第百八話 反省会
先程の試合が終わり、とりあえず昼休憩という事になった。
ベンチから撤退し、与えられていた控室で一息つく。
「……惨敗です!」
「わかりきってたことだけど、ここまでボコボコにされるとは思わなかったな」
先輩二人の嘆きに苦笑した。
確かにフルボッコだったからな。
想定外なレベルで動けていないわけではなかったが、やはり弱かった。
「ここからです。次までに改善しましょう」
「反省会ですね!」
「全員動きに問題があるというより、スキル面の差が目立った感じがした」
「その通りです」
冷静な分析をする凛子先輩。
この部内で一番技術に難があるため、人一倍痛感した事だろう。
まぁただ、反省会は後で良い。
全員揃ってから始めよう。
まだあきらと姫希がいないからな。
長いトイレである。
「ん……」
「寄りかかるな。汗が付く」
「疲れた」
「知ってる。お疲れ」
「うん」
俺の肩に寄りかかってくるすずを壁の方にずらして言う。
さらに、ズボンを脱ごうとし始めたのでそれもやめさせた。
こいつは所かまわず下を脱ごうとするのかよ……。
一体どんな教育を受けてきたのか。
顔はこんなに可愛いのに。
「ん? 顔になんかついてる?」
「べ、別になんでもない」
きょとんとした顔で聞かれ、つい目を逸らしてしまった。
どうしても、この前お見舞いに行った時の事を思い出す。
意識するなという方が無理なのだ。
とかなんとか考えているとあきら達が戻ってきた。
二人とも顔色が悪い。
余程萎えているらしい。
「大丈夫か?」
「……うん。平気」
全く平気じゃなさそうに返事し、自分のバッグの方に歩いて行くあきら。
ふと姫希を見ると、彼女は首を振って見せた。
何かあったらしい。
「私、どうしたらいいかな」
「おう」
座るや否や、あきらは暗いテンションとは裏腹に前のめりな姿勢で聞いてきた。
あれだけシュートを外した後だし、もう少し後ろ向きになるかと思っていたのだが。
いや逆か。
自分のせいだと強く感じてしまい、どうにかしなきゃと焦っているのかもしれない。
「このまま私がシュート打ってていいの?」
「当たり前だ。お前が打つしかない」
「っ! でも、入んないじゃん」
「決めないからな」
「……決まらないもん」
「決めるまで打つしかない」
「っ!?」
かなり厳しい事を言った。
だがしかし、そうとしか言えない。
突き放すような俺の言葉に、あきらは目を見開く。
「お前なら絶対できる。練習中の事を思い出せ。うちのチームで一番シュートが入っていたのは誰だ? お前だろ? 大丈夫だ、何本外しても誰も文句言わない。みんなお前の味方なんだ」
「そうですよあきら! そもそも格上相手に緊張するのは普通です!」
「僕なんてシュートを打つことすら許されてないんだから。あはは」
「外したら全部すずがリバウンド取る。だから安心して」
「あたし、あんたが決められるようになるまでパスし続けるから」
「……うん」
納得はしないだろう。
プレッシャーになっただけかもしれない。
それでも、俺達はあきらに期待している。
普段の彼女を見た上で、みんな信じているのだ。
シューターに大事なのはメンタルコンディションを整える事だからな。
慣れてもらうしかない。
見据えているのは大会での勝利であって、目先の一勝ではないのである。
◇
一通り話が終わった後、姫希だけを外に呼んだ。
「あきら、何かあったのか?」
先程の様子がおかしかったため聞くと、彼女は真剣な顔つきで話をしてくれる。
「トイレで――」
どうも先程、相手チームがあきらの悪口を言っていたらしい。
それを偶々本人が聞いてしまったのだとか。
試合の件で落ち込んでいた時にそんなものを聞いてしまい、さっきまで泣いていたようだ。
あきらの様子がおかしかった理由が分かった。
「あの女、絶対に見返してやりたいわ」
「でも見返せるのはあきらだけだな」
「そうね。……どうにかならないのかしら」
シュート確率を上げる方法か。
単純に心を落ち着かせるためにルーティンを作ったり……みたいなものが思い浮かんだが、今からやっても意味がない。
どうしたものか。
こんな時、自分のコーチとしての腕不足を痛感するな。
教える者が半端なら、習う者も半端になるのは当たり前だ。
俺がどうにかしなければならない。
「それにしても、自分達も大して上手いわけじゃないのに、他人の悪口なんて言ってんなよって感じだな」
「君が言うと大人げないわ。柊喜クンの目には、さぞ低レベルな戦いに見えてるんでしょうね」
ジト目を向けながら言う姫希は無視して。
でもそうか、そんな事があったのか。
そりゃ黙ってはいられないよな。
「絶対に、帰る前にあのチームは叩き潰そう」
「そうね! 君のそういうところ好きよ」
「そりゃよかった」
馬鹿にするならそれなりに覚悟してもらおうというだけだ。




