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第七話 歓迎会

「残念だったわね。よりによって今日は先輩誰も来ないわよ」

「知ってる」


 まさかコーチング初日に部員が二人しか揃わないとは。

 不運というか、なんというか。

 いや、そもそも一年生にサボり魔が三人いることの方が問題だが。


「もうあと一時間くらいしかないけど練習するの?」

「お前がなかなか出てこないからこんな時間になったんだけどな」


 悪びれもせずに言う伏山にため息が漏れる。

 こいつは何のために部活をしているのだろうか。


「いつもは二人しかいない時、どんな練習してるんだ?」


 疑問に思ったため聞いてみる。

 すると、二人は顔を見合わせ。


「軽く十分くらいシュート練習」

「あとはご飯食べに行ったりするかしら」

「あ、でもたまに走るよね」

「ご飯だけ食べてたら太っちゃうわ。適度に運動はしなきゃ」

「舐めてんのかてめえら!」


 叫ぶ俺にきょとんとする伏山、そして苦笑するあきら。

 どこまでも高校部活を馬鹿にしやがって……!


 違うだろ!

 もっとこう、本気で汗水流しながらさ!

 たまには怪我したり病んだりするくらい追い込んで、そこでさらに部員同士で励まし合って青春ドラマが生まれて!

 そして掴み取る勝利! 笑顔! 涙!


 それなのにこいつらは……。

 部活はダイエットの延長かよ!?


「もっと熱くなれよ! 勝ちてえんだろ!?」

「いや別に」

「勝ちたい!」

「既に揃ってねえんだよ……」


 目を輝かせるあきらと対照的に、伏山は切った爪を整える。


「勝ちたいって言うけど、無理でしょ。あたしたち五人揃うこともないんだもの。このままじゃ次の新人戦には出場すらできないわ」

「……このままでいいのかよ」

「良いとか悪いとかじゃない。無理なの」

「四人は練習来るんだろ? 最悪外から一人助っ人を連れてくるとか……」

「無理よ」


 伏山はそこでようやく俺を見た。

 しかしその顔は酷く暗かった。


「あたしが出場する限り勝てない」

「……それは下手だからか?」

「そうよ」

「ふん。だからこそこうして俺が来たんだ。すぐに上達させて見せる」


 何故かさらっとそんな台詞が出てきた。

 自分でも意外だった。

 あきらに呼ばれてきただけで、そもそもそこまで乗り気でもなかったはずなのに。


 と、そんな俺に伏山もあきらも意外そうに目を丸くする。


「場所変えよっか。今日は練習って雰囲気でもないしっ」


 あきらの言葉で、その場は一旦お開きになった。




 ◇




「じゃあ柊喜の入部を祝して……かんぱーいっ」

「しないわよ」


 コップを片手に笑顔を浮かべるあきら、そしてそれを冷めた目で見る伏山、最後に肩身の狭い俺inファミレス。


「ノリ悪~。そんなだからモテないんだよ。可愛いのにっ」

「うるさい。あんただって他人の事言えないでしょ」

「私は結構告られてるよ」

「え、嘘ッ! 誰!?」

「えー。秘密。今は大事な男の子が聞いてるから」

「ちょっと君、どっか行きなさいよ」


 伏山はそう言ってジト目を向けてくる。

 おかしい。

 一応名目としては今日は俺の入部歓迎会という事だったはずなのに。


「じゃあなんで彼氏作らないのよ」


 伏山の至極真っ当な質問に、あきらは少し考え込むようなしぐさを見せた。

 しかし、すぐに俺を見ると、変なにやけ顔を浮かべる。


「柊喜との時間が潰れるの嫌だもん」

「え、あんたこんなのがタイプなの?」

「こんなのってなに。カッコいいじゃん。それに全然そういうのじゃないよ」


 あきらはまだ八月だというのに、ホットのコーヒーを飲みながら続けた。


「柊喜と私は幼馴染。家庭の事情で昔っから一緒に育ってきて、今でも基本的に毎日一緒に夕飯食べてるような関係なの。変な感情なんてあるわけないじゃん」

「……そういう設定ってフィクションだけじゃないのね」

「設定言うな」


 ツッコみつつ、だがしかし伏山の言う通りだ。

 実際俺の他にこんなにべたべたしている幼馴染というものを見たことはない。

 というのも、だ。


 大抵幼稚園から続いている幼馴染ってのは中学くらいになると付き合い始める。

 いわゆる思春期の影響で、身近な異性に関心を抱き始めるからだ。

 幼馴染ってのは手頃も手頃、リスクゼロな距離感だからな。

 しかし実際に少し付き合って、お互いになんか違うなーみたいな気まずい雰囲気になって離れていくのが多い。


 俺達の場合そうはならない。

 というのも、俺達は距離が近すぎる。

 最早兄妹と言っても差し支えない環境で暮らしてきて、異性である前に家族というのが正直な気持ちだ。

 特に俺は肉親と言える肉親はとうにいない。

 あきらが唯一の家族みたいなものだ。

 可愛いし、おっぱいもデカいが、やはりそういう目では見れない。


「なんか変なの。こんなに仲良いんだから付き合えばいいのに。……あ、でも千沙山クンには彼女いたんだったわね」

「もう別れてる」

「知ってる。見てたもの」


 改めて言われると恥ずかしいな。

 情けないモノを見せてしまった。


「ふん、仕方ないわ。かわいそーだし付き合ってあげる」

「え、姫希っ!?」

「あ、ち、違うわよ! 勘違いしないで。傷心中の君に同情して練習くらいは真面目に参加するわって事よ」


 顔を真っ赤にして慌てる伏山。

 いつもクールを気取って高飛車な態度を取っているため、ギャップに吹き出してしまう。


「な、なによ……」

「いや。意外と優しいんだなと思って」

「え、そうかしら? ……でもその前の”意外”は余計ね」


 その後、伏山と少しやり取りをしながら考える。

 こうして普通に冗談を言い合える女友達って、いつぶりだろうか。

 あきらという幼馴染の存在を覗けば、マジで久々だ。

 未来には気を遣い過ぎて、もうどんな会話をしていたかも記憶がないしな。

 機会をくれたあきらには感謝しかない。


 ふと彼女を見ると、何故か俺の顔を眺めていたため、目が合った。

 にっこり微笑むあきらに決まりが悪くなって目を逸らす。


「あ、ハンバーグ定食とドリア、このカルボナーラもお願いします」

「食いすぎだろ」


 横で大量注文を繰り広げる伏山に俺は耳を疑った。

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