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第二十三話 嫉妬

 それからしばらく俺は眠った。

 ここ最近の疲れを取るように、何の妨げもなく泥のように眠る。


 再び目が覚めた時、時刻は午後の四時だった。


「あ、起きた。おはよー」

「ずっと居たのか?」

「ううん。さっき姫希送ってきた」

「帰ったのか」

「うん」


 最後にもう一回お礼したかったな。

 ただまぁ、別に今生の別れではない。

 どうせ明日か明後日に会う仲だ。

 クラスも同じで最近はよく話す間柄だし、礼はいつでも言えるな。


 と、そんな事を考える俺にあきらは言った。


「姫希、最後に柊喜に会いたがってた」

「……そっか」

「心配してたんだよ。……でも、なんか会わせたくなかった」

「え?」


 意味の分からないことを口走るあきら。

 彼女はそのまま苦笑する。


「嫉妬してるのかな。柊喜の世話は私がしたいのーって」

「なんだそれ。メンヘラ彼女かよ」

「そんなつもりはないんだけどね。別に柊喜が誰と付き合い始めても何とも思わないし。でもさ、なんかね。なんかもやもやしちゃった」

「ふーん。まぁ、ちょっとわかる気はする」


 身内が苦しんでいるときに自分はそれを知らされなくて、他の奴が寄り添ってあげていたら寂しいもんな。


「昨日は嘘ついてごめん」

「あはは。いいよ。今度アイス奢ってねっ」

「……いいだろう。好きなだけ買ってやる」

「私にも個別指導してくれてもいいんだよ?」

「はいはい。考えておく」


 どのみちやらなければならないだろう。

 うちの部員四名の中で姫希が一番遅れているというだけであり、全国的に見たら宇都宮先輩以外は平均以下。

 宇都宮先輩も身長百四十八センチというハンデを考えれば、このままではまずい。

 全員個別にスキル指導が必要だろう。


「また忙しくなるなー」

「楽しそうだね」

「まぁな。お前ら全員面白いし、居心地良いし」

「……中学の時はアレだったもんね」

「……あぁ」


 思い返す中学時代。

 あまり部内での風当たりはよくなかった。

 まぁ入部直後からエース格だったわけで、当然先輩たちの試合時間や練習時間を奪っていたわけだ。

 良く思われるはずがない。

 露骨ないじめを受けていたとかはないが、仲良くはなかった。


「ねぇ、思ってたんだけどさ」

「ん?」

「私達に掲げた全国出場って……」


 先月末に決めた目標のことか。

 あきらの言わんとすることを理解して、俺は頷いて見せた。


「まぁ、俺のリベンジだな」

「柊喜全国大会出た事ないもんね」

「不本意な事にな」


 俺は県内で取り上げられるレベルの有名選手だった。

 しかし全国大会への出場経験はない。


 一年時の県大会は普通に三位だったため、出場できなかった。

 夏に行われた県の選抜には、まだ一年生だったこともあり選考会の場に出席させてもらえなかった。

 そして一応の本命だった中二の夏の県大会は……。


「怪我して終わったからな」

「……」

「そんな顔すんなよ」


 足首をしこたま痛めたせいで、大して活躍できなかった。

 県大会優勝どころか、結果は二回戦敗退。

 俺はそのまま一学年上の先輩と共に部活を引退した。


 泣きそうな顔で俺の事を見てくるあきらに笑いが零れる。


「なんだよ、別に人生終わったわけじゃないし。それにとっくに過ぎた話だぜ」

「そうだけど。……よし、決めた」

「どうした?」


 あきらはグッと拳を握ると、俺を真っすぐ見て言った。


「私、絶対に柊喜を全国大会に連れて行ってあげる」

「……ふざけんな。連れて行ってやるのは俺だ」

「あはは。そうでしたっ」

「……でもありがとな。頼りにしてるぜ」

「任せなよ」


 ドンッと、デカい胸を叩くあきら。

 明らかに運動部には邪魔そうなブツだ。

 不安だ……。

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