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第五十三話 ダル絡み

 部活終わり、俺は空気を吸うために外へ出た。

 既に八時近いため、辺りは暗い。

 うーんと伸びをしながら体育館入り口周辺を歩く。

 と、校舎の陰に数人の影が見えた。

 その影はこちらに向かって歩いて来ていることが分かる。


「よぉ、千沙山じゃん」

「……どうも」


 五人組の男子生徒だった。

 そのうちの一番身長の高い奴が口端を上げて笑いかけてきた。


「久々だな」

「そうっすね」


 中学時代のバスケ部の先輩だ。

 一つ上の代のキャプテン。

 まさか同じ学校に通っていたとは。


 そいつは馴れ馴れしく俺の肩に腕をかけてきた。

 俺の肩はそう気軽に触れられるような代物ではないのだが、彼も一応百八十センチは超えているため、普通に届いてくる。


「この前の動画見たわ」

「……あぁ、未来の」

「そうそう未来ちゃん。やっべえよなあの女の子」


 げらげらと笑い始める先輩集団は、絡みたくない雰囲気をぷんぷん放っていた。

 そもそもこいつ意外初めて見る顔だし。


「つーかお前、この高校だったんだ」

「まぁ一応」

「ノリわっる。ヤバくねこいつ? ガチおもんねーんだけど」


 味方に同調を求めるノリ。嫌い。

 やっべー、と知らん奴らに次々言われ、俺も苦笑しながら「やっべーっすね」と返した。


 いわゆる陽キャって奴らに問いたい。

 俺の今の返答の最適解はなんですか。


 と、虚しく自問自答していると先輩が聞いてきた。


「お前、マジで女子バスケ部のコーチやってんの?」

「はい」

「……まだそれ治ってねーの?」

「ッ! ……はい」


 右足首を軽く蹴られ、少しびくついてしまった。

 そんな俺の反応が面白かったのか、先輩はヘラっと笑って腕を解く。


「あきらちゃんだっけ、お前の幼馴染の。マジ可愛いよな」

「顔はいいっすね」

「おっぱいもでけーじゃん」

「……」

「紹介してくんね? な?」

「俺巨乳大好きなんだよー」


 後ろから出てきた知らん先輩Bが言ってくる。


「自分で言えば良いでしょ。そこにいますから」

「え? そんな軽いノリで行ける子? おっぱい揉んで良い?って聞いてもおっけーくれる?」


 知らねえよそんなこと。


 昔から俺づてにあきらとの接触を図ろうとする輩は多くいた。

 そいつらはこぞって胸がどうのこうのと、下品な話題にもっていく。

 例えどんな手段を使おうと、そんな目的の男を通すほどあいつのガードは甘くない。


 そうこう話をしていると、先輩が言ってくる。


「まぁ冗談はさて置き。こいつがさ、凛子ちゃんの事好きでさ」

「お、おいやめろよー」


 そう言われて出てきた知らん先輩C。

 そいつは俺の目の前にやって来てへらへら笑った。

 長い前髪に隠された一重瞼、黒髪マッシュ、黒マスク。

 ……役満だな。

 夏だと言うのにマスクなんて暑くないのだろうか。

 この世界に流行りの感染症は無いはずだが。


「オレ、二年の竹原」

「へぇ」

「……そのへぇっていう興味無さげな反応やめてくれね? どっかの後輩女を思い出すから」


 興味ないんだから仕方ない。

 だがしかし、そんな事を馬鹿正直に言える雰囲気でもないので笑って曖昧に誤魔化す。


 それにしても面倒な事になったな。

 ちょっと外の空気を吸いに出ただけなのに、全く仲良くない苦手な元先輩に捕まり、ダル絡み&キモ絡みを受けるはめになるとは。


「今凛子ちゃんいる?」

「いますけど」

「あ、会ってもいい?」


 長い前髪の竹原先輩は若干きょどっているようにも見える仕草で聞いてくる。


「着替え中なんで無理ですね」

「じゃ、じゃあ着替え終わるまで待つわ」

「……」


 終わるのをここで待ち伏せるということか?

 数日前の自分の体験を思い出して寒気がした。

 興味がない相手から出待ちされるほど気味の悪いものはない。


 それに唯葉先輩の言葉もある。

 過去にストーカー被害にもあっているらしいし、こんな奴に会わせるのは良くないように思う。

 仕方がない。


「これからは俺と用があるので無理っす」

「あー、竹原ざんねーん」

「くっそー!」


 わざとらしい声にわざとらしく悔しがる先輩。

 何の茶番を見せられているやら。

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