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この夏、ヒーローを見つける  作者: 川住河住
18/25

先まわり

 どういうことだろう。

 ぼくらは図書館を出てから寄り道せず、ヘビ山までまっすぐ来たはずだ。

 それなのに、どうして……?

「こんにちは、陽平くん。拓也くんは、さっき会ったばかりね」

 どういうわけか目の前には、みらいさんが立っている。

 しかも、すごくおこっているのがわかる。

「なんで……?」

 陽平くんが言った。なんでここにいるのかってことだと思う。

「どうやって……?」

 ぼくが言った。どうやって先に出発したぼくらより早く着いたのか。

 なんでみらいさんがここにいるのか。

 どうやってぼくたちより早くここにやってきたのか。

 その答えは、ぼくらの目の前にあった。

 ヘビ山の入口には、水色の自動車が止められている。

 その前にみらいさんが立っている。

 車もみらいさんも、ぼくらを通せんぼしているように見える。

 つまりみらいさんは、ぼくらをヘビ山に入れさせないため自動車でやってきたのだ。

 小学生が乗る自転車と大人が乗る自動車。

 同じ目的地に向かった場合、どちらが早く着くか。その答えは、だれでもわかる。

「わたし、言ったよね。あぶない場所に行ったらいけないって。それなのに、どうしてここにいるのかな」

 いつものやさしいみらいさんじゃない。顔も、声も、すごくおこっている。

「い、いやあ、ヘビ山って近所だから。おれにとっては、ぜんぜん、(あぶ)なくないし」

「あの、みらいさんは、図書館の仕事はいいんですか?」

「拓也くん。質問は、わたしがしているんだよ?」

「ご、ごめんなさい……」

 みらいさんを見ると、ぼくはドキドキが止まらない。

 けれど、今のドキドキは、ぜったいにときめきじゃないってことだけはわかる。

「まあいいか。教えてあげます。さっき拓也くんがわたしと話していた時、最後に言ったよね。キサラギジャックに会わせてみせますって」



 ハッとして思い出す。たしかに言った。

 言ってしまったことに今さら気がついた。

「なんかあやしいと思ったのよ。それで下をのぞいたら、陽平くんと話しているところが見えて、すべて聞こえてしまったから」

 みらいさんは、うっかり『ヘビ山』と言ってしまった。

 ぼくもうっかり『会わせてみせます』なんて言ってしまったらしい。

 そんなことを言ったらだれだって不思議に思うに決まっているのに。 

「1階のエントランスだからって大きな声で話せば2階まで聞こえちゃうよ?」

 どうしよう。ぼくのうっかりミスでキサラギジャックさがしがバレてしまった。

 ごめん、陽平くん。ほんとうにごめん。

 きっとおこっているだろうと思って、おそるおそる彼の方を見る。

 けれどそこには、いつものニカッと笑う、ぼくのヒーローがいた。

「バレてしまったならしょうがない。そうだよ。これからおれたちは、キサラギジャックに会いに行くんだ!」

 陽平くんは、自信満々に言ってみせる。

「あのね、陽平くん。何度も言っているけど、子どもだけでヘビ山に入ったらいけないの。とってもあぶないから。小学校の先生にも言われなかった?」

「でもさ、おねえさん。ここにいるのは、子どもだけじゃないぜ?」

「もう、きみはなにを言ってるの……あっ!」

 みらいさんがなにか気がついたみたいだ。

 どうしたのだろうと思ったけれど、おくれてぼくも気づいた。

「あっ! 本当だ」

「な? おれと拓也は子どもだけど、おねえさんは大人だろ?」

「ちょ、ちょっと待って。なにを言ってるの?」

「おねえさんは言ったよな。子どもだけでヘビ山に入ったらいけないって。でも、おねえさんは大人だ。なら、おねえさんといっしょにヘビ山に入るのはいいってことだよな?」

「ダ、ダメ! ぜ、ぜったいにダメだからね!」

「えぇ~。おねがいだよ、ちょっとだけでいいからさ~」

「みらいさん! おねがいします! いっしょにヘビ山へ入ってください」


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