第六十六話 楽しい夕飯
しばらくして夕飯になる。
全員で庭に集まり、熱々のコンロの脇にテーブルを設置した。
ちなみに一応今回の合宿(お泊り会)は集金制となった。
特に金を取る気はなかったのだが、唯葉先輩と凛子先輩の二人から申し出られた。
なんでも、流石にけじめをつける所はつけなきゃ、との事だった。
というわけで、全員から二千円ずつ徴収することにした。
それでも先輩二人は不満そうだったため、明日は割り勘で何かデリバリーでも頼もうかな。
実際、三日間家に泊めるのに二千円は安過ぎるのも事実だ。
「ふぅ……」
現在、俺は席についている。
コンロで肉を焼くのは交代制。
最初はあきらと唯葉先輩がやってくれている。
「何よ」
「いや」
隣を見ると、微妙に浮足立っているのか表情の明るい姫希がいる。
「なんで俺の隣に座ってるんだ」
「凛子先輩にこっちに座れって言われたから。ほら、三人掛けの椅子に君だけって言うのも変でしょ」
正面では凛子先輩と、それに若干眠そうな顔で寄りかかるすずがいた。
「嫌がらないんだな」
「……前に言ったでしょ。君の事は、その、好きだから」
「……紛らわしい言い方するな」
「しゅ、柊喜クンが変なことを聞くからだわ」
隣の姫希の顔が若干赤いような気もするが、暑いのだろうか。
こいつの隣では肉が燃えているしな。
「好きって言うなら、教室で話しかけた時に迷惑そうな顔するなよ。地味に傷つくんだよ」
「そういうつもりはなかったんだけれど。ごめん」
「おう。もっと仲良くしてくれ」
「わ、わかったわ」
とかなんとか話していると生暖かい視線を感じる。
前を見ると凛子先輩がニヤニヤしていた。
妙に居心地が悪い。
「な、なんすか」
「若いなぁと思って」
「歳変わんないでしょ」
「あ、そうそう。僕早生まれだし。同じ十六歳だよ」
「なおさら意味わかんないですよ」
俺の言葉に凛子先輩はすずの頭を撫でる。
というか、よく見たら髪型が変わっている。
俺以外全員ハーフアップになっていた。
「マジでみんな髪型揃えたんすね」
「そうそう、似合うかな?」
「めっちゃ似合ってますよ」
「あはは。ありがと」
目を細めて喜ぶ凛子先輩の顔が、やけに艶っぽく見えた。
つい目を逸らしてしまう。
と、よそ見した場所には姫希の姿がある。
「お前も髪弄ってたんだな」
「あきらに言われて仕方なくよ」
「そんなに嫌がらなくても普通に似合ってるぞ」
「……どうも」
小さく言ってから姫希は立ち上がった。
「どうした?」
「トイレよ」
「場所分かるか? 案内するけど」
「……前に泊まってるし、わかるわ」
「あ」
他に聞こえない程度の小声で言った姫希に、俺も小さく頷く。
別に隠すような事でもないとは思うが、だからと言って大っぴらにしたくもないだろう。
特に俺より姫希の方が。
とかなんとか、そんなやり取りをしているうちに肉が焼けたらしい。
皿に焼けた肉を盛ってやって来るあきらと唯葉先輩。
「お肉焼けたよーっ。食べよっ」
「やっとご飯ですー!」
学校の奴らと集まってバーベキューなんていつぶりだろうか。
ここ最近ではなかったことだ。
家の事情もあって道具だけは揃っていたが、これを引っ張り出したのも数年ぶり。
「あれ、姫希は?」
「すぐ戻ってくる」
「ん。お肉だ」
「お前は今まで寝てたのか?」
目を擦りながら呟くすずに呆れて笑う。
すぐに姫希が帰ってきて、俺達は飯を食った。
相変わらずあほみたいな量を食べる姫希のせいであっという間に皿が綺麗になり、今度は焼き係を交代してまた新たな肉を焼く。
俺と凛子先輩で網を見ていると、脇から竹串に差したマシュマロを突き出してくるすず。
テーブルの方で馬鹿笑いをする唯葉先輩とあきら、それを見ながら時折口を押えて笑い声をあげる姫希。
……あいつ、意外にしっかり笑うんだな。
初めて姫希の思いっきり笑った顔を見た気がする。
「おーい」
「はっ」
「どしたの、女の子の方ばっかり見て。肉焦げるよ?」
「す、すみません」
「男の子だねー」
「……そういうのじゃないですよ」
髪型がいつもと違っても、中身はいつも通り揶揄ってくる凛子先輩だ。
彼女は焼けた肉を皿に移しながら言う。
「今日は楽しいな。ほんと久々なんだよ、知っての通り人数少ないから、こういった集まりもなくって。だから感謝してる」
「……俺の方こそですよ。人と集まって騒ぐのなんていつぶりだろう」
「あはは。寂しい事言わないでよ。呼んでくれたら僕はいつでも飛んでいくからさ」
「はは。でも俺には幼馴染もいますから」
「そう、だね」
テーブルの方ではすずが焼いたマシュマロをあきらが横取りしているところだった。
すずはいつも通り眠そうな顔だが、心なしか目が怖い。




