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8,救出劇


 アリサはシュバーセン校長を救出するために、100名の兵を連れてシルバニア中央国家に向かった。

 シュバーセンは独身だが、家財道具はたくさんあると思ったので、十数台の馬車を連ねてシルバニアに急ぐ。先頭の馬車にはアリサとタケル、それにマリアが乗っていた。その御者は副官のアルベールが務めている。


 一週間かけてシルバニアの近くまで来た。

 森を抜けて、さらに少し進めば図書館があり、そこにシュバーセン校長がいるはず。そして、その先にはシルバニアの城塞都市があって、そこではガルガントと城の守備隊が激戦の最中であると予想される。

 ガルガントが都市を占拠して図書館に向かってくる前に、タケルたちは校長を救出しなければならない。


 アリサたちは森の出口手前で休憩することにした。

 すでに図書館が占領されており、そのガルガント軍と戦うことも考えらえるので、体制を整えてから向かうのだ。


「先に行って、偵察してまいります」

 マリアが町娘の格好に着替えていた。

「頼むわね。シルバニアの城塞都市がどのようになっているか見てきて頂戴」

 革の防具を身に着けながらアリサが依頼した。

 うなずくとマリアは馬の飛び乗り、森の道を駆けて行く。彼女は偵察兵としての訓練も受けていた。


 アリサは防具を装着した後に、背負ったエクスカリバーを抜く。

 その鈍い銀色の輝きを見て彼女は心を落ち着かせる。


 これからガルガントと戦闘になるかもしれない。大国のガルガントと真っ向から対立することになるのだ。トルーナン王国の行く末を思うとアリサの細い体が震えてきた。

 救出作戦を成功させて当たり前。失敗すれば自分を将軍に抜てきしてくれた国王に恥をかかせることになる。父のためにも姉のクリステルのためにも絶対に作戦を達成しなければ……そう思うと、不安をぬぐえないアリサだった。


 タケルは防具を適当に身に着けてアリサを見る。

「そんなに気を張るなよ。気軽に行こうぜ」

 ニヤついてタケルが声をかけた。

「いつも気楽よね、あんたは」

 アリサが剣を鞘に入れて、大きなため息をつく。

「心配したって状況が好転するわけじゃない。のんびりやろうよ」

 アリサは何も言わずに図書館の方角を見た。

「アリサ姫。姫は聖剣に選ばれた人間なんだぜ。それだけの力量があるからこそ神が選択してくれたのさ。自信を持ちなよ」

「あんたは苦労がなくてうらやましいわ」

 振り返ったアリサは小さく微笑んでいた。


「じゃあ、タケルの指輪は、どんな理由で神様がくれたのかしら」

「これは俺に大陸を統一しろと言っているのさ。このソロモンの指輪がなくても支配できるんだけど、神様も暇じゃないんで、ちゃっちゃと大陸を手に入れて大陸王になっちゃえなっちゃえよ、ということ」

 タケルは左手を上げて中指にはめている指輪を見た。

「あんたが大陸王になるの?」

 フフフとアリサは鼻で笑う。

「まあ、面倒くさいので大陸王はアリサ姫に譲るけどね。俺はアリサの横にいて手助けするだけにしよう」

「キャハハハハハ!」

 アリサは、すっかり安定した気持ちを取り戻していた。


「そろそろ出発しましょうか」

 アリサが言うと、アルベール副官が全員に号令をかけた。

 一行はシュバーセン校長がいるはずの図書館に向かう。


 しばらく走ると、二階建ての図書館が見えてきた。

 その入り口には数台の馬車が停まっており、荷物を積み込んでいる。


「シュバーセン校長!」

 恩師の姿を見つけてアリサが馬車から飛び降りる。

「おお、アリサ君ではないか! どうして、ここに?」

 荷物の積み込みを指示していた校長が驚いてこちらを見た。

「トルーナン王国の命により、校長をお助けに参りました。よくご無事で……」

 右手を上げて敬礼するアリサ。

「そうか、よく来てくれた。ああ、タケル君も一緒か……」

 別れてから1ヶ月くらいしかたっていないが、校長は懐かしそうな眼をしていた。大柄な体で、長く伸びているひげは、80を超える年齢のせいで真っ白になっている。


「話は後にしましょう。シュバーセン校長、すぐにでもトルーナン王国に来てください」

 タケルが催促する。しかし、校長は首を横に振る。

「いや、ダメじゃ。この図書館の書物をすべて持っていかなければ」

 校長は図書館長を兼ねていて、蔵書をこよなく大事にしていた。

「そんなことを言っている場合じゃないんですよ。すぐ近くまでガルガントが迫っているかもしれないんです」

 ひっ迫した声でアリサが訴える。

「いやしかし、ここには大陸全体の歴史など、宝のような資料があるんじゃよ」

 しわだらけの顔を曇らせて言う。その声からは、絶対に譲ることはできないという覚悟が伝わってきた。本を置いていくくらいなら死んだほうがマシという心情が明白。

「でも、でも……」

 もどかしさで泣きそうな表情になるアリサ。


「確かに図書館の資料は持ち帰った方がいいかもな……」

 腕組みしたタケルが言った。

「でも、ガルガントが……」

 すがるようにアリサがタケルに視線を送る。

「将来、アリサ姫が大陸王になるのなら大陸各地の政治的、地理的な資料が必要になる。そのときに図書館の書物は有効だ」

 タケルの言葉にアリサは目を見開く。

「こんなときに、何をバカなことを言ってんのよ! 冗談は暇なときにしてよね」

 声を荒げて怒った。

 しかし、タケルとしては冗談を言っている気はない。


 その時、マリアが馬に乗って戻ってきた。

「大変です、アリサ姫! まもなくガルガント軍がやってきます」

 馬から降りたマリアは息を切らしており、服は乱れて胸元から鎖かたびらが覗いていた。

「ああ、どうしよう……」

 アリサは五月晴れの空に視線を泳がす。

 そして、それは引き付けられるようにタケルに行った。

「ねえ、タケル。どうすればいい?」

「とにかく、兵に命じて本を馬車に積み込ませよう」

 いつものようにタケルは平静。

「でも……」

「そして、時間稼ぎをしなくちゃな」

「時間稼ぎ?」

 首をかしげるアリサ。

「ああ、アリサ姫には一肌脱いでもらわないと」

 そう言って、タケルはニヤリと笑ってアリサを見た。


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