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第三十二話 先輩の奢り

 翌日の部活、姫希は来なかった。


「なにやってるんだあいつは……」

「まぁまぁ。色々あるんだよきっと」


 学校に来ていたのはよく知っている。

 昨日あんなことがあった手前、流石に未来が見ている中で話しかけはしなかったが、やはりあれが原因だろうか。


 練習メニューを一通り終えた後、椅子に座ってぶつぶつ言っているとあきらがまぁまぁとなだめてきた。

 俺の肩を揉みながら顔を近づけてくる。


「それでですねー。今日なんだけど」

「おう」

「親とご飯行くんだ」

「そっか」

「一緒に行きたい?」


 あきらの家族の外食に付いて行くのは良くあることだ。

 実際、幼馴染家の息子みたいな扱いをされているし、俺自体もあまりそれに違和感を覚えずに育ってきた。

 だがしかし、流石に高校生にもなれば空気を読める。

 これは家族水入らずって奴だな。

 彼女の親としても、娘と他者を介さずに話したい日もあるだろう。

 大事な事だからもう一度言うが、俺は空気が読める人間だからな!


「やめておくよ」

「じゃあどうする? ご飯大丈夫?」

「ははは、お前は母親かよ。自分でどうにかするさ」

「あー、イチャイチャしてる。コート内恋愛禁止ー」


 あきらと話していると、茶化すように城井先輩がやって来る。


「恋愛じゃないですよっ。家族愛かな?」

「どっちかと言うと母性愛だな」

「なにそれどんなプレイ? えっちだね」

「先輩の頭にはピンク一色しかないんすか?」

「どうかな。ピンクって二百色あるんだよ」

「初耳ですね」


 相変わらず変な事しか言わない城井先輩。

 着替えてくると言ってあきらが去った後も、何故か俺の前に立ち尽くしている。

 彼女は座っている俺の顔をまじまじ見つめる。


「寂しそうな顔してる」

「いやいや、何言ってるんですか」

「さてはあきらにフラれた?」

「どちらかと言うと俺がフッたのかもしれません」


 軽口を叩き合いながら、絶妙な距離で牽制し合う。

 うーん。


「あのさ、僕これからご飯食べに行くんだけど、一緒行かない?」

「え?」

「デートしよ」


 唐突なお誘いに、俺は目を丸くする。

 そして。


「はい」

「マジ? やった」


 何故か二つ返事で承諾してしまった。



 ◇



「柊喜君とご飯は初めてだなぁ」

「そうですね。どこ行くんですか?」

「ハンバーガー食べたいなと思ってるけど、柊喜君は?」

「俺もそれでいいです」

「おっけ」

「――って待ってください!」


 学校帰り、城井先輩と二人並んで歩いていると、後ろから声が聞こえた。

 振り返るが、特に誰も見当たらない。


「千沙山くん、怒りますよ?」

「すみません」

「あれ、唯葉いたんだ」

「凛子が誘ったんじゃん!? 二人して除け者にしないでください! 涙ちょちょぎれます!」


 既に若干半泣きなのはさて置き、後ろをちょこちょこと付いて来ていた宇都宮先輩に苦笑が漏れる。

 先程城井先輩が宇都宮先輩も誘っていたのだ。

 仲間はずれにするのも悪いとかなんとか。

 実際、人数は多い方が楽しいしな。

 俺も賛成である。


「それにしても柊喜君がまさかノッてくれるとは」

「本当です。いつもあきらと姫希の二人だけとべたべたしてますもん」

「同じクラスなのと、幼馴染だから話しやすいってだけです。俺は先輩達とも仲良くしたいんですよ?」

「嘘っぽ」

「胡散臭いです」

「……って、朝野先輩は呼ばなくて良かったんですか?」

「あぁ、薇々は門限厳しいからダメなんだよ」


 女子高生だもんな。

 親御さんも心配だろう。


 店内に入り、適当に注文して席に着く。

 ちなみにお代は城井先輩が払ってくれた。


「なんか悪いですね」

「良いんだって。可愛い後輩のお腹を満たすためなんだから。僕は一肌脱ぐよ」

「マジでありがとうございます。最近出費が多いんですよね」

「へぇ。……ズバリ姫希との逢瀬が原因かな?」

「そうです」

「……ツッコんでよ」


 いい加減真面目に相手するのも飽きたので肯定してみると、頬を膨らませて拗ねられた。

 意外とこういう仕草も可愛いな、この人。


 ちなみに今は宇都宮先輩はトイレに行っている。

 なかなか帰ってこないが、ちっちゃいから中に落っこちたのだろうか。

 とても心配である。


「あー、コホン。……でね、実は話があるんだ」

「えっ?」


 急に男子みたいな低い声を出した城井先輩にビクッとする。

 彼女は手に顎を乗せて俺を見つめた。


「柊喜君、ストーキングされてるよ」

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