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第百五十四話 遊ばれてる

未来の視点です

 とある日の放課後の事だ。

 私は下校もせずにぼーっと席に座ったまま考え事をしていた。

 その考え事というのは、先程自分の目の前を女子と並んで歩いて行った大男——柊喜の事に他ならない。


 あの人、最近おかしい。


 教室ではいつも伏山さんと話しているし、放課後もすぐに二人でどこかに行っている。

 最初は部活なのかな、とも思ったけど、違った。

 最近女子バスケ部は練習してないみたいだし、別の要件があるみたいだ。


 この前の事もある。

 あの人と日直が被った日、伏山さんと二人仲良く校外を歩いていたのを見た。

 怪しい。

 あきらは付き合ってないって言ってたけど、本当にそうなのか疑問が残る。

 だって、あの人があんなに親しくしてる女子なんて見たことないし。


 そしてそれだけじゃない。

 昼休みにはまた別の女子と二人で勉強している。

 前に校内を歩いている時、たまたま見つけたんだ。

 それから何日か同じ場所を通ったけど、その時も毎日同じように二人で勉強していた。

 随分仲が良さそうで、いつ見ても二人とも笑っていて楽しそうだった。


 私と付き合っている時、あの人が女子といる所なんて見たことがなかった。

 それが急にこんなことになって、ちょっと動揺している。

 それに、よくわからないけどイライラしているのも事実だ。

 私が何回もやり直そうとしてあげたのに、それはガン無視で他の女の子といちゃいちゃされて、嫌な気がしないわけがない。

 これは私が柊喜に未練があるとかじゃない。

 そもそもあんな奴どうでもいいし。

 デカ過ぎて視界に入ってくるだけだ。


「……うっざ。帰ろ」


 テストも近いから自宅に帰ろうと席を立つ。

 そして教室を出た途端、私は轢かれた。

 走ってきた女子に思いっきり衝突され、尻餅をつく。


「いたっ」

「あ……。ごめんなさい」

「……黒森さん?」

「ん?」


 ぶつかってきたのは隣のクラスの黒森鈴さんだった。

 柊喜にべったりで、大好きオーラをまき散らしている子。

 少し苦手な人だ。


 私は立ち上がると、申し訳なさそうに若干眉を下げる彼女に聞いた。


「黒森さんってしゅー君の事好きなの?」

「……しゅー君って誰?」

「千沙山柊喜」

「っ! 大好き」

「……」


 名前を出した途端、無表情だった顔が緩む。

 ニコニコしながら答えた彼女に、何故か死ぬほど嫌悪感を覚えた。

 だから、少し意地悪したくなった。


「私あの人の元カノ」

「……未来ちゃん? だっけ?」

「そう」


 一応名前は知られているらしい。


「しゅー君の事好きって言ってるけど、あの人他の子とイチャイチャしてるじゃん」

「なにそれ」

「伏山さんとか」

「姫希?」


 訝し気に眉を顰める黒森さんに、私は得意げになって続ける。


「教室でもいつも一緒に居るんだよ。ご飯も一緒に食べてるし、ずっと二人きりでイチャイチャしてる。お似合いだよね」

「……何言ってるの?」

「ん? あの二人付き合ってるんじゃないの?」

「違う。そんなわけない」


 私の言葉に段々と黒森さんの顔つきが変わる。

 首を振って拒絶しようとする彼女。

 私はそこに容赦なく、見た事実を言った。


「でもこの前二人っきりで出かけてたよ? あれ、黒森さん知らない?」

「……知らない」

「言っちゃダメだったのかな? あはは、ごめん」

「ちょっと待って! どういうこと?」


 踵を返して帰ろうとする私に、黒森さんは珍しく大きな声を出した。

 肩を掴まれたけど鬱陶しかったから振り払う。


「知らないよ。この前二人きりで出かけるの見たってだけ。それ以外にもうちのクラスでは有名だよ? しゅー君と伏山さんが良い感じって」

「そんなの嘘!」

「嘘ついて私に何の得があるの? それに、黒森さんは二人きりで出かけてたことすら聞かされてないんでしょ? やましくないなら隠す必要ないじゃん」

「……何が言いたいの?」

「黒森さん、あいつに遊ばれてるんじゃない? かわいそ」

「っ」

「ばいばい」


 言葉を失って顔を青ざめさせる黒森さんを見ていると、無性に何かが満たされるような気がした。


 私はそのまま家に帰った。

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