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第百五十九話 テストの結果

 色んな問題に悩まされたテスト期間だったが、そんな事をお構いなしに本番はやって来る。

 俺達はそれぞれの想いを胸に期末テストを受けた。


 ちなみに、あれ以降大した騒動は起きなかった。

 未来が接触してくることはなく、ただ唯葉先輩が泣きながら勉強をするだけの普通の日々。

 俺自体は若干余裕があったため、最後の方の数日はすずのフォローをした。

 とりあえず赤点は回避させたいところだ。


 さらに言うと、俺達に未来が絡んできたことは秘密のままやり過ごすことができた。

 そもそもあいつの話題なんて出ないためボロが出ることもないし、俺も姫希も余計な事は喋らない。

 そしてそれはすずも同様だ。

 元から自分の話をするような奴でもないため、例の件があきらや唯葉先輩に伝わることはなかった。


 安心してテストに臨んでもらえたと思う。



 ◇



「こんな成績初めてだ……」

「数学90点じゃない。おめでとう」


 テスト結果を配布され、俺は自分の成績に目を丸くしていた。

 断トツで過去一の順位、点数がそこにはあった。

 それもそのはず、姫希の言う通り、数学の点数が90点だったのだ。


 真顔で俺の成績を見ている姫希に、俺はコホンと咳ばらいを一つ。

 あんまり言いたくないし、認めたくなかったのだが、これは言わなければならないだろう。


「……ありがとな。お前のおかげだよ」

「ふん。当たり前よ。あたしだけじゃなくて凛子先輩や唯葉先輩もいたんだもの。このくらいは取って当然よ」

「はは。手厳しいな」

「でも頑張ったわね」

「あぁ」


 謎の上から目線に苦笑が漏れる。

 まぁこういう奴だよな。

 実際、今回のテストで問題が解けたのは何も姫希のおかげだけではない。

 助けてくれたみんなに感謝だ。


 と、一応聞いておく。


「お前はどうだったんだ?」

「いつもよりよかったわ。ほら」

「……これマジ?」

「嘘のデータを印刷されるわけないでしょ。数学は満点だったわよ」

「流石だな」

「君たちに教えるのにどうやったら伝わるか考えたから、そのおかげかしら」


 姫希もなんだかんだ試行錯誤していた。

 あきらは俺以上に飲み込みも勘も悪いため、よく説明が伝わらなくて困っていた。

 その度にどうやって教えたらわかりやすいか、考えていたのだろう。

 可愛いものである。


「ん」

「そうだな」


 目で合図され、俺達は会話をやめた。

 二人でずっと話をしていては、またあらぬ勘違いをされる。

 本当に面倒な事だ。


 当の未来は、自分の友達と普通に話していた。



 ◇



「じゃーん! 赤点0個でしたっ!」

「おめでとう」

「数学なんて70点超えてたんだよ! 柊喜よりいいんじゃない?」

「それはない」


 部活に行くと、ハイテンションのあきらに点数自慢をされた。

 しかし、俺の成績を見せた瞬間真顔に戻る。

『そっか』と一言零したあきらは若干悲しそうだった。

 悪い事をしたような気分になるが、どうしようもない。


 そしてそこにやってくる一番の問題児。

 そいつはいつも通り眠そうな目で俺に成績表を渡してくる。


「赤点なかった。褒めて」

「頑張ったな」

「すず、天才かもしれない」

「せめて1教科でも平均を超えてから言おう」


 確かに赤点こそなかったもの、胸を張るような成績ではなかった。

 こいつは今後も目をかけて勉強を教えてやらないといけない気がする。


 しかし、蓋を開けてみれば一年生組は全員赤点回避をしたわけか。

 教科数も多いのに、大したものである。

 特にあきらやすずは奇跡とも言える結果だ。

 やはり努力ってのはそれなりに結果に繋がるものだな。


「みんな揃ってるね」

「凛子先輩」


 あきら達が着替えに行っている時、凛子先輩が現れた。

 その表情はあまり楽しそうではない。

 馬鹿ではないため、俺は何が起きたのかを察した。

 まぁ、物事そう上手くはいかないよな。


「凛子先輩、人はたまにミスをするものなので気を落とさないように」

「何か勘違いしてない?」

「赤点取ったんじゃないんすか?」

「そんなわけないよ。僕今回も1位だし」

「え? じゃあなんでそんな浮かない顔……あ」

「僕の事じゃないんだよ」


 俺も言っていて途中で気づいた。

 そしてすぐに事態の深刻さに気付き、焦った。


「あはは、心配しなくてもみんな赤点は取ってないよ。ただ、唯葉は自分の成績に落ち込んでるからさ。あんまり刺激しないであげて欲しいんだ」

「……わかりました。着替えてる奴らにも言っておいてください」

「うん。……あ、一年生はどうだったの?」

「全員赤点回避しました」

「そっか。教えた甲斐があるよ。ありがと」

「感謝を言いたいのは俺の方です。マジでためになりました」

「また頼ってよ。いつでも力になるから」


 そう言って着替えに行く凛子先輩の背中を見ながら、俺はなんとも言えない気持ちになっていた。

 そりゃそうだよな。

 世の中そんな甘くはないよな。

 でも、なんでよりによって唯葉先輩なんだろう。

 あんなに一生懸命で、誰よりも頑張っていたのに。

 しかもテスト前から思いつめていた。

 心配である。


「こんにちは」

「あ、どうも」

「あはは、今日から練習再開ですね。頑張りましょう」


 少し遅れてやってきた唯葉先輩の顔はいつもより暗かった。

 これなら補足をされなくても気付いただろう。


 テンションの低い唯葉先輩に、俺は上手く声をかけられなかった。

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