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第十八話 待ち伏せ

 しばらく待つと先輩二人が出てきた。

 そこからさらにもう数分待っていると、ようやく待ち人が出てきた。

 スマホをいじりながら歩いてきた姫希は俺を見つけると立ち止まる。


「よお」

「……何よ、今日の練習も下手で悪かったわね」

「まぁまだ数日だし、これからさ」

「で、なにかしら。何か用?」

「あぁ。一緒に飯食いに行かないか?」


 俺の誘いにきょとんとする姫希。

 数秒フリーズした後、彼女は口を開いた。


「行くわけないでしょ」

「……奢るぞ?」

「別に君なんかに奢ってもらわなくても困らないわ。どこぞのふざけた元カノと同列に並べないでくれる?」

「同列に並べるはずないだろ。お前は良い奴だ。根は優しいし、こうして嫌いな俺の言う事もそこそこ聞いて練習に取り組んでいる」

「……あ、ありがとう」

「まぁ下手なのは事実だし、上から目線なのはウザいが。……ってどこに行くんだ」

「帰るのよ! なんで君の悪口聞いてなきゃいけないのかしら」


 すたすた歩いて行く姫希の隣に並ぶ。

 歩幅がだいぶ違うため、すぐに追いついた。


 と、すぐに彼女は立ち止まる。

 そして手提げのバッグを漁った後、呆然と立ち尽くした。


「どうしたんだよ」

「財布がないわ」

「はぁ?」

「君、もしかして盗った?」

「んなわけねーだろ!」


 なんで俺がこいつの財布を盗まなければならんのだ。

 そもそも金には困ってねえし。

 ついでに言うならこいつの荷物は部室にあったし、盗るタイミングもなかった。


「……最悪よ。帰れないじゃない」

「電車か? 定期は?」

「財布の中よ」

「わぁお」


 これは可哀想に。


「か、貸してくれてもいいわよ」

「ふざけんな馬鹿が」

「そこまで言わなくてもいいじゃない! さっきは夕食払ってくれるって言ってたし、それに比べたら些細なモノでしょ? ちゃんと返すし!」

「態度が気に食わん! 貸してくださいお願いします、だろ?」

「絶対言わない絶対言わない! ……でもどうしよう」


 腕を組んで考え込む姫希。

 だいぶ焦っているらしく、冷や汗を浮かべている。

 そう言えばこいつは部員以外に友達が居なさそうだしな。


「仕方ねえな」

「貸してくれるの?」

「あぁ。だけど条件がある」

「え?」

「俺と一緒に晩飯を食え。そうしたら帰りの電車代も出してやる」

「……わかったわ。ありがとう」


 幸か不幸か。

 姫希にとっては最悪の事態だろうが、俺からすればラッキーだ。

 あとは飯を食いながら、今後の話をすればいいだけだからな。

 仲も深まるとなお良しって感じだ。


 と、そんなこんなで学校を出ようとすると。


「ッ!?」


 校門前で待ち伏せている女を発見。

 暗い中でスマホをポチポチ弄っている。

 画面から漏れる明かりに照らされるのはヘアピンで前髪を留めたおでこ。

 未来がそこにいた。


「……ど、どうすんのよ!」

「……裏門はもう締まってるし。だからと言ってお前といたら変な誤解されそうだ」

「……なんで君が嫌そうなの!? あたしの方が嫌なんだからね」


 塀の裏に隠れながらそう言い合う。


 あいつが待っているのは誰なのか。

 新しい男? 女友達?

 予想しようと思えばいくらでもできるが、どれも違う気がする。


 俺は姫希をその場にステイさせ、単騎で未来の前に姿をさらす。


 彼女は俺の姿を見つけた瞬間、ハッと反応した。


「しゅー君」

「……どうしたんだよ」

「いや、ここで待ってたら会えるかと思って」

「俺に?」

「そうだよ」


 待ち伏せてたって事か。

 背筋がなんだかぞわっとした。


「なんで俺に会おうと?」

「話したいことがあったから……」

「俺はない」


 この前同様、無意識に硬い声が出る。

 やはり俺は深層心理で未来の事を拒絶しているらしい。


「そ、そんな事言わないで? 前みたいにご飯一緒に食べよ?」

「悪い。金ないから」


 どうせ俺は金づる。

 こう断れば帰ってくれるだろうと、そう思って嘘をついた。

 なのに、何故か未来は引き下がらない。


「じゃ、じゃあ私が払うよ」

「意味が分からん」


 どんな風の吹き回しだよ。

 ずーっと乞食していた奴が急に奢るだって?

 まだ夏だが雪が降りそうだ。


「あの、だからしゅー君……」

「やめてくれ。もういいから帰ってくれ」


 目障りだから、と。

 口からその言葉が出そうになった。

 金輪際近寄るなと言いそうになった。


 恐らくそれを言えば、未来は完全に俺から興味を失くすだろう。

 だがしかし、言えなかった。

 深層心理に残っていたのは拒絶だけではなかったらしい。

 全く、つくづく自分のこういう所が嫌いになる。


「わかった。帰るね」

「気をつけ……ろよ」

「うん!」


 最悪だ。何心配してんだよ俺。

 くっそ。


 去って行く未来の後ろ姿を見ながら、吐きそうになった。

 と、そんな俺の背中に小さな手が。


「しっかりしなさいよ。ほら、今日は一緒に居てあげるから」

「……なんかむかつくぞ」

「いつもあたしが君に思ってる事よ。ほら、この前のファミレスで良いわね?」

「俺が払うのになんでお前が先導してんだよ……ははっ。ありがとな」


 やはり腹立たしい奴だ。

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