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第百四十二話 次に向けて

 試合が終わった。

 みんなで頑張って練習してきたが、結果としては二回戦敗退。

 優勝を目指している手前、大喜びできるような成績ではない。


 とまぁ、そんな事を言いつつ、十一月というのは別の事に目を向けなければならない時期だ。

 例えば、期末試験とか。


「……練習、どうしよう」


 夜中、自室でコーチングノートを開きながら俺は呟いた。


 十一月の夜中は冷える。

 窓を開けているせいもあって、吹き付ける風が気持ちいい。

 若干肌寒いくらいが丁度いいのだ。


 現在は日曜で、試合があった翌日である。


 今日は思い切ってオフにした。

 早速課題の修正を始めたいところではあったが、流石に試合の翌日は休ませた方が良いだろうという判断の元だ。

 一応俺達は五人しかいないため交代もなく、全員が平等に満身創痍だからな。

 二日連続でバスケの試合をするっていうのはそのくらいハードだ。


「テストは21日からか。……どうしよう」


 ここだけの話、部員のみんなには悪いんだが、俺は成績に余裕がない。

 部活に入ってから受けた二学期の中間テストでは、全教科平均点以下、英語に関しては赤点ギリギリだった。

 かなりヤバい。

 正直他人の練習を見ているような余裕はない。


 そしてそれは俺だけではない。


 あきらは中間テストで二つ赤点を取っていた。

 あいつがこのまま落ちぶれていき、冬休みに補修なんてくらおうものなら、練習時間が減って最悪。

 また今回みたいに試合直前に人数が揃わず、二回戦敗退……なんて事になったら笑えない。


 こればかりは仕方がないし、テスト前は勉強休暇を設けようかな。

 俺達の本分は学生であり、部活より勉強の方が大切なはずだ。


「ただ、先輩には迷惑をかけるよな」


 唯葉先輩と凛子先輩は成績が良い。

 地頭が良い凛子先輩は勿論、唯葉先輩に関しては部活をしながら塾に行って補っている。

 流石としか言えない努力量だ。


 俺の成績が悪いのは部活のせいじゃない。

 それは言い訳で、単に俺が怠惰なだけだ。

 そんな体たらくで勉強休暇なんて、頑張って時間を捻出してきた先輩たちに不誠実過ぎる。

 どうしよう……。


「数学は姫希に教えてもらえば何とかなるか。いや待てよ、そう言えばすずも成績悪かったよな」


 悩みの種が全く尽きない。

 部活だけでなく、なんにおいても手のかかる奴らだ。

 ……ってどの口が言ってんだか。

 一番最低なのは俺だ。


 夕飯として齧っていた食パンの残りを口に入れながら、俺はふと感じる。


 遠征合宿以降、あきらの手料理を食べていない。

 そもそも家にあげてもいない。

 向こうから来ていないのは勿論、仮にやってきても躊躇する。

 どう対応していいのか困るからな。


 ただ、寂しくないかと言われればそれは否だ。

 家族と縁が切れたような感覚である。


「でも、辛いのは俺よりあいつだよな」


 ふとあきらの作ったオムライスを思い出した。

 ケチャップアートでハートを描いていた奴だ。


 あの時は大してなんにも思わなかったが、考えてみればあの時くらいからだ。

 あきらが妙にそわそわし始めたのは。

 大好きだよ、なんて言われていたが、アレは本気の告白だったのかもしれない。


 思い出したら胸が熱くなってきた。

 気温は低いのに、異様に体が熱い。


「そう言えば、デートするって本気なのか……?」


 あきらとすずが競っていたデート権の話だ。

 俺は行くなんて一言も言っていないが、結局そのまま試合を迎えて、すずが権利を勝ち取ってしまったらしい。

 今後その点の判断も考え物だ。


 断っていいのだろうか。

 あんなに一生懸命だったのに、無下にするのは気が引ける。

 それに一つ、別の懸念点もあるのだ。


 って、今はそれどころじゃないな。

 期末テスト対策に、次の大会への調整等、色々考慮していかなければならない。


「寝よ」


 俺はノートを閉じ、歯磨きをしに部屋を出た。

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