表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/225

第六十四話 狂気の鈍器

 買い物を終えてスーパーを出る。

 両手に食材の入ったビニール袋を持つ俺、そしてその横には手ぶらで歩いている二名の女子高生。

 ちなみにあの後、大量にお菓子を買い込まされた。

 二つの袋の内一つの中身は全てお菓子である。


 家に帰り着くと、ちょうど庭に出ている奴が二人いた。

 汗を拭いながら道具を準備している。


「来てたのか、姫希」

「え、えぇ」

「あれ、メイクしてるのか?」

「う、うるさいわね。一々言ってこないでくれるかしら。キモいから」

「……すみません」


 顔がいつもよりきりっとしていたので聞いてみたのだがキレられた。

 平常運転だな。


「……変じゃないかしら」

「可愛いぞ。まぁ、可愛げはないが」

「一言余計なのよ」

「お前が言うな」


 それに、事実を言ったまでだ。

 やれやれと首を振っている間に、俺の持っていた袋を引っ掴んで家の中に入っていく唯葉先輩とすず。

 それを見ながら俺は、ぼーっと一点を見つめて突っ立っている凛子先輩に話しかける。


「何考えてるんすか?」

「お、柊喜君。おかえり」

「さっきからいましたけど」

「あれ、そうだっけ」


 この女、俺と姫希の会話すら耳に入っていなかったらしい。

 余程難しい考え事をしていたのだろう。


「何かありましたか?」

「なんにもないよ。強いて言うなら姫希が――」

「あぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 何かを言おうとした先輩に、持っていたバーベキューコンロの足の部分を振り上げる姫希。

 そんな奴がこっちに向かって歩いてくる。


「ば、馬鹿馬鹿馬鹿ッ! 手に持っている鈍器を置け!」

「凛子先輩、それ以上言ったらッ!」

「わ、わかった! ごめん!」


 荒い息遣いで肩を上下させるワンサイドアップJK、恐るべし。

 こいつは本気で俺達を殺す気なのだろうか。

 まぁあんなもので殴られてもそう簡単に死にはしないだろうが。

 ていうか何があったんだよ。

 何をされるかわからないから聞けないけど。


「外の準備をしてくれてたのか、こっちは俺がやるぞ」

「でも、それじゃあたしの仕事が」

「別にそんなに動かなくていいんだが……。肉買ってきたし、野菜も若干追加で買ってるからその支度を頼むよ。こっちは汚れ仕事だし、俺が全部やっておくから」

「……そういうことなら任せてあげるわ」

「おう」

「……ありがと」

「可愛いおべべが汚れたら大変だろ」

「ちょっとイラっとしたわ」


 馬鹿にしたように言うと、ジト目を向けられた。

 家に帰っていく姫希の後ろ姿を見ていると、凛子先輩に笑いかけられる。


「じゃ、任せたよ」

「えぇ。凛子先輩もずっと動いてて疲れたでしょ? 部屋でジュースでも飲んでてください」

「あは、随分と好待遇じゃん」

「午前中は部活もありましたし」


 忘れてはいけないが、この人達の本業は部活。

 明日もみっちりしごかれる運命にあるのだ。

 こんなところで無駄に体力を使うのは愚策である。




 ◇




 道具の準備を終え、スマホを見ると五時を過ぎていた。

 買い物でかなり時間を食ったし、そんなもんか。


 家の中に入ると冷房の効果ですぐに癒される。


「お疲れ~」

「どうも。もういつでもできますよ」


 ひらひらと手を振っている凛子先輩の周りにはすずと唯葉が座っていた。

 全員でテレビを見ている。

 と、よく見たら俺が録画していた今年のインターハイの試合だった。


 意外と真剣な目で見ている彼女ら。

 少し微笑ましい。


 後ろのキッチンでは姫希が一人で料理の支度をしている。

 皿にたくさんの野菜が並べられていた。

 一人だけ来るのが遅かったとは言え、それは住んでいる場所の問題。

 あまり気にして動き回る必要はないんだがな。

 まぁただ、本人の気が収まらないんだろう。


 ソファを見るとあきらが座っていた。

 いつものようにその横に座る。


「どうしたんだ? ぼーっとして」

「んえ? ちょっと疲れたみたい」

「そっか」


 あきらはずっと動いていたからな。

 こうして休んでもいいだろう。

 今日はみんな疲れているのだ。


「なんか、変」

「何が?」

「……なんでもない」

「はぁ?」


 意味の分からないことを言う幼馴染。

 しかし、その横顔は言葉の脱力感とは裏腹に真剣だ。

 一体何があったやら。


「まぁ、悩みがあったら言えよ。笑ってやるくらいはできるから」

「慰めるとか言わないあたりが柊喜だよね」

「笑い飛ばした方が楽な事もあるだろ。多分」

「そうだね。多分。あははっ」


 あきらの笑い声に一瞬後ろから殺気を感じたが、気のせいだろう。


 と、試合観戦に飽きたのかいつの間にか暗くなっているテレビ。

 そんなもんである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ