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第百五十二話 俺の裁量次第

 なんだかんだ意外にみんな真面目で、勉強会は私語もそこそこに進んだ。

 途中すずが居眠りしたり、姫希に詰められ過ぎてあきらが涙目になっていたりしたが、まぁそんなもんだ。

 ちなみに姫希は姫希で、落ち込んでしまったあきらを慌てながら半泣きで慰めていた。

 見ている分には面白いのがうちの部活だ。


 しばらく勉強して外も暗くなった時、凛子先輩が伸びをして見せた。


「うーん、今日は帰ろうかな。ご飯の支度したいし」

「じゃあわたしもですね。お泊りです!」

「今日の夜は唯葉の大好きなピーマンの肉詰めにしよう」

「やめてください! これ以上の苦行は耐えられません!」

「あれ、僕の作るご飯にケチつけるの? 居候の分際で? 僕に勉強教えてもらう分際で?」

「うぅ……。薇々からも何か言ってください」

「ピーマンの肉詰め美味しそうだね」

「いじわる!」


 凛子先輩と朝野先輩にニヤニヤ笑われて、唯葉先輩は困ったような声を上げる。

 全く仲が良いもんだな。


 と、そんな会話をしながら先輩三人は消えていった。

 残りは一年生組だけである。


「あれ、すずは?」


 周りにすずの姿が見えなかったためそう聞くと、あきらが苦笑しながら答えた。


「さっき先生に呼び出されてたよ」

「あいつは何をやらかしたんだ」

「居眠りじゃない? 毎日授業中に寝てるって聞くし」

「……」


 あいつはいつも所構わず寝ているが、どうなっているのだろうか。

 夜に寝ていないから、というわけじゃないのはこの前泊めた時に知っている。

 単純に一日何時間でも寝れるタイプなのだ。

 普通にちょっと心配である。


「じゃ、あたしも帰るわ。凛子先輩いなかったら意味ないし」

「なんか悪いな」

「別にいいわよ。他人に教えるのって自分のためにもなるから。……あきら、今日はキツい事言ってごめんなさい」

「いいよ。問題解けるようになったし」

「そ、そう? それはよかったわ」

「うん。だからありがと」


 はにかみながらそう言ったあきらに安心したのか、胸を撫で下ろしながら姫希は去っていく。


 というわけで、静かになった。

 この場には俺とあきらしか残っていない。

 二人で視線を合わせ、互いによくわからない笑みを漏らした。

 さて、どうする。


 例の告白以降、あきらと二人っきりになることはなかった。

 タイミングもなかったし、そもそもお互いに避けていた。

 一緒にご飯を食べることすらなくなっている現在、まともに二人きりで話す機会はほとんどない。


「俺達も帰るか」

「そうだね。でもすず、みんな帰ってたら悲しむんじゃない?」

「だからって待ってても仕方ないだろ」

「……うん」


 若干拗ねるかもしれないが、既に六時近いため、あんまり遅くまで残りたくはない。

 一応スマホに帰ったというメッセージを送って、俺達は学校を出た。



 ◇



「久しぶりだね」

「そうだな」


 あきらと二人で下校するなんて、小中高と当たり前の日常だったのだが、今ではやけにそわそわする。

 チラッと視線を落とすと絶対に目が合うのもなんだかなぁって感じだ。

 そして毎回お互いに目を逸らしている。

 こいつは俺を見ていて首が痛くないんだろうか。


「……すずとのお泊りどうだった?」

「……」


 久々の幼馴染の会話としては最悪の話題だ。

 何故振ってきたのかわからないが、嘘をついても仕方がない。


「まぁ、楽しかったよ」

「……そっか。よかったじゃん」

「あぁ」


 俺の返答にあきらは俯き、無言になる。

 拳をぎゅっと握り締めているのが丸分かりだ。


「なんで私、点取れなかったんだろ」

「そりゃお前が自分で打てるタイミングですずにパスしてたからだ」

「っ!?」

「気付いてないとでも思ってんのか」


 俺の言葉に目を見開くあきらについ笑ってしまう。

 コーチのことを舐めすぎだ。


「でも、普通に何本も外してるし、言い訳だよ」

「そうだな」

「……だから、悔しくって」


 つい先日のすずの話を思い出す。

 あいつも自分が勝ったのはあきらのパスのおかげだと気付いていた。

 その上であきらとデートしてくれとお願いもしていた。

 だから、ここから先は全部俺の裁量次第。


「柊喜とお泊り、本当は絶対して欲しくなかった」

「そっか」

「あ、いや……。ごめん」

「いいよ」


 さて、どうしたものか。

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