第二百五話 春季大会初日
四月初週。
春休み最終週に俺達は大会を迎えた。
このチームとしては三回目の大会だが、俺が同行するのは二回目。
どっちにしろ、まだまだひよっこだ。
だがしかし、うちの部員達は試合会場に入っても堂々としていた。
表情は自信に満ち溢れている。
「ついに来たねっ」
「今日二試合で、明日も二試合。そこを勝ったら一日空いて決勝ね」
「たった五試合で優勝か。ちょろい」
バッシュの紐を結びながら話す一年生三人組。
なかなかヤバい事を言っている。
自信があるのは良いことだが、自惚れは禁物だ。
横に座る唯葉先輩と凛子先輩は黙って相手ベンチを見ている。
「あんまりこういう事は言いたくないが、初戦の相手は戦績的に心配はいらないと思う。油断は禁物だが、気合を入れ過ぎても空振りになるから気を付けて。余裕があれば温存も考えて戦うんだぞ。勝てば午後にもう一試合あるし、姫希の言う通り明日だって二試合ある」
俺が忠告すると、全員元気に返事をした。
特に緊張もしていない様子で頼もしい。
意外と、前回の大会で俺不在の中準々決勝までいけたという実績が効いているのかもな。
全員の腕に巻かれたリストバンドも良い味を出している。
「じゃあ、頑張りましょう」
唯葉先輩の声と共に、第一試合目が開始した。
◇
一試合目を圧勝で飾った後、俺達は控室で休んでいた。
「初戦は最高の出来でしたね!」
「初めて100点ゲームなんてできたわ」
「柊喜君に教えてもらったドリブルが結構役立ったな~」
「ん……。ちょっと眠い。疲れた」
「シュートの感覚もばっちりだし、今日はどんどん私にパス出してっ」
五人がそれぞれ口を開く。
すずが寄りかかってくるのをどかしながら、俺も笑った。
相手の実力は勿論だが、俺が見た中で一番良い試合だったからな。
しかし、問題は次の試合だ。
「こんな所で再戦することになるとは思いませんでしたね……」
「本当ですね」
俺と唯葉先輩は顔を見合わせて苦笑した。
二回戦の相手は、去年の秋に練習試合をしたことのあるチームだったのだ。
それも、うちとは若干因縁のあったチーム。
前に嫌がらせを受けたあきらは足を伸ばしながら言う。
「あの時とはもう違うもん。絶対負けない」
「そうだな。もうお前は立派なシューターだよ」
「あはは。その節は本当にご迷惑おかけしました」
初めての練習試合で緊張しまくったあきらが、ことごとくシュートを外していたのは記憶に新しい。
だがしかし、実際には既にあれから五ヶ月経過している。
慌ただしい日々だったし、あっという間だった。
「まぁ最後に謝ってもらったし、今日も勝つからどうでもいいわね。向こうも何も言えないくらい実力差があると思うわ」
「そうそう! 姫希も今日は得点してたし調子いいねっ」
「毎度思うけど、練習の成果が出ると嬉しい」
決して浮つくことなく会話する二人は微笑ましい。
見ているとこっちも落ち着いてくる。
負ける事なんてありえないと思わせる雰囲気があるな。
良い感じだ。
そんな様子を見ていると、唯葉先輩が俺を見て口を開いた。
「では、作戦会議でも始めましょうか」
「あんまり言う事はないんだが、とりあえずあきらのシュートを中心に攻めようと思ってる。理由は今言っていた通り、因縁があるだろうから」
「あはは」
「それと、明日の対戦相手の事も考えてる。あきらとは相性が悪いから、思うように動けないと思うんだ。だから、凛子先輩とかすずを休ませてあげるイメージで今日はあきらに頑張ってもらいたい」
「わかった」
明日の対戦相手も過去に対戦経験のあるチームだ。
秋にあった新人戦では11対112というスコアで敗北を喫している。
その時はタイトなディフェンスで苦しめられた。
恐らく今回も同様だろうから、あまり外からフリーでシュートを打つチャンスは望めないと思う。
キーになるのは、凛子先輩とすずだ。
俺が教えたことを上手くこなせれば、勝機はあるかもしれない。
「まぁ、とりあえずは次の試合だな。凛子先輩は練習したドリブルでぶち抜いちゃってください。絶対やれます」
「ふふ、了解。頑張るね」
「唯葉ちゃんは基本的にスリーポイントシュートを狙ってください。体力の温存も考えてあんまり無茶はしないように」
「わかりました!」
「すずはむきになって暴れないように」
「……すずの事なんだと思ってるの?」
ジト目を向けられて苦笑する。
こいつはいつも物騒な事を言うし、感情が態度に出やすいからな。
「あきらはさっき言った通りどんどんシュートを打っていい。基本的に自分が点数を取るって意識で」
「最多得点記録更新しちゃうかもね」
「で、姫希はいつも通り」
「何よその投げやりな感じッ!」
信じられないと言わんばかりに声を上げられるが、俺は肩を竦めるだけだ。
正直姫希の頭の良さなら俺が特に言う事はないからな。
ポジション的にも、姫希の判断に俺が指示を合わせる方が良い。
別に投げやりというわけではないのだ。
そんなこんなで、作戦会議は終わった。
練習試合の時にも最後は勝っているし、あの時より何倍もパワーアップしていると自覚もあるため、俺達は穏やかだ。
これは驕りではない。
莫大な努力に基づく余裕だ。
試合前の雰囲気としては最高である。
部室では既にみんなそれぞれ自分の世界に入っている。
誰かの上着を枕にして、眠りにつくすず。
イヤホンをつけて音楽を聴く姫希。
俺のノートに謎の落書きをするあきら。
じっと俺の顔を見つめながら唯葉先輩の頭を撫でる凛子先輩。
そして頭を撫でられながら参考書を読んで、隙間時間勉強をする唯葉先輩。
「どこ行くの?」
俺が立ち上がると、凛子先輩に声をかけられる。
「丁度今うちの高校の男子が試合してるみたいなんで、応援でもしてこようかと」
「そっか。僕らの分もお願い」
「はい」
俺はそのまま控室を出て、深呼吸をした。
実は先程の試合時、上の階で宮永先輩達が応援してくれているのが見えていたからな。
礼儀として、俺も観戦に行こうと思っただけである。
◇
その日、俺達は無事に二回戦を突破した。
次は準々決勝である。




