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第十九話 二人のファミレス

「それにしても愛されてるわね」

「皮肉か?」

「ううん。でもあの子、よくわからないわ」

「それに関しては同感だな」


 学校から出て二人で夜道を歩く。

 姫希の言葉に俺はため息を吐いた。


 俺をフッたのは向こうのはずなのに。

 何故別れた今こうして付き纏われているのか意味不明である。

 せっかく最近は話しかけてこなくなったと思っていたのだが、ただの充電期間だったのだろうか。

 どちらにせよ迷惑だ。


 もう俺に未来への気持ちはない。

 フラれた時のショックもあるが、この前の部活乱入の件だったり、今の待ち伏せであったり、流石にドン引きだし。


「ってか、君はあきらと夕飯食べなくていいの?」

「あぁ。今日は一人で外食するって言っておいた」

「どうしてよ。あたしと食べる気だったんでしょ? なんで一人だなんて嘘つくのよ」


 怪訝そうに眉を顰める彼女。

 俺が見つめ返すと、姫希は徐々に顔を赤くさせて。


「ま、まさかお持ち帰り――」

「なわけないだろ」


 馬鹿かこいつは。

 よりによってあきらに嘘ついてどうする。

 隣の家に住んでるのに、お前を連れ帰ったらバレる危険大だろうが。


「お前はいつも俺を変態扱いしようとするよな」

「君が最初にあたしの着替え見たからでしょ」

「それもそうだったな」


 パンツしか履いていない姫希に乗りかかられた時は流石に焦ったものだ。


 そんなこんなで会話をしながら二人で店内に入る。

 席に座って開口一番、彼女は思案気に呟いた。


「この状況、傍から見たらデートかしら?」

「だな。光栄に思え」

「おえー。きもー」

「食事場でえずくな。他のお客さんに失礼だろうが」


 いや、一番失礼なのは俺に対してだろう。

 まあそれはいい。


 前回同様アホみたいな量を注文する姫希に頬を引きつらせながら、俺はやや少なめに注文する。

 こいつとは絶対付き合いたくないし、飯を奢るのは嫌だな。

 ファミレス如きで毎回三千円も使いたくない。


「で、何よ。話があったんでしょ?」

「あぁ。そうだ」


 頬杖を突く彼女に、俺は単刀直入に言った。


「お前はバスケが下手だ」

「……知ってるわよ」

「だからこれから俺がマンツーマンで指導しようと思うんだが」

「え?」


 ショックそうな顔から驚きの表情にシフトする姫希。


「マンツーマンって何? 部活中?」

「違う。部活の後に個別だ」

「あたしだけ?」

「あぁ」


 素直に反応を見せると、姫希はガクッと項垂れた。

 そのまま顔を上げない。

 注文したご飯が届いても、まるで動かない。

 え……? 泣いた?


「おい……」

「わかってるわよ。この前の練習だってあたしだけノルマ達成できなかったし、そもそも出遅れてるのなんて知ってたわ。だけど……」

「ショックか?」

「……そうね」


 姫希は別に練習で手を抜いているわけではない。

 それは短い付き合いの俺も把握している。

 こんなに直接ダメだしされると、悔しいだろう。

 しかし、何も俺はこいつが下手すぎるからって理由だけで個別指導しようと思っているわけではない。


「お前、前に言ってたよな。自分が試合に出たら負けるだとか」

「言ったわね」

「俺が教えたら絶対にそんな事にはならない。少なくともあきらと城井先輩よりはすぐに上手くなるし、チームに必要な選手にもなれる」

「あたしが、必要……?」

「そう、お前にしかできないことがあるはずだから」


 俺の言葉にパッと顔を上げる姫希。


「本当に、そんな簡単にいくのかしら?」

「あぁ。任せろ」

「……わかったわよ」

「それに他の部員も下手くそだからな。今ならすぐに追い抜けるぞ」

「一言余計なのよ!」


 いつの間にかドリアを貪っていた姫希に突っ込まれる。

 意外と食い意地の張った奴だ。


「あと、単純に俺はお前ともっと仲良くなりたいから。あきらは置いといて、宇都宮先輩と城井先輩とは上手くやれているが、お前とはどうもな」

「きゅ、急になんなのよ……。やっぱやりたくないわ」

「おい」


 しかし、姫希はハンバーグと唐揚げを同時に口に頬り込み、それを飲み込んで言う。


「よろしくね」

「おう」


 とりあえず、こうして姫希との夜のレッスンが成立した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふむ…夜のレッスン 大変宜しい、どうか続けて欲しい
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