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第百三十三話 違和感

「そう言えばこの前はありがとな」

「何の話?」

「竹原先輩達の件で俺の事庇ってくれたんだろ?」

「……」


 一応改めて礼は言っておくべきだろうと思って切り出すと、未来はびっくりしたように目を丸くした。


「事情を知らなかったとはいえ、関わるなとか言って悪かった」

「……別にしゅー君のためじゃない。なんか私が嫌だっただけ」

「そうか」


 別にどうでもいい。

 未来が俺への嫌がらせを阻止しようとしてくれた事実だけで十分だ。

 いくら嫌いな相手でも、助けてもらったら礼は言う。

 人間としてのモラルだろう。


「今日この後部活?」

「いや、珍しく休み」

「あ、じゃあ一緒に……」

「……」


 姫希とご飯に行くことは勿論言ってない。

 だからフリーだと思ったのか、若干声を上ずらせながら言ってくる未来。


「ごめん、用事あるから」

「……なんかごめん」

「いや、別に」


 未来の気持ちは読みにくい。

 理不尽なフラれ方をしたかと思えば、数日後には好きだからやり直したいと言ってきて、そして軽いストーカー行為に発展した。

 その後は大喧嘩して話すことすらなくなっていたが、実は裏で俺のためにふざけた先輩に注意してくれていて。

 でも竹原先輩から、復讐しようとしているとも聞いている。

 わけがわからない。


 気まずい沈黙の中、日誌を書き終えると未来は聞いてきた。


「ってかなんであんなこと聞いたの? 誰かに告白された?」

「……」

「もしかして伏山さん? 最近席も隣でいつも話してるし」


 こいつはずっと俺と姫希の仲を疑っているよな。

 冷静に考えれば一番ない事なんてわかりそうなものなのに。

 あの部活の中で一番好感度が低い自信があるぞ。

 事あるごとにキモいキモい言われているからな。

 ただのコーチと教え子であって、それなりに信頼関係はあると思うが、それだけだ。


「違うよ。だた気になって聞いただけだから」

「そうだよね」


 素直に受け入れられて苦笑が漏れた。

 言外にお前なんかが告られるわけないよねっていうニュアンスを感じる。

 まぁその通りではあると思うが。


「用事あるんなら急いだ方が良いでしょ。私日誌持っていくから帰っていいよ」

「助かる」


 そんなこんなで、元カノとの地獄の時間が終わった。



 ◇



【未来の視点】


 久々に柊喜と会話した。

 物凄く緊張した。


「はぁ……」


 日誌を職員室に届けてから教室に戻る途中、私は廊下でため息を吐く。

 なんであんな奴に緊張してるんだろ。

 自分が意味不明過ぎてキモい。


 でも、少しだけ嬉しかった。

 前まで何の感情も籠って無さそうな目で見られていたけど、今日はちょっと優しさを感じた。

 付き合ってる時の事を思い出した。


「ってあいつ筆箱忘れてるし」


 教室に帰ると柊喜の机の上にさっきまで使っていた筆箱が放置されていた。

 今日は課題も出てたし、ないと困るはずだ。

 幸い家は知っているし、届けに行こうかな。

 いや、でもやめよう。

 柊喜からは関わるなって言われてるし、流石に元カレの家に行くのはキモい気がする。


「あきらに渡せばいっか」


 別に柊喜に直接渡す必要はない。

 今日柊喜の手元に届けばそれでいいんだから、それならいつも一緒に居る幼馴染のあきら経由で届ければいんだ。

 そうと決まれば急いであきらの家に行こう。


 小走りで廊下を渡ると、ふと窓から校門が見えた。

 そこには身長の高い男子生徒と一人の女子生徒が確認できる。


「しゅー君……?」


 見間違えようもない。

 あんなデカい奴、一目瞭然だ。

 用事って女だったの?


 必死に眺めていると、隣の女の正体が分かった。

 こっちも髪型でわかりやすい。

 最近短くしていたけど、あのワンサイドアップは伏山姫希で間違いない。


「は?」


 用事って伏山さんと二人っきりなの?

 デートって事?

 じゃあさっきの話は何?


 一気に自分の頭が重くなるような感覚に襲われた。

 ナニソレ。


 やけに親し気だし、そもそもあの伏山姫希がつるんでる奴なんて柊喜だけだ。

 既に付き合ってるってこと?

 意味が分からない。


「とりあえずあきらの家に行こう」


 考えても仕方がないし、私はあきらの家に足を運ぶことにした。

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