ちゃん」

「はぁ?」


 何故その名前が出てくる。

 こんがらがっている俺に、竹原先輩はニヤニヤしながら言った。


「前に話した時に君にやり返すって言ってたからさ。まぁ気をつけなよ」

「……」

「ちなみに準備できたらしいから、明日の放課後に勝負したいってさ」


 肩をポンポンと叩かれ、話は終了した。

 竹原先輩はそのまま教室を出て行ったため、俺だけぽつんと残される。


 情報が一気に入ってきて訳が分からない。


 まず、宮永陽太は俺に恨みを持っているらしい。

 それも色恋沙汰絡みらしく、結構厄介な種だ。

 そして次に、未来は俺に復讐しようと思っているようだ。

 これに関しては訳が分からない。


「じゃあ日曜の話は何?」


 なんであいつは俺を庇っていたんだ?

『こいつは俺が倒す! だからお前は手を出すな!』みたいな感覚か。

 いやいや、そんな馬鹿な。

 未来とは三ヶ月くらい付き合っていたし、そこそこ性格も知っているが、そもそもそんなにネチネチしていないはずだ。

 でも、それならそれであいつが俺に固執していた意味も分からない。


 どうしよう、ここにきて元カノが読めない。

 あいつはいつもこっちをかき回してくるよな。

 全く面倒だ。


「で、勝負は明日か……」


 かなり急な話だ。

 ただまぁ、俺としては即日でもよかったくらいだし、さっさと騒動を終わらせてくれるならおいしい話ではある。


 考え事をしながら空き教室を出ると、ちょうど廊下を歩く凛子先輩に遭遇した。


「あれ、柊喜君なんで二年生の階にいるの?」

「ちょっと用があって」

「僕に会いに来たんじゃないのかー」

「違いますよ」


 いつも通りテキトーなやり取りをしながら二人で歩く。

 そして俺はなんとなく察していた。


 恐らく、宮永先輩が俺と凛子先輩に接触している理由は、過去の恨みや竹原先輩の件ではない。

 多分、彼も好きだったのだ。

 今俺の隣を歩く超絶美人の事が。


「どしたの柊喜君。そんなに見つめちゃって」

「なんでもないです」


 モテる人って大変だな。

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