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「はあ……」
エントランスに戻ってベンチに座り、ぼくたちは同じタイミングでため息をついた。
そこにワイシャツを着た男の人が通りかかる。首から名札がかかっている。
図書館で働いている人だと気づいた陽平くんは、立ち上がって聞いた。
「すみません! キサラギジャックを知りませんか?」
大きな声で呼び止められたその人は、顔をギョッとさせる。
それからすぐに目を細めてこちらを見てくる。
「なにそれ? マンガのキャラクターかい?」
「キサラギジャックは、この町のヒーローだよ」
「この町のヒーロー? いやいや、そんな名前のヒーローは知らないよ」
「キサラギジャックはいるよ。ぜったいにいるんだ」
「本当にいるって言うのなら、2階で調べてみたらどうだい?」
名札をかけた男の人は去ってしまった。
残されたぼくらは、その場に立ちつくす。
陽平くんは、くやしそうに歯を食いしばる。
なんと声をかけたらいいかわからず、ぼくは右に左に視線を泳がせるだけ。
こんな時キサラギジャックならどうするだろう。
ぼくは、友だちになにもしてあげられない。
なにかした方がいいとわかっているのに、なにをしたらいいのか思いつかない。
うじうじと悩むばかりで答えが出てこない。
「よし! 行くぞ!」
「え? 行くってどこへ?」
「決まってるだろ。2階の図書館でキサラギジャックのことを調べるんだよ」
陽平くんは、ニカッと笑う。
その顔からは、ぜったいに見つけてやるという強い気持ちが伝わってくる。
階段をのぼると、右を向いて左を向いてもたくさんの本がズラーッと並んでいた。
「これならキサラギジャックのことが書かれている本が見つかるかもしれないよ」
『図書館ではおしずかに』というきまりがあるから小さな声で話す。
陽平くんはなにも言わない。しかも顔色が青くなっている。
ずっと息を止めて水の中にもぐっている人みたいだ。
「だ、だいじょうぶ?」
聞いてみたけれど、だれがどう見てもだいじょうぶではない。
ここにある本棚すべてから1冊ずつ手分けしてさがしていたらダメだ。
そんなことをしたら陽平くんが本の海におぼれてしまう。
なにかいい方法はないかと見回すと、入口のすぐ近くにパソコンが置いてあった。
そうだ、これを使おう。
ぼくはパソコンの前のイスに腰かけて文字を打ち込む。お父さんやお母さんは両手でカタカタできるけれど、ぼくは一本指で一文字ずつしか入力できない。
それでもキ、サ、ラ、ギ、ジ、ャ、ッ、ク、と最後まで打ち込むことができた。
「拓也、パソコンが使えるのか?」
陽平くんがおどろいた様子で声をかけてくる。
「うん。前に住んでたところの図書館にもパソコンが置いてあったから」
「おれ、パソコンなんて使ったことないぜ。拓也はすごいな」
「ぜ、ぜんぜんすごくないよ」
これくらいなら練習すればだれでもできる。
ぼくは、胸のおくがむずむずして、はずかしくて笑ってごまかす。
「おれがすごいと思ったんだから、拓也はすごいんだよ。それでいいだろ?」
ニカッと笑った顔を見て、またホッとした。
「……うん。ありがとう、陽平くん」
返事をしてからパソコンに向き直る。
そして検索ボタンを押す。