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第百八十五話 お粥

 久々の高熱で俺は心身ともにやられていた。

 試合を翌日に控えた午後、俺はベッドに突っ伏して唸ることしかできない。

 やらかした。

 これは本当に最悪だ。

 自分自身も勿論辛いんだが、そんなことより部員への申し訳なさが勝つ。

 なんでよりによってこのタイミングなんだよ……。


 誰に文句を言っても意味がないため、虚無である。

 無限に時間が溶けていくのを感じながら、ただひたすらに寝ては起きてを繰り返す。

 憂鬱だ。



 ◇



 目が覚めたのは外が真っ暗になった時間帯だった。

 スマホの着信音で意識が戻る。

 物凄く頭が痛い。


「……もしもし」

「あ、ごめん。寝てた?」

「まぁ、一応」

「そっか。あのさ、ご飯簡単なの持っていこうと思うんだけど、ちょっと上がっていい?」

「……うん」


 電話の相手はあきらだ。

 すぐに通話が切れ、一階で玄関の扉が開く音がした。

 そのまま俺の部屋まで上がってくる。


「あはは、凄い顔」

「……申し訳ない」

「何謝ってるの? 仕方ないじゃん。それより色々買ったり作ったりしたんだよっ」


 あきらはテキパキとサイドテーブルに並べていく。

 ゼリーにプリン、あとエネルギーチャージのゼリー食など。

 それに経口補水液と、今作ってきたであろうお粥だ。


「柊喜熱出すとご飯食べないじゃん? 心配だから作ってきちゃった」

「マジで助かる」

「まぁ、私だけじゃないけど」

「え?」

「このゼリーとかは凛子ちゃんと唯葉ちゃんと薇々ちゃんから。お粥は私とすずで今一緒に作った。姫希からはこっちの飲み物とかね」

「……」


 聞いていて、申し訳なさよりも嬉しさが勝ってしまった。

 試合を控えて忙しいだろうに、俺のためにこんなに……。

 と、そんな俺にあきらはニコッと笑う。


「いつも頑張り過ぎなんだよ。たまには寝てて」

「別に、大してなんにも……ごほっ」

「明日、勝ってくるね。相手のチームあんまり強くないみたいだし」

「油断は禁物だぞ」

「そうだねっ。柊喜もここで祈っててよ」

「あぁ」


 どのみちコーチなんて、ベンチで祈るくらいしかできない。

 どんなに頭を使おうが、口を動かそうが、体を動かすのは俺じゃないからな。


 俺は横で湯気を上げるお粥を見ながら、一つ疑問に思った。


「すずと作ったってどういうことだ?」

「あぁ、今うちにいるから」

「なんで」

「柊喜が心配だから一緒にお粥作りたいって。あとお見舞いに行ってあげたいって」

「……来てないけど」

「何を言って良いかわからないから遠慮するって言ってたよ。すず、今回柊喜がインフルになったって知った時は涙目になってたし」

「えぇ」


 インフル如きで大げさだ。

 でもまぁ、それだけ心配してくれたと聞いて、胸いっぱいに幸せが広がる。


「ってかご飯作ってあげてお見舞いに来るのは幼馴染の特権だよ」

「なんだそれ」

「あはは。わかんないけど。でもさ、なんか久々にこの部屋来た」

「そうだな」


 告白されて以降、自室にあげてなかったからな。


「……せっかく距離取ってたのに、部屋に来ざるを得なくしてしまって悪い」

「もう、ホントにそうだよ。悪いと思ってるなら早く良くなって元気な顔見せて」

「あぁ」

「私帰るね。遅くなるとすずに怒られるから」

「すずにもありがとうって伝えておいてくれ」

「わかった。嬉しそうな顔してた事も言っておくねっ」


 部屋を出て行くあきらの後ろ姿を見ながら、俺は自分の顔をペタペタ触る。

 嬉しそうな顔、していただろうか。


 と、あきらが扉を閉めようとした時、大事な事を伝えていないことを思い出した。


「あきら!」

「何?」

「明日と明後日、そして明々後日も頑張れよ」

「あはは、明々後日は準決勝まで行かなきゃ」

「だから、そう言ってるんだよ」

「……うん。頑張る」


 最後にしっかり激励をして俺は窓の外からあきらを見送ろうと顔を出す。

 と、玄関先にはあきらともう一人の女子が立っていた。


「しゅうき!」

「……すず、ありがとな! 明日も頑張れ!」

「絶対優勝するから」


 小さい声なのに聞こえるのは、外が静かだからだろうか。

 それとも余程気持ちがこもっている言葉からだろうか。

 どちらにせよ、俺もすずも満足したのでお互い会話をやめる。


 なんだか、いける気がする。


 ちなみにその日は凛子先輩、唯葉先輩、朝野先輩、そしてもちろん姫希からも心配のメッセージと通話があった。

 俺の声が聞きたかったらしい。

 少し声が枯れた。

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