第八話 フラれる元カノ
※元カノの視点です
「なんかもういいわお前」
「えっ」
「別れよーぜ」
一緒に歩いていた下校道。
繋いでいた手を振りほどいて先輩は言った。
「じゃあな」
「ま、待ってよ!」
「あぁ?」
いきなりの豹変に私は驚く。
柊喜と別れてからまだ半月程度。
ここからが楽しい時だって言うのに。
「な、なんでよ。週末に遊びに行く約束もしてたじゃん」
「あー、別の奴と行くから」
「女の子?」
「うっせぇな。関係ねえだろ」
面倒くさそうに頭を掻きながら話す先輩に、私は納得する。
もう終わったんだ。
何がダメだったんだろう。
先輩と付き合い始めたのは七月から。
まだ数回しかデートもしてないし、お互いのことも大して知らない。
ただ彼が野球部に所属する一つ上の先輩だって事くらいしか知らない。
「はぁ、この際だから言っとくけど、お前ウザいんだよ」
立ち止まって言われて、私はきょとんとした。
「ウザいって、何が?」
「毎回当たり前に飯奢らせてくるところとか」
「でも……」
「俺はお前の奴隷じゃねーんだわ。いい加減にしろよ」
いつ調子に乗ったと言うのだろう。
ご飯を奢るくらい、普通じゃないのかな。
柊喜は何度も嫌な顔せずに食べさせてくれたし、なんなら買い物でも好きな物買ってくれたのに。
運動部のイケメン先輩って話だったから興味あったけど、案外男らしくなくて幻滅かも。
これなら陰気な柊喜の方がマシだった。
「わかった。じゃあね」
そんなことならこっちから願い下げだ。
また新しい彼氏を探すよ。
というわけで踵を返して本来の自分の下校ルートに戻る。
そもそもなんで私が先輩の家まで一緒に行って、送らなきゃいけないのか意味わかんなかったし。
◇
しばらく歩くと、ファミレスの看板が視界に入る。
よく柊喜と一緒に入ったお店だ。
思い出の場所でもある。
通りすがりになんとなく外から店内を眺めた。
と、ちょうど視界に柊喜の姿を捉える。
隣には彼の幼馴染のあきらの姿もあった。
これは良いところに遭遇したかもしれない。
久々に一緒にご飯食べようかな。
そう思って近づこうとしたが、すぐにもう一人の女子の姿を見つける。
「げっ」
同じクラスの伏山姫希だ。
あんまり仲良くないし、いつもツンとしているから接しづらくて苦手なのだ。
「ってかなんでしゅー君と一緒にいるんだろ」
同じクラスで柊喜と姫希が会話をしている場面を見たことはない。
どんな接点で仲良くなったのだろうか。
関係ない話だけど、少し気にはなる。
「もしかして新しい彼女?」
窓の外でそんな事を考える。
私だって柊喜と別れる前から他の人と関係を持っていたし、別れてから半月も経っているため、新しい子と付き合っているのもあり得る話だ。
そもそも彼は高身長で一見カッコいいし、表面的に明るくしていればすぐに彼女はできるだろう。
かくいう私もその見た目に騙されたんだ。
しかし、しばらく眺めていると姫希と柊喜が何やら言い争いをしているように見えた。
どうやら付き合っているわけではなさそう。
「まぁ中身知ったらあんな面白みのない男なんて好きになんないか」
すぐに自分の中で納得した。
と、そのまま思いつく。
彼氏と別れて暇だし、また柊喜と遊んでもいいか。
どうせあいつに彼女なんてそう簡単にできないだろう。
向こうは私の事をまだ好きだろうし、ちょうどいい。
新しい彼氏ができるまで、また少しの間相手をしてあげればいいんだ。
両者ともにメリットのある最高のプランを思いついた。
「そうとなれば、明日の放課後また一緒に帰ろって誘ってあげるか。喜ぶだろうな」
ニコニコしながら遊びに連れて行ってくれる元カレの顔を想像し、私はにやりと笑みをこぼした。