第六十一話 お出迎え
そして迎えた合宿初日。
昼まで部活をしていたため、一度全員家に帰ってから俺の家に来る。
正確には電車通学の唯葉先輩だけは、凛子先輩の家でシャワーを浴びてから来るらしいが。
襲われていないかが心配だ。
電車通学と言えば姫希も同様だが、彼女は辞退していた。
凛子先輩の家は言わずもがな、すずの家も『汚そう』とか言って遠慮。
一瞬酷い言いようだと感じたが、部室の散らかし方やあいつの雑さを考えると納得してしまう。
姫希は神経質そうなところあるし。
あきらの家という選択肢もあったが、そもそも姫希は他人の家にお邪魔するのに抵抗があるようだった。
じゃあ何故お泊り?という感じだが、相手は所詮俺だからな。
両親もいないし。
というわけであきらと一緒にリビングで待っている。
「今日はBBQ~♪ おいしいお肉買わなきゃ~♪」
「なんだその歌」
「あはは。テンション上がっちゃって」
スマホを見ながら鼻歌を歌っていたあきら。
俺の言葉に彼女は苦笑した。
「ってか部屋ピカピカだね」
「昨日お前が帰った後に掃除した」
「こんな広い家一人じゃ大変だったでしょ? 言ってくれれば手伝ったのにっ」
「家の掃除くらいは自分でするさ」
あと本人には言わないが、あきらは掃除が雑だからな。
別に一人で事足りるのだ。
と、そんな事を考えていると来客がある。
かなり早い。
誰だろうと思って玄関を開けた。
「お邪魔します」
「すずか。随分早かったな」
「ん」
最も意外な奴だった。
一番乗りでやってきたすずは、珍しく髪を弄っておめかししている。
ハーフアップていうやつだ。
しかし、服装はまさかの中学体操着。
「可愛い?」
「あぁ。……だけど、なんで体操服?」
「これしかない」
「あぁそう」
やはり何を考えているのかよくわからない奴だ。
家にあげるとすずはそのままリビングに入り、あきらと合流する。
「すずー。髪可愛いっ!」
「ありがと。あきらもお揃いにしよ」
「あ、いいね。ってかみんなでハーフアップにしちゃうっ?」
「姫希は嫌がりそう」
「姫希はワンサイドアップにこだわりありそうだもんねー」
あきらとすずがにこやかに会話をする。
と、すぐにまたインターホンが鳴った。
「やぁ」
「お世話になります!」
「どうも」
先輩の二人組セットだった。
すずとは違ってちゃんと私服だ。
黒い帽子に黒いパーカー、そして白のロングスカートを履いた凛子先輩。
いわゆるモノトーンコーデってやつか。
凛とした先輩のイメージに合っててめちゃくちゃ似合ってる。
あと、ドキッとした。
髪型がいつもと違う。
毎日センターパートだった前髪が下ろされている。
「えー、どしたのじろじろ見て。僕だって女の子なんだからスカートくらい履くよ?」
「制服の時に何度もスカート姿は見てるから知ってますよ」
「あれ? じゃあなんで見惚れてるのかなぁ?」
「み、見惚れてないです」
ただ心が揺れただけだ。
まさか……いやいや。
と、視線を落とすと唯葉先輩の服装が見える。
今日もツインのお団子だ。可愛い。
ボーダーのシャツの上にオーバーオールみたいな服を着ている。
なんて言うんだっけ。
「どうですか? サロペットコーデです!」
「なんすかサロペットって」
「わー! これだから男子は!」
「非モテ丸出しだね」
「えぇ……」
初めて聞いた。
このオーバーオールみたいな服、サロペットって言うのか。
「まぁなんでもいいっすけど、すずも来てるんで上がってください」
「あ、どうもどうも」
「おうちが綺麗です!」
若干煽られているのかと思わせるような唯葉先輩の言葉に苦笑が漏れる。
二人がリビングに着いた時には、先ほど言ったようにあきらの髪型が変わっていた。
本当に全員でハーフアップ固定にするつもりなのだろうか。
と、視界の端で帽子を外す凛子先輩。
その彼女をつい目で追ってしまう。
いやいや……まさかな。




