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第百四十六話 先輩とのお勉強

「千沙山くん、そこ間違えてますよ」

「どこっすか?」

「ここです」

「……あ」


 あれから数日が経過した。

 みんなで話をして、俺達女子バスケ部はテスト前一週間をまるッと勉強休みにすることを決めた。

 これでテストはどうにか対策できそうだ。


 そして今はとある昼休み。

 日課となりつつある唯葉先輩とのお勉強会だ。


 隣でペンを走らせていた俺のノートに先輩は注意をしてくる。


「ここの変形が間違ってるんです」

「本当だ。だからこっちの計算がズレてるのか」

「そうです。計算し直してみてください」

「……できた」

「よかったです」


 にこっと笑いながら控えめに拍手をする唯葉先輩。

 彼女の指摘通りに修正をしたら簡単に問題が解けた。


「唯葉ちゃんの教え方わかりやすいです」

「そうですか? ……まぁ、わたしも躓いたところなので気持ちがわかるんですかね」


 毎日ちょっとしたミスを指摘してもらっているのだが、意外に教え方が丁寧かつわかりやすい。

 どこかの誰かさんと違ってブチ切れることもないので、俺としても安心して話を聞ける。

 あいつなら今のやり取りでも『は? なんでそんな式になるのよ。あり得ないわ』とか言いそうだ。


「わからないことがあれば聞いてください! 一年生の頃はまだ成績良かったので」

「はい」

「えへへ、ようやくお姉さんだって認めてくれました?」

「これは認めざるを得ませんね」

「本当ですか!? 千沙山くんも可愛いとこあるんですね」


 俺の言葉に唯葉先輩はニヤッと笑みを浮かべた。

 若干煽られているような気がするが、それはさて置き。

 こうして勉強を教えられると先輩なんだなぁと痛感する。


 しかし、俺だけ教えてもらっていても仕方がない。


「唯葉ちゃんは順調ですか?」

「……これ」

「……いよいよマズいっすね」

「やっぱりそうですよねっ!? うわぁどうしよう!」


 恐る恐るといった様子で出してきたプリントに俺が言うと、唯葉先輩は机に突っ伏して暴れた。


 そのプリントは今日行われたらしい英語の小テストで、点数は34点。

 うちの高校は40点以下が赤点であるため、このままでは赤点コース突入といったところ。

 テストまで残り二週間を切っているし、だいぶ追い込まれているようだ。


 ちなみに今は図書室ではなく、会話ができる学習スペースに移動している。


「凛子先輩辺りに聞いたらどうですか?」

「……恥ずかしいです」

「今更そんな事言ってられないでしょ」

「それはそうですけど、そうなんですけど……!」


 要領が悪い人に多い傾向だが、他人に頼るってことを渋る事が多いよな。

 この世の問題なんて、大体一人じゃこなせないのにもったいない。

 抱え込み過ぎなのだ。

 結果として効率は下がり、頑張っても伸びないという悪循環が生まれる。


 とかなんとか考えていると、足音が近づいてきた。


「お呼びかな?」

「凛子!」

「うわー、だいぶ点数落ちたね。テスト後に真っ青な顔してたから察してたけど」

「……」


 苦笑しながら言う凛子先輩に、ぷるぷる震えながら俯いている唯葉先輩。

 そんな彼女の横に凛子先輩は座った。


「ここ授業中にやったイディオムだよ。直訳してるから答えが違う」

「あ」

「こっちの単語はこの文脈だと違う意味になるよ」

「この前授業でやったところだ!」

「そうだね」


 スムーズに注意をしていく凛子先輩に、俺は思わず拍手をした。

 流石は学年一位、指摘が的確である。


 馬鹿丸出しな俺の反応に、凛子先輩は照れるなぁと呟きながら頬を掻いた。


「柊喜君は順調?」

「まぁ、なんとか」

「僕の事も頼ってね? 去年の範囲も覚えてるから教えてあげる」

「先輩は自分の勉強をしなくて大丈夫なんですか?」

「え? どうせ一位取れるからいいよ別に。それに一週間テスト休みくれるんでしょ? 僕はそれで間に合うから」

「むぅ、ちょっと耳が痛いです」

「ほら唯葉、そんな事言ってないで復習するよ。単語帳広げて」


 余裕な凛子先輩に介護される唯葉先輩。

 小言も聞いてもらえず、すぐに指摘された。

 なんだか見ていると笑えてくる。


 だが、一つ気になった。


「なんで凛子先輩まで来たんすか? 勉強の必要ないのに」


 勉強しなくても成績が取れるのに、こんな場所に用はないはずだ。

 冷やかしのつもりか?

 疑問に思って聞いてみると、凛子先輩はわざとらしく可愛い子ぶりながら口を開く。


「柊喜君が他の女とイチャイチャしてるの聞いたら、居ても立ってもいられなくって」

「ふっふっふ。まさか嫉妬ですか~?」

「唯葉、またそこ間違えてる。集中して」

「……すみません」


 揶揄おうとしたが、すぐにマジトーンのカウンターをくらう小学生。

 やはり凛子先輩の方が一枚上手なようだ。


 その後、唯葉先輩は必死に単語帳とテスト問題を見つめ始めた。

 なんだかんだ言いつつ真剣である。

 俺も負けていられないな。


「凛子先輩、俺も英語の質問していいですか?」

「うん」


 結局その日は、かなり有意義な勉強時間を過ごした。

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