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第百六十話 結果は報いずとも

「今日はこの辺で終わりにするか」


 テスト明けの部活という事で、嫌と言うほど詰めてやる気満々だったのだが、そういう雰囲気ではなかった。

 どうしてもミスが目立つ。

 キャプテンの唯葉先輩が、ずっとから回っていた。


 余程テスト結果がショックなのか、いつもなら絶対外さないレアアップを何本も外したり、何もない場所で躓いて転んだり。

 要するにめちゃくちゃだった。

 原因なんて全員わかっているため、誰も何も言わない。

 それがまた、雰囲気を重くした。


 誰が悪い、なんてことは無い。

 人間誰しも調子の悪い時だってあるし、その時は他の奴らでカバーすればいいだけだ。

 俺たちはチームなんだから。


 だからと言って、心配じゃ無いわけでもない。


「今日は火曜か。なるほど」


 全員を着替えに行かせた後、俺は曜日を確認して呟く。

 火曜と言えば、以前唯葉先輩と約束をした曜日だ。

 まだ一度もやっていなかったマンツーマンレッスン。

 せっかくだし、今日からやるか。


 こんな日にまだ練習させるのかと思われるかもしれないが、これはバスケの練習をさせたいだけではない。

 ただ、話を聞きたかっただけだ。

 いつまでもこの調子が続くとは思わないが、そうで無いとも限らない。

 誰かに話して少しでも発散してくれたらな、程度のものである。


 ただ、俺は話の聞き役が上手いわけでは無いし、どちらかと言うと苦手だ。

 つい自分の意見を挟んでしまったりしそうだから、気をつけなければならない。

 大事な部員のメンタルケアには精一杯助力する。


 と、そんな事を考えていると全員着替えを済ませて出てきた。


「あはは、帰りましょうか」

「唯葉ちゃん、今日家に行って良いですか?」

「はい……。って、えぇ!?」


 一度飲み込みかけて盛大に吐き出した唯葉先輩。

 大声と共に目を見開く。


「う、うちに何の用ですか!?」

「ほら、約束の火曜でしょ。練習しますよ」

「……なるほど。でも、なんでわたしの自宅なんですか?」

「なんとなくです」

「まぁ、別に良いですけど」


 流石に今日の先輩のテンションを把握しているからか、あきらもすずも何も言わない。

 あと単純に唯葉先輩に俺への好意がない事を理解しているからだろうか。

 ちなみに凛子先輩は優しい顔で俺を見ていた。

 まるでありがとうとでも言わんばかりだ。

 そんな大層な事をする気はない。


 そうして、その日は唯葉先輩の家で練習する事にした。



 ◇



「あはは、なんだか緊張しますね……。男の子を招いたことなんて、初めてかもしれないです」

「別に家の中に上がり込む気はないので安心してください」

「そうですか」


 電車の中、俺と唯葉先輩は二人でそんな会話をする。


 しかし、改めて見ると小さいものだ。

 俺の身長が高いせいなのもあるが、元々唯葉先輩も小さいし、まるで子供と会話しているような気分になる。

 そう言えば高校で初めて会った時も同じような感じだった。

 あの時は誰かの妹だと思ったんだっけ。


「……成績、どうだったんですか?」

「まぁ、よかったです」

「そうですか。そうですよね……」


 唯葉先輩はそう切り出し、大きくため息を吐く。


「唯葉ちゃんはどうだったんですか?」

「赤点はなかったし、二学期の中間よりは若干上がってたんですけど、塾に通っていた時ほどの成績には戻りませんでした」

「一学期は部活もなかったし、そう考えるとめちゃくちゃ良いじゃないですか」

「……もっと取れると思ったんです。取らなきゃいけなかったんです」


 思ったより好成績だと思ったのだが、本人は納得していないらしい。


「でも唯葉ちゃん、英語の小テストとかボロボロでしたよね」

「えへへ、そんな事もありましたね」

「それを考えると大した成績だと思いますけど。僅か二週間くらいで塾にも通わずに中間テストより成績を上げたのは凄いです」

「……」

「俺は唯葉ちゃんの努力を見てました。だからわかりますが、決して無駄じゃなかったですよ。少なくとも、それだけの成績に戻せたんなら部活をオフにしてよかったと思いますし」

「優しいですね、千沙山くんは」

「優しくないですよ」


 あくまで努力している唯葉先輩を見たからだ。

 同じように落ち込んでいたとしても、すずみたいな勉強態度だったら俺は慰めなんかしなかっただろう。

 全部先輩の日頃を知っているからだ。

 真面目にすれば結果は報いずとも、周りの人間は応援したくなる。


「きっとお母さんも褒めてくれますよ。彩華さんも」

「あはは。……それはどうでしょう」


 俺の言葉に、唯葉先輩は険しい顔を見せた。

 しかし、その時の俺はそれに気付かなかった。

 あまりの身長差に、俯き加減な先輩の表情まで確認できなかった。

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