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第七十六話 何を企んでいるのか

 窓から覗いたそこに、元カノと先輩がいた。

 厄介な組み合わせだ。

 嫌な予感しかしない。


 フリーズする俺と凛子先輩。

 彼女はどうするのと言わんばかりに俺の方をじっと見つめる。

 さてさて。


 しばらく考えた俺は、一度頷いて口を開いた。


「俺達は何も見てません」

「えぇっ!? なかったことにするの?」

「……」


 先程の件があった直後だ。

 どうせ裏で手を組んでネチネチ嫌がらせをしてきているだけだろう。

 宮永先輩は俺と凛子先輩を切り離そうとしたがってそうだし、そもそもあまり好かれている覚えもない。

 嫌われている事に関しては俺のせいであるため、少しアレだが。


 そんな事を考えている俺に凛子先輩は焦ったような声を出す。


「なんか揉めてるみたいだよ? 気にならない?」

「どうせあいつがいつもみたいに余計な事を言ったんでしょう。仮に揉めていたとして、それは当人間の問題であって俺には全くの無関係です」


 俺への嫌がらせを企んでいる女がどうなろうと知ったことではない。

 そう、別にどうでもいいのだ。

 どうでもいい……。


「言葉とは裏腹に心配そうな顔をされてますがコーチ君?」

「……」

「僕は思うんだよ」


 凛子先輩は苦笑しながら続けた。


「柊喜君は優しいからさ、あんなことがあった後でも多分未来ちゃんの事を心配してる。でもそんな事許されないと自分の心に蓋をしてる。違うかな?」

「何言ってるんですか」

「俺の大切な仲間を傷つけたあいつに今更優しくなんてできない。しちゃダメだって。そう思ってない?」


 正直図星だった。

 未来の事が今好きか嫌いかはさて置き、あいつのことがどうでもいいわけではないんだ。

 というか、その程度の薄い感情しか抱けない相手と交際なんてそもそもできない。

 だからあいつが登校してきた金曜は、少し安定したし。


 あの件の尻拭いで痛い目を見るのは当然の報いだと思うが、それ以外の場所であいつが不当に傷つくのを見ても何も感じないかというのは別の話だ。


 しかし、そんな考えが許されるのか?

 どうしても姫希の泣き顔がちらつく。

 あの元カノを許すのは、コーチとして、そして姫希の仲間として間違っている気がする。


 しかし、俺の心を読むのが得意な先輩はいつものようにクールな笑みを浮かべた。


「姫希はあぁ見えて慈悲深い優しい子だからね。特定の誰かに冷たい態度を取る柊喜君よりも、みんなに優しくてあったかい柊喜君の方が好きだと思うよ」


 そういえばあいつも、金曜は未来の登校にほっと一息ついていたっけ。

 あいつ自体が根っこから優しさに溢れているのだ。


 なるほど。


「でも未来、今俺を陥れようとしてますよね」

「そ、そんなのわかんないじゃん?」

「このタイミングとあの組み合わせでそれ以外考えようがないですけど」


 ただ柄の悪い男と揉めているなら、間に入ってやってもいいが、そういうわけでもないからな……。

 と、再びステイモードに戻る俺に、何故かまたも焦り出す凛子先輩。


「た、多分違うと思うよ! そんな悪い子じゃないと思うし」

「先輩があいつの何を知ってるんすか。姫希に才能ないとかエグい事言ってたの忘れたんすか?」

「それは覚えてるけど……。金曜体育館前で見ちゃったからなぁ」

「ん? そう言えば金曜は体育館前の階段に座り込んでましたね」


 凛子先輩も金曜放課後の未来を見ていたらしい。

 確かに敵意は感じなかったし、あの日はちょっとおかしかったが。

 うーん。


 話しながら下を向くと、未来が見える。

 三階からであるため、気のせいかもしれないが、少し足が震えているように見えた。

 自分より体のデカい先輩と口論になれば、誰だってビビるのは当然か。


「話だけでも聞いてみますか。知らない間柄でもないですし」

「そ、そうだよ柊喜君! 流石男の子だね!」

「なんでさっきからテンションおかしいんですか?」


 様子が変な凛子先輩に首を傾げながら、俺はため息を吐いた。

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