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第五十九話 意外な来客

 それからはしばらく何事もなく日常を過ごした。


 部活初めのアップで凛子先輩とレイアップの練習をし、二人で汗を流す。

 たまにあきらに引っ捕まえられてシュートのレクチャーをする。

 そうすると今度はすずにパワープレイの練習と称し、べたべた体を押し付けられて気まずくなる。

 と、そんな様子を見た唯葉先輩が楽しそうと言って近づいてきて、姫希にまた失礼な事を言われる。

 普通の生活だ。


 男子先輩衆のおかしな接触はない。

 あれ以降少しピリピリしていたので、数日は全員で途中まで下校してみたりと対策を講じていたが、馬鹿らしくなるくらい何もなかった。

 まぁいいのだ。

 何かがあってからじゃ遅い。

 一応は部内唯一の男なわけだし、責任を持って教え子の身の安全を確保する。


 ちなみに部活の方は順調とは言いづらい。

 凛子先輩との練習を始めたが、何故かじゃれ合っているだけみたいになってしまう。

 例えば俺がディフェンスとして、ゴール前で手を挙げて立って邪魔をすると、避ければいいのにわざわざぶつかってくる。


『なにやってんすか』

『意外に良い身体してるね。流石は元選手』

『変な事言わないでください……!』

『えー、柊喜君もこの前僕に言ってきたじゃん』

『……』


 こんな感じで、どうもふざけが混じる。


 別の日にはファールっぽい接触の練習をさせるため、シュートモーションの彼女に怪我させないようにわざと触れる。

 しかし、その時も彼女は笑ってくる。


『あは、胸触らないでよ?』

『触るわけないでしょ』

『気になってるくせに』

『いえ全く』

『……視線に悪意を感じるなぁ』


 若干フリーのシュート時の成功確率や、その他の練習では真面目になってきたが、俺の前でも歯を見せずに頑張って欲しい。

 楽しんでもらえているのは結構だが、少しな。

 で、大体そういう会話をしていると他の部員にジト目を向けられる。

 特に姫希だ。

 あいつの視線が一番鋭い。



 ◇



 ある日の事だった。

 昼休みに昼食を終えて一人課題をこなしていると、影が落ちてくる。


「おい姫希、今俺は勉強中なんd――」


 教室で俺に話しかけてくるのなんて姫希だけだ。

 あの元カノさんすら話しかけてこなくなった現状、本当にただの一人も話しかけてこない。

 この前クラスメイト全員に嫌いとかキモいとか言ったせいだろうか。

 どうでもいいな。


 というわけで顔を上げると。


「千沙山柊喜君」

「……すず、か」

「こんにちは」

「おう」


 まさかの来客だった。

 セミロングの髪を弄りながら話しかけに来たのは、なんと隣のクラスのすず。

 意外だ。


「じろじろ見てくる」

「あ、すまん」

「いいよ。すずだけずっと見てて」

「いやそれは」


 相変わらず押しの強い奴である。

 苦笑しながら聞く。


「どうしたんだ?」

「ううん。ただ会いたかっただけ」

「……そうか」


 黒森鈴。

 彼女は俺の事が好きらしい。

 初対面時に告白され、それ以降直接的に交際を迫られることは無くなったが、未だ熱心なアプローチは続いている。


 クラスメイトの視線が若干集まってきている気もするが、まぁ問題は少ない。

 何故ならこいつ、めっちゃ声小さいから。

 シャイとかそういう類のモノではない。

 単純に声を出すという行為にエネルギーを割かないだけだろう。


 ふと振り返ってクラスを眺めると、姫希に凝視されていた。

 な、なんかしたか俺……?


「千沙山柊喜君は何の勉強してたの?」

「課題だよ。数学の問題」

「数学なら姫希に聞けばいいのに」

「いや、それがな」


 一昨日の話だ。

 分からない問題があったため、昼休みの昼食終わりに姫希に話しかけた。

 しかし、『その程度もわからないなんて……』と罵倒が始まったので逃げてきた。


「ということがあってだな」

「ふーん。姫希っぽい」


 あいつは人にモノを教えると言う行為について学んだ方が良いと思う。

 あまり俺も他人の事をとやかく言える立場ではないが、モノを教える際にその言い方は絶対ダメだろう。

 しかもあいつ、逃げる俺に『わからないところがあるなら凛子先輩にでも聞けばいいんじゃないかしら!?』とかなんとか言ってきた。

 同じクラスに出来の良い奴がいたから聞いたのに。


「すずが教えてあげよっか?」

「お前数学出来るのか?」

「千沙山柊喜君よりはできる自信ある」

「前回のテストは?」

「数学は下から二番目」

「俺をそのピンポイントに絞るな。最下位じゃねぇ」


 舐めてんのかこいつは。

 ツッコむとニコッと笑われる。

 マジで可愛いのが腹の立つポイントだ。

 どうしてこいつら、見た目だけは整ってるんだ。


「あと千沙山柊喜君って、毎回フルネームで呼ぶな」

「ん? じゃあしゅー君?」

「それは絶対にやめてけろ」

「冗談だよ、しゅうき」

「おう」

「いいね。しゅうき、しゅうき。うん、しゅうき」

「……恥ずかしいから連呼するな」


 とかなんとか、平和な会話をした。

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