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第百五十三話 心乱れる相手

 あきらはすずとの勝負に負けた。

 その事実は絶対に揺るがない。


 そして彼女らは自分たちでルールを決め、すずがデート権を手に入れた。

 勿論俺は最後まで許可なんて出した覚えはないが、二人の中ではそういう風に完結している。


 複雑なところだ。


 試合の内容を熟知しているが故に、あきらを不憫に思う気持ちはある。

 だがしかし、同様にすずの努力を否定したくもない。

 あいつは俺とあきらにデートさせたがっていたが、それは流石に違うと思う。

 そもそもあきらの方から言ってくるならまだしも、俺から『デートしよう』なんて口が裂けても言えない。

 だって付き合う気がないから。


「ごめん、変な話を持ち出して」

「いや、いいんだ。実はすずからお前ともデートしてくれって言われてたし」

「え?」

「あいつも気付いてるんだよ。お前がパスに徹してくれてたって事を」

「……そっか」


 少し嬉しそうに笑いながら、あきらは俺を見る。

 その目には若干期待のようなものが感じられた。


「……久々に一緒に飯でも食うか?」

「いいのっ?」

「まぁ、他の奴とも食べてるし、そのくらいは。ただデートはしない」

「あはは、柊喜らしいね。それでいいと思う」

「あぁ」


 話が分かる奴で助かる。

 本来なら二人で飯に行くのも褒められた行為ではないんだろうが、俺も聖人ではない。

 たまには幼馴染と一緒にご飯を食べたいと思うのも事実だ。

 それに、姫希とかとも二人で行っているしな。

 あきらだけダメって言うのもおかしな話だ。


「腕が鳴るな~」

「お前が作る気か?」

「勿論。だって柊喜いつもコンビニご飯でしょ?」

「何故知っている」

「いっつも見てるもん」

「は?」

「あ」


 衝撃の発言に思わず聞き返すと、あきらは足を止めて首をぶんぶん振る。


「ち、違うよっ!? 別に毎日夕方に自分の部屋の窓から柊喜の家を眺めてるわけじゃないから!」

「……監視は笑えねーよ」

「だって……柊喜も悪いんだよ? 私が作らなくなってからそんな食生活になったわけだし、責任感じちゃう」

「……」


 すずにも痩せていると言われたし、心配をかけさせたのかもしれない。

 やはり俺達は男女である前に家族同然の幼馴染だったわけで。

 俺と同じで、あきらだって俺の事を家族として見ている節があるのかもしれない。

 歪な関係だ。


 だけど、嫌な気はしない。


「じゃあ今日は料理教えてくれよ。一緒に作りたい」

「……うんっ」

「なんだ今の間は」

「いや、そういえば柊喜に何か教えるのって生まれて初めてな気がして」

「そんな事ないだろ」

「ううん。勉強もバスケも教えてもらうことばっかりだったじゃん」

「それは確かに」


 大体成績は俺の方が良かったからな。

 バスケだって、中学の時はよく庭で教えてやっていた。

 懐かしい話だ。

 張り切っているあきらを見るとつい笑ってしまう。


「だから楽しみっ」

「そ、そうか」


 真っ直ぐな笑みで言われ、俺が動揺してしまった。

 不覚にも可愛いと感じた。

 鼓動が急に早くなる。


 急に無言の間が耐えられなくなり、俺はおかしな質問をしてしまう。


「お前って今、どういう気持ちで俺と話してるの?」

「え?」

「あ、いや。一応その……好きって言われてるし」


 言ってから後悔した。

 何聞いてんだよ俺……。


 あきらは俺をじっと見つめたまま口を開く。


「幸せな気持ちだよ」

「……俺のどこが好きなんだ?」

「思い切って聞いてきたね」

「いや、だって。気になるだろ」

「それはそうかも」


 彼女はふっと笑みを零した。


「まぁ、そんな事を直接本人に聞いちゃうノンデリカシーなところとか」

「すみません」

「ご飯作れないダメダメなところとか」

「すみません」

「私以外の女の子とイチャイチャしてるところとか」

「……お前、さては俺の事嫌いだな?」

「あはは、バレた?」


 おちゃらけた様子のあきらについ苦笑を漏らすと、彼女は口を開けてげらげら笑った。

 冗談だよ、と言いつつ目に浮かんだ涙を拭うあきら。

 笑い過ぎである。


「全部大好きだよ。一緒に居ると落ち着くんだよね」

「……」


 突然の真面目な一言に、俺は多分変な顔をしてしまったと思う。

 なんでって、ここ最近俺の方が真逆の事を思っていたからだ。

 こいつといると常にそわそわするし、変に意識してしまう。

 落ち着くなんてとんでもない。

 一番心が乱れる相手だ。


「手繋いで良い?」

「ダメ」

「けちっ」


 何故か俺の方が遊ばれているような気がする。

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