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この夏、ヒーローを見つける  作者: 川住河住
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図書館

 自転車を止めて空を見上げる。今日もまっ赤な太陽がのぼっている。

 日光がサンサンとふり注ぎ、ぼくの肌をじりじりと照りつけている。

「今日も暑いなぁ」

 図書館の玄関前まで来ると、ガラスの自動ドアが小さな音をたてて開く。

 中に入るとすずしい空気が、ぼくのあつくなった体を冷やしてくれる。

 左には城江津市(じょうえつし)の郷土資料室があり、右にはいくつも部屋がならんでいる。

 正面には大きな階段があって木の香りがする。ぼくは、お父さんとお母さんといっしょに行った温泉を思い出した。たしかあれは、ひのきという木だった。

 この階段に使われている木は、なんていうんだろう。

「おーい拓也。こっちだ、こっち」

 おくから陽平くんの声が聞こえてきた。

 階段をのぼらず、おくへ向かうと、ベンチやソファーが置かれている場所がある。

「キサラギジャックの手がかりをさがすぞ!」

「あの、図書館では、もうすこし声を……」

「気にするなよ。ここはエントランスだから話してもだいじょうぶだ」

「そうなんだ。陽平くんは図書館にくわしいんだね」

「いや、ぜんぜん」

「え?」

「本ぎらいなおれが図書館に来ると思うか?」

 言われてみればそうだ。陽平くんは、小学校の図書室でさえ寄りつかない。

「でも、本がきらいなのに図書館に来てもだいじょうぶ?」

「いくら俺が本ぎらいでも、本アレルギーってわけじゃないぜ? 本を読むとくしゃみをしたり泣いたりするわけじゃないからな。そこんとこかんちがいするなよ?」

「そうだよね。そうでなかったら教科書も読めないもの」

「おれは本がきらいだし、できれば見たくもない。でも、キサラギジャックをさがすためなら図書館が一番だからな。それに、ここなら本を読まなくても調べられる」

「本を読まずに調べる?」

 陽平くんはニカッと笑う。

 そして右手の人差し指をまっすぐ向けた。その先には、郷土資料室がある。

「キサラギジャックは城江津市のヒーローだ。なら、あそこに手がかりがある!」

「うーん、見つかるかな……」

 この町のヒーローと言うわりに、キサラギジャックのことを知る人はすくない。

 ぼくをのぞけば、ヤクシのおじいさんと陽平くん、黒田くんの3人だけ。

 父さんや母さんにも聞いてみたけれど、知らないと言っていた。

「そういえば、キサラギジャックという名前をつけたのはだれなんだろう」

 だれもその姿を見たことがないのに、どうして名前がついてるんだろう。

 名前をつけたのは、やっぱりヤクシのおじいさんなのかな。

「ああ、おれも気になってたんだよ。だれも見たことがないのに、どうして名前なんてついているのか。それで、じいちゃんに聞いてみたんだよ。そしたら……」

「そしたら……?」

「忘れたってさ。いやあ、聞いたのがおそすぎたな。その時には、じいちゃんも仕事をやめていたし、もの忘れもひどくなってたから」

 ぼくは、がっくりと(かた)を落とした。

 キサラギジャックが本当にいるのかどうか、どんどんわからなくなる。



 ぼくらが資料室に足をふみ入れると、いろいろなものが(かざ)られている。

「なあ拓也。これ見ろよ」

 先を歩いていた陽平くんがなにか見つけた。

 急ぎ足で向かうと、大きくて透明なガラスケースの中には()(じく)がある。

「これ、もしかしてキサラギジャックが書いたんじゃないか?」

 陽平くんは目をキラキラと(かがや)かせている。

 ぼくは、()(じく)のわきに書かれていた説明に目を向ける。

「ううん。これは、昔のえらい人が書いたものみたい」

「だよな。やっぱりそうだよな」

 陽平くんは肩を落とした。

 けれど、すぐにとなりへ移動してまた目をキラキラさせる。

「おっ! これは、キサラギジャックのスーツじゃないか!」

「えっと、これは……」

 むかしの人が着ていたよろいをスーツというのは、どうしても無理があった。

 陽平くんもわかっていたみたいで、なにも言わずに移動する。

 それからふたりで資料室をまわって見た。

 古い書物や工芸品などいろいろある。

 これならキサラギジャックに関するものもあるかもしれない。

 ぼくはそう思ったし、陽平くんも同じことを考えていたと思う。

 けれど、そういったものはひとつもなかった。

 仕方なく次の部屋に行こうとしたら……行き止まり。

 つまり、そこが最後の部屋だった。


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