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5,釣り


 聖剣ビジブルが沈んでいる沼。そのほとりにタケルたちが集まった。

 夕暮れが近づき、森の木々をかいくぐった木漏れ日が、そこに集まった皆をチラチラと照らす。


 そこにはタケルとアリサ姫、それにアレクサンドルとビアンカがいた。

 さらに後方にエトラートの一行がいて、タケルの準備ができるのを待っている。


「おい、タケル。さっさとしろよ」

 イラついた声で催促するエトラート。

 山賊との戦いで死亡した兵の埋葬など、やるべきことは多いはずなのだが、彼にとっては聖剣の方が大事なのだ。


 タケルは「ハイハイ」と適当に返事をして、釣り竿の糸に磁石を結びつけた。

 アレクに手伝ってもらい、タケルは磁石を沼に放り投げる。

 しばらく糸が引かれるままにしておき、磁石が聖剣の近くまで沈んだ時に糸を止めて釣竿を左右に揺らした。


「早く聖剣を引き上げろ」

 エトラートが腕組みをして催促する。

「うるさいな、気が散る。剣が底なし沼に沈んでも知らないぞ」

 泥水の水面下10メートルに引っかかっている剣を把握するのはタケル以外に不可能。エトラートは口を結んでジッと待っているほかない。


「よし、くっついた」

 そう言ってタケルは、ゆっくりと糸を手繰り寄せる。

 しばらくすると、磁石にくっついている銀色のビジブルが姿を現した。

「おおー」

 一同から感嘆の声が漏れる。

 タケルは注意深く剣を手元に近づけると、磁石から剣を放して高く掲げた。


「よし、ご苦労だった。剣をよこせ」

 エトラートが右手を伸ばして近寄ってきたが、タケルはニヤリと笑って首を横に振る。

「確か約束したよなあ」

「なんだよ……」

「アリサ姫との決闘に負けたら何でも言うことを聞くという約束だよ」

「そうだったかな……」

 エトラートの顔が曇る。

「約束しただろう。とぼけるつもりなら剣を沼の真ん中に放り投げるぞ」

 タケルは聖剣をつまんでブラブラと振った。

「分かった! やめろ、いうことを聞く」


 それを聞いて、嫌らしい笑い顔を浮かべるタケル。

「じゃあ、沼に入って四つん這いになれ」

 腕に包帯を巻いているケビンが激昂する。

「貴様! 何を言っている。栄光あるエストリア王国の第一王子であるエトラート様を愚弄するか!」

 ケガしていなかったら剣を抜いてかかってくるだろうな、という勢いの副官。

「だったら、いいんだぜ。これは沼に捨てちゃおうっと」

 タケルはおおきく振りかぶって、剣を投げるそぶりをする。

「分かった、分かった。言うことを聞くから……」

 エトラートは顔をゆがめてジャブジャブと沼に入っていった。

「よし、ズボンを下げろ」

「はいー?」

「ズボンを下げろって言ってんだぜ。僕ちゃんよお」

 そう言ってタケルは剣を乱暴に振り回す。


「くぅー……」

 エトラートはベルトを外してズボンを下ろした。

「キャ」と小さく叫んでビアンカが目を背ける。

 白いトランクスをアリサたちにさらしながら、エトラートは両手を泥水の中に入れてワンワンスタイルになった。

「これでいいだろ。剣を返せ、タケル」

「いーや、まだだね。悪い王子様にはお仕置きが必要ですよね」

 タケルは剣を振り上げると、その腹でエトラートの尻を打った。

 バチーン!

「ぎゃあ!」

 苦痛に顔を引きつらせてタケルをにらむ。

「それはアリサ姫を殺そうとした分。そして、これは俺を殺そうとした分」

 バチーン!

「うぐー!」

 痛さでのけぞるエトラート。


「おーい、みんな見てみろ。こいつケツを突き出してワンワンスタイルになっているぜ。バカみたいだなー」

 からかうタケル。

「お前がやらせたんだろうが!」

、激怒したエトラートは立ち上がってタケルにつかみかかってきた。

 しかし、下げていたズボンが足首に絡まり、エトラートは大きな水音をたてて泥水に転んだ。


「僕ちゃんよお、そんなことをして良いんでチュかあ。この聖剣ちゃんをなくしたらパパに怒られまチュよねえ」

 タケルが少し興奮して、赤ちゃん言葉になっている。

「さっさとワンワンちゃんになるですよ」

 ニヤリと笑っているタケルの目がぎらつく。


「くぅー!」

 起き上がって、また四つん這いになった。

 それが人間の顔か、というくらいにエトラートの表情はゆがんでいる。

「これは山賊と戦ってあげた分」

 バチン!

「ぐおー!」


「そして、これはおまけでチュ」

 バチーン!

「くぎゅー!」

 痛さをこらえ、息を荒くしているエトラート。


「もういいじゃない。剣を返してあげなさいよ」

 見かねたアリサがタケルに言った。

「……まあ、こんなもんか」

 タケルは剣をエトラートの前に放り投げた。

 剣が落ちた時の水しぶきがエトラートの顔面にはねる。

「コノヤロー!」

 エトラートは剣を持つとタケルに襲いかかった。だが、下がっていたズボンに足を取られて泥水に突っ伏しってしまう。手を離れた聖剣が宙を飛んで沼に水音を立てた。

「タケルー! お前は殺す。絶対に殺してやるぞ」

 上半身を起こして親の仇のように睨む。


「それはいいけど、聖剣はいいのか? どんどん沈んでいるぞ」

 タケルは沼を指さす。

「あー!」

 エトラートは立ち上がり、あわてて聖剣の方に向かおうとするが、またズボンが足に絡んで転んでしまった。

「エトラート様!」

 ケビンが駆け寄ってくる。

「探せ! 聖剣を探すんだあ!」

 エトラートが大声で命令する。

 ケビンと部下たちがジャバジャバと沼に入って、手探りで聖剣ビジブルを探した。


「さあ、帰ろうか」

 タケルは沼から出た。

「放っておいていいの?」

 アリサが目を細めて、剣を捜索しているエトラート達を見る。

「ああ、いいさ。剣は浅瀬に落ちている。時間をかければ見つかるだろう」

 タケルが軽く言った。

「俺も腹が減ったぜ。今日は色々あったからな」

 アレクがにこやかに笑う。


 タケルたちは必死に沼をかき回しているエトラート達を尻目に、夕暮れの道をゆっくり帰っていった。


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