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第二百十四話 今度は俺が応える番

 トイレに行った後、俺はそのまま少し夜風に当たりに外へ出た。

 食事と会話で火照った顔を冷やしながら、ぼーっとする。

 四月に入って日中の温度は上がったが、こうして風に吹かれると夜はまだ冷え込むな。

 若干肌寒い気もする。

 だけどそれでいい。


「あいつら、本当に優勝しやがった」


 呟いて笑みが零れる。

 元々、夏に行われるインターハイ予選で優勝っていうつもりで、俺は目標宣言していたんだが。

 まさかこんなに早く達成するとは。

 呆れるほど凄い人たちである。

 県大会優勝なんて、俺でも経験がなかったのに。


 今回の件で自分にコーチングスキルがあると勘違いし、自惚れるつもりはない。

 チームメイトに恵まれていただけだ。

 問題ごとを持ち込んで荒らしてしまう時もあったし、俺がこんなんじゃなければもっと早くに優勝できていたかもしれない。

 もっとも、俺がいなければそもそも五人揃って試合に出る事すらなかったかもしれないが。


 さて。


 みんなは応えてくれた。

 俺が掲げた県大会優勝っていう目標を達成するべく努力し、見事実現させてみせた。

 今度は、俺の番だろう。


『じゃあこうするのはどうでしょう。わたしたちが大会で優勝したら、柊喜くんは好きな子に告白するっていう』


 唯葉先輩の言葉を思い出し、ため息を吐く。

 まったく、とんでもない提案をするキャプテンだ。

 今回の大会で優勝に繋がったモチベーションがこれだとは思いたくないな。


 とは言え、約束を破るつもりはない。


 優勝したら好きな子に告白しろと言われた。

 そして優勝した。

 じゃあ告白するしかないだろう。


 ちなみに、あいつらは俺が五人の中の誰かを好きだと思っているみたいだが、そうじゃなかったらどうするんだろうか。

 全く関係のないクラスメイトに恋する可能性だってあるだろうに。

 他にも朝野先輩とか彩華さんとか、良くしてくれた人は沢山いる。


 そんな事を考えていると、あきらが店先に出てきた。


「あ、こんなとこにいた」

「どうしたんだよ」

「ちょっと夜風に当たりたくなってさ。眠くなっちゃったから」

「そっか」

「うん」


 あきらは俺の横に立つと、口を開く。


「そういえば今日、未来ちゃんが来てくれてどう思った?」

「まぁ、嬉しかったよ」

「あはは。それはよかった。実は私が呼んでたんだよ」

「そうなのか」

「うん。呼んだっていうか、試合の日時教えた感じだけど」

「確かに、どこで情報を仕入れたんだとは思ってたな」

「別にストーカーしてたわけじゃないから安心してね。そもそも私が教えてあげた時も『行ったらしゅー君に嫌われない?』ってめちゃくちゃ不安がってたし」

「……」


 最近の未来を見ていると、容易に想像できてしまう。

 そんな心配をしてまで来てくれたのか。


 あいつとは色々あった。

 元々ここにいるのもきっかけは未来だ。

 あいつにあんなフラれ方をしなければ、今日の俺はいない。

 あのまま未来と付き合っていたかは知らないが、ぼーっと何の目標もなく若干自暴自棄のまま生きていただろう。

 あきらとも、幼馴染のまま一緒に居ただろうし、こいつが俺に恋愛感情を抱くこともなかったかもしれない。


 ふとあきらの横顔を見る。

 部活に励むために短く切りそろえた髪が若干揺れていた。

 今になって思えば、この髪型にしたのは俺の好みに合わせたかった、という理由もあるのかもしれない。


「未来ちゃんの事好き?」

「……わからない。だけど、お前らの方が大好きだよ」

「そっか」

「あぁ」


 今の未来がどうであれ、俺の中で起きた事実は変わらない。

 許すとか許さないとか、そんな小さい事はどうでもいい。

 ただ、ずっと俺の事を大事にしてくれる人を、俺も大切にしたいだけだ。


「告白、してくれるんだよね?」


 あきらの問いは消え入るほど小さく聞こえた。

 これは、どっちの意味なのだろうか。

 俺は若干そんな事を思いつつ、答える。


「約束だったからな」

「柊喜のそういうとこ好きだな。普通に『あんなの冗談に決まってるだろ』って一蹴しても良いのに」

「良くないだろ。……これは自惚れかもしれないけど、お前らが優勝できたのは俺の好きな人を聞き出したかったからって事もあるだろうし。蔑ろにできるわけない」

「あははっ」

「わ、笑うなよ」

「なんか言い方がキモかったからさ。でも、その通り。あと本気で考えてくれてありがと」


 あきらはニコッと微笑むと、そのままくるりと背を向ける。


「戻って話そ。大事な話でしょ」

「そう、だな」


 店内に戻っていくあきらの後ろ姿は、なんだかとてつもなく遠くに感じた。

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